第22話 初めての告白

俺「今日は落ち着きがないな。どうしたんだ? 」


 俺は中須賀と帰路に就きながら、気になる疑問を投げ掛ける。


 休み時間に遭遇したよりも一段と中須賀は、らしくない。常にソワソワしている。その上、緊張しているのか。俺と目も合わせない。仄かに頬まで赤く染める。意味が分からない。


俺「おい。中須賀聞こえなかったのか? 」


 俺は語気を強める。


中須賀 花梨「ふぇ。ど、どうしたの木越君? 」


 ようやく気付いたらしい。目もあった。まったく。今日の中須賀はどうかしている。


俺「もう1度言うぞ。今日は落ち着きがないみたいだが。どうしたんだ? 」


中須賀 花梨「そ、そうかな。私はいつも通りだよ」


 俺から視線を逸らし、中須賀は素っ気なく答える。どうやら正直になってくれないらしい。態度から嘘をついているのはバレバレだ。


俺「そうか。まぁ言いたくないなら言わなくていい。そこまで追求する必要もないからな」


 今思えばしつこく聞くことで中須賀の迷惑になる可能性もある。深入れしすぎたもしれん。反省反省。


中須賀 花梨「…木越君のバカ…」


 ボソッと呟き、突然、中須賀は立ち止まる。


俺「はぁ? バカとは何だよ」


 中須賀の悪口に顔をしかめ、振り返る。


 中須賀は住宅地に接する道の中央で佇む。


中須賀 花梨「バカだよ! すごく頭が良くてカッコいいのに。にぶちんなんだから! 私の気持ちも知らないで! 」


 珍しく大きな声を上げ、中須賀は不貞腐れてしまう。


俺「…すまない。何か気に障ったら謝る。でも俺には思い当たる節がないんだ」


 中須賀の態度に動揺を隠せない。中須賀が怒ったかもしれないと思うと気が気でない。申し訳ない気持ちになる。


 にぶちん。俺の何が鈍いんだ。それに頭が良くてカッコいい? いやいや過大評価しすぎだろ。


中須賀 花梨「バカ! 落ち着かないのは木越君のことを考えてるからだよ! 木越君が近くにいるからソワソワしてるんだよ! 」


俺「は、はぁ。それでなぜだ? 」


 見当もつかない。


中須賀 花梨「っ。…そ、そんなの。木越君のことが好きに決まってるからだよ! はっ———」


 我に返ったのか。急いで中須賀は両手で口元を覆う。だが既に手遅れだ。先ほどの中須賀の言葉は俺に十分過ぎるほど伝わる。


俺「中須賀が俺のことを好きだと。…本当に言ってるのか? 」


 信じられない。夢でも見てるようだ。現実だよな。あの学年1可愛い中須賀花梨が俺に好意を抱いている。

 

 右頬を強く引っ張る。うん痛い。現実だ。


 中須賀 花梨「うん。私は木越君のことが好き。2回も女の子に言わせないでよ。それと私のファースト告白なんだからね。…責任取ってよ」


 中須賀は両手から口元を解放する。


 今まで告白を受け続けた中須賀が初めて自分から告白したのだろう。


 その相手が俺。まじかよ。


中須賀 花梨「そ…それで返事はどうなの? 」


 紫の瞳を揺らしながら、純白の頬を赤く染める中須賀。気を紛らわすためか。サイドの黒髪を耳に掛ける。その仕草が妙に色っぽい。


俺「…はい」


 俺の返事は1つしかなかった。断る理由もなかった。中須賀のために自然と行動ができた。三宅に苦痛を与えるために中須賀に悪知恵や指示を与えてきた。


 最初は自分のためだった。でも途中から不思議と中須賀のために動いていた。


 そして告白されて気づいた。俺は中須賀に惚れていた。この気持ちに偽りは存在しない。


 だが本当に大丈夫なのだろうか。俺への好意は一時的なものではないだろうか。


 そういった不安も残る。


中須賀 花梨「ほ、本当に。本当に本当だよね。やったー! 」


 俺の胸中とは対照的に中須賀は子供のように、はしゃいでいた。


 その姿が俺には非常に眩しく映った。

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