第23話 自宅から一緒に登校

 ピーンポーン。


 俺が学校の支度を終えたタイミングで自宅のドアファンが鳴る。


 母親はパートで早朝から仕事に出ているため、俺が来客に対応する。誰なのだろうか。


 ドアフォンの画面で来客を確認する。


 ドアフォンを一点に見つめる見慣れた美少女の姿があった。


俺「…中須賀か。何で俺の家を知ってる? そうか以前に1度来たことがあったな」


 1人で納得し、廊下に向かう。


俺「は~い」


 普段靴を足に通し、自宅のドアを開放する。


 制服姿の中須賀が眼前に現れる。


中須賀 花梨「…来ちゃった」


 にこっと頬をわずかに赤くしながらも満面の笑みを浮かべる。俺の顔を視認して非常に嬉しそうだ。


俺「…そうか…」


 表情筋に力を込め、緩みそうな頬を意地で抑える。


 その笑顔は反則だろ。


 中須賀が学年1の美少女と呼ばれる理由。思い知らされた気がする。


中須賀 花梨「なにその素っ気ない態度! 彼女が自宅に迎いに来たんだよ! 嬉しくないの! 」


 不満そうに中須賀は頬を膨らませる。何かしら好意的な反応が欲しかったのだろう。


俺「…正直…うれしいよ」


 さっと俺は視線を逸らす。中須賀の目を見て言えなかった。彼女の可愛らしい顔が眩しすぎる。


中須賀 花梨「ふふっ。ならよかった」


 満足したのか。中須賀は微笑んだ。


 またその表情が絵になる。こいつは策士なのか?


俺「すぐに準備するから。玄関で待っててくれ。2分も待たせない」


中須賀 花梨「は~い」


 中須賀を自宅に迎え、玄関に通す。


 リビングに置いた状態のカバンを取り、俺は玄関に帰還する。


俺「準備は完了だ。一緒に登校するんだろ? 行くぞ」


 再び普段靴を足に通し、中須賀と共に、俺は自宅を後にする。


俺「カギを施錠してっと」


 施錠したカギを学生カバンの定位置に仕舞い、中須賀と学校に足を運ぶ。


俺「…」


中須賀 花梨「…」


 歩き始めて数秒。並んで歩いてはいるが、2者間で会話は無い。


 なにを話せばいいか見当もつかない。


 中須賀が恋人になったのは昨日だ。


 友達から恋人に間柄が変わって1日も経っていない。今まで自然と交わしていた会話も難航する。


 緊張して言葉も出てこない。


中須賀 花梨「緊張してる? ちなみに私はしてるよ。それとドキドキもしてる」


 心臓に手を当てながら、上目遣いで中須賀は俺の目を覗き込む。その中須賀が可愛らしく魅力的に映る。


俺「恥ずかしいが緊張してる。もちろんドキドキもしてる」


 正直な気持ちを吐露する。中須賀と目が合って一段とドキドキが増す。


 ドクンッドクンッ。心臓の鼓動が加速する。呼応して体温も上昇する。


中須賀 花梨「ふふっ。一緒だね。恋人同士が同じ感情を抱いてる。なんか嬉しい」


俺「そうか…」


 素っ気なく対応する。恋愛経験が無い人間の精一杯の対応だ。


中須賀 花梨「ねぇ。恋人らしく手を繋がない? そうすれば緊張が和らぐかも 」


 ぎこちなく左手を差し出す中須賀。


 その差し出された手を俺は凝視する。


 中須賀の手は小さくて細い。だが純白でシミやほくろなども存在せず、きれいな手だ。人間の理想の手と言っても過言ではないだろう。


俺「恋人1日目で手を繋ぐのか? 早くないか?」


 俺は率直に問う。恋人になって1週間で手を繋ぐイメージは無かった。せめて1週間経過して繋ぐものだと勝手に思っていた。


中須賀 花梨「早いか遅いかは分からない。私も恋愛経験浅いからね。でも私は彼氏のあなたと今すぐでも手を繋ぎたいの。あなたの温もりを感じたいの」


 可愛すぎるだろ俺の彼女。今すぐ手を繋ぎたいって、インパクトが強すぎる。


 ゴクッ。


 俺は生唾を飲み込む。俺も男だ。勇気を振り絞って行動しろ。


俺「そうか。じゃあ中須賀の希望を叶えないとな」


 俺はちらっと中須賀の左手を視認し、優しく握る。


 恋人つなぎではなく握手するような握り方をする。恋人つなぎは、まだ早すぎる。


中須賀 花梨「あっ…」


 一瞬驚いた声を漏らす。だがすぐに満足した顔に変わる。


中須賀 花梨「ふふっ。ありがと! 私の彼氏さん」


 俺の握られた左手を見つめ、小さな声を漏らす中須賀。


俺「大したことはない。中須賀のためだ」


中須賀 花梨「っ。相変わらず優しいね! 」


 中須賀は俺の右手を強く握り返す。


 おいおい。これって放置はダメだよな。ダメだよな恋愛の神様。


 直感に従い、俺は彼女の左手を握り返す。


 中須賀は満足したように前を向く。


 そのまま、ご機嫌そうに鼻歌を歌い始める。

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