第21話 嫉妬

中須賀 花梨「あっ。木越君だ」


 廊下を歩いていたら中須賀は偶然にも俺を発見したようだ。俺を発見しただけで表情は明るくなる。


俺「ああ。ありがとう」


 廊下でクラスメイトの女子から採点済み小テストのプリントを渡された。どうやらその女子は書類の配布係のようだ。ちなみに名前の知らない女子だ。


中須賀 花梨「むっ。木越君が私以外の女子と話してる」


 手短に俺が女子生徒と言葉を交わしたシーンを目にし、中須賀は不満そうに少し頬を膨らませる。わずかに不機嫌そうだ。


中須賀 花梨「あれ? どうして私、木越君が他の女の子と話してるだけで。もしかして身体がおかしくなったのかな? 」


 中須賀は自身の胸に手を当てる。鼓動を確認しているようだ。


 鼓動を確認している間、ほんのり頬は赤い。


俺「どうした中須賀。呆然として」


 中須賀を発見した俺は率直な疑問を投げ掛ける。疑問を投げ掛けたのは、中須賀らしくなかったからだ。


中須賀 花梨「えっ。木越君。私、呆然としてたかな。あははは」


 頭の後ろに手を添え、わざとらしく作り笑いを浮かべる中須賀。


俺「はぁ…」


 中須賀の言動に違和感を覚え、脳内にクエッチョンマークが誕生する。


中須賀 花梨「ど、どうしたの木越君? 私の顔をジッと見つめて。何かついてるかな? 」


俺「いや……なんでもない」


 普段の中須賀と様子が異なるため注視してしまった。流石に変だと思われただろう。


中須賀 花梨「も、もしかして私に見惚れてたとか。ないよね! そんなこと!! 自意識過剰すぎるよね私!!」


 両手をバタバタさせながら否定する中須賀。顔も真っ赤になっている。


俺(こいつってこんな奴だったか?)

 

 目の前にいる中須賀はいつもと違い、どこか落ち着きがない。挙動不審気味である。それに顔も赤い。不思議だ。


俺「もしかして熱とかないか? 」


 廊下にも関わらず、俺は中須賀の額に手を当てる。ツヤのある中須賀の髪越しから体温を測定する。


中須賀 花梨「ひゃう!?」


 驚いたのか。中須賀はビクンと身体を震わせる。


 俺の手が触れたことに反応を示したのか。中須賀の顔はみるみると赤く染まっていく。


 俺には中須賀の反応の意味がよく分からず首を傾げる。


「熱は無さそうだな。よかった」


 一旦安堵し、俺は中須賀の額から手を離す。


 周囲を確認すると、幸運にも廊下に生徒達は見受けられない。そのため目撃者はいなかった。


俺「おい。どうした中須賀」


中須賀 花梨「木越君の手が私のおでこに。…私のおでこに…」


 完全に中須賀は放心状態に陥っていた。先程からぶつぶつ独り言を繰り返している。


俺「おい! 大丈夫か! 」


 中須賀の両肩に手を置き、軽く揺する。


中須賀 花梨「か、肩まで触られて…。木越君の温もりがいっぱいに……もぅ無理ぃぃ~」


 俺を置き去りにし、廊下を駆け足に中須賀はその場を立ち去る。そのまま異常なスピードで自身のクラスに帰っていた。


俺「何なんだ一体」


 1人取り残され、俺はぼそりと呟いた。

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