第28話 待ち合わせ
俺「よし! まだ中須賀は来てないみたい」
俺は岡山駅の東口噴水辺りで待機する。噴水は東口では非常に目立つ存在である。
土曜日の今日は中須賀と初めてのデート日だ。中須賀に誘われたのだ。
俺はネルシャツにチノパンと、シンプルな服装だ。
学校以外に普段は滅多に外出しない。そのため、身に纏う私服に違和感を拭えない。
ナンパ男「ねぇねぇ。君、超可愛いねぇ。俺と一緒に楽しいことしねぇ」
金髪のチャラい男が姿の見えた中須賀をナンパし始める。
中須賀 花梨「すいませ〜ん。先約がいるんです」
柔和な笑みでやんわり断る。
だが、その態度がナンパ男を興奮させる。
ナンパ男「いいねぇ。優しい対応だなぇ。俺の気分が上がっちゃうなぇ。そんなこと言わずに、俺と遊ぼうよ!ダメ? 」
ナンパ男は粘る。
中須賀 花梨「待ち合わせをしてるので、そろそろいいですか? 」
危機感を感じたのか。中須賀は逃げ出そうと試みる。だが、ナンパ男が立ち塞がる。困ったように中須賀は苦笑いを浮かべる。
これはまずいな。中須賀に危険が及ぶ可能性があるかな。
俺「すいません。先約は俺なのですが。ナンパ諦めてもらっていいですか? 」
俺は中須賀のヘルプに入る。
俺の顔を視認した中須賀は顔を明るくする。嬉しそうに頬が緩む。
ナンパ男「あ? 先約だぁ? 確かにこの子はそんなこと言ってたな」
ナンパ男は苛立ちを隠せない。ナンパを邪魔されたくない。そんな感情を抱いたのだろう。表情から見て取れる。
中須賀 花梨「ごめんなさい! 彼、私の彼氏なんです。だから粘着質な誘いには乗れないです! 」
中須賀は俺の腕に抱きつき、皮肉を口にする。
ちょっ。今回も当たってるよ。柔らかい脂肪の塊が2つも当たってるよ。俺の理性がゴリゴリ削られるよ。
不覚にも幸せな気分を感じてしまう。女の胸は男をダメにしてしまう。
中須賀 花梨「さっ! 行こ! 私の彼氏さん! 」
俺の腕に身を任せ、満面の笑みを浮かべる中須賀。
俺と中須賀は腕を組みながら、その場から立ち去る。
去り際にナンパ男の舌打ちが聞こえてきた気がする。気のせいだろう。
とりあえず、ナンパ男からは逃れる。
中須賀 花梨「ありがとぅ~。助かったよぅ」
未だに離れず、俺の腕に中須賀は頭をすりすりする。中須賀のツヤある髪が皮膚に触れ、くすぐられる。
俺「大したことはしていない。中須賀が無事ならいい」
照れ隠しで素っ気なく応答する。俺の頬はわずかに赤く染まる。
中須賀 花梨「ふふっ。照れちゃって。可愛いね」
俺の赤面を見て微笑んだ。すべてお見通しのようだ。
俺「揶揄うなよ。早くイヨンに行くぞ! 」
中須賀 花梨「素直じゃないな~。まぁ、いいかな」
俺は中須賀を引っ張るように、目的地であるイオンへと向かう。
中須賀 花梨「初めてのデートだね。緊張とか、してるのかね? 」
中須賀が男口調で尋ねる。
俺の心を見透かしたような発言だった。心臓が大きく跳ね上がった。まさか心の声が漏れていたのか? 不安ながらも返答した。
俺「そんなことは断じてない。緊張などするはずがない。初めてのデートだと言っても相手は同級生。中須賀だから問題ない」
動揺が口調に現れる。
中須賀 花梨「あはは。図星だったんだ」
中須賀は口元を押さえて笑う。思わず噴き出した様子だ。
俺「わ、悪いかよ! 初めてのデートに緊張してよ! 」
羞恥心に駆られ、無意識に声を荒らげる。戸惑いと動揺が言葉に帯びる。
中須賀 花梨「悪くないよ。私も同じ気持ちだから」
俺「…」
無言でジト目を向ける。
中須賀 花梨「私の胸の鼓動を確認してみなよ? 心臓が早く鼓動してるよ」
中須賀は自身の胸を指差す。
俺と中須賀は隣を歩きながら、見つめ合う。
俺「…遠慮しておく。中須賀の言葉を信じる。それに、もうイヨンに到着する」
流石に現時点の関係で中須賀の胸を触るわけにはいかない。そんな度胸や勇気も無い。
中須賀 花梨「残念。じゃあ、この辺でお話は切り上げようか」
俺「そうしてくれ」
話は途切れ、俺達は、岡山駅最寄りイヨンの入り口に差し掛かった。これから初めてのデートが本格的に始まろうとしていた。
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