第27話 教室であ〜ん

中須賀 花梨「はい木越君! あ~ん」


 中須賀は隣の席に座り、俺の口元に卵焼きを差し出す。どうやら隣の席のクラスメイトが、席を譲ったようだ。


中須賀 花梨「私の手作りだから。美味しく食べて欲しいなぁ」


 中須賀お手製の卵焼きが、俺の口元に軽く触れる。わずかに卵の甘い風味が漂う。


俺「美味しくいただくよ」


 卵焼きを口に咥え、咀嚼する。卵焼きの甘さが口内に充満する。


俺「うん! 美味しい!! 」


 思わず感想が漏れる。自然と言葉を紡ぐ。絶品な味である。


中須賀 花梨「本当に! 嬉しい! もっと褒めて欲しい! 次はタコさんウインナーを食べて欲しい! 」


 差し出されたタコさんウインナーを口に咥え、再度咀嚼する。


 うん。十分に火が通っていて美味しい。彼女の手料理は食べていて気持ちがいい。


中須賀 花梨「どう? どう? 美味しいはず。美味しいはず」


 テンションが上がり、中須賀の鼻息が荒い。俺の褒め言葉を待ち望んでいるらしい。


俺「美味しい。今まで食べたタコさんウインナーで1番美味しい」


中須賀 花梨「本当に! やった~嬉しい~! 」


 喜びを爆発させるように、中須賀はバンザイする。


 当然、教室内で注目が集まる。


クラスメイト達「何あれ! 中須賀さんの手作り弁当かよ! 」「木越って奴うらやまし過ぎる」 「俺も食べたい……」


 クラスメイト達から羨む声が上がる。


 あ~あ。目立ちまくってるな。でも仕方がないよな。学年1の美少女と付き合ってるからな。これだけ目立つのは安い代償だよな。


中須賀 花梨「次はオムライスだよ。あ~んしてよ! 」


 中須賀の催促に対応し、俺はあ~んを受け入れる。


 中須賀の愛情も相まって。オムライスも絶品だった。中須賀の料理の腕も高いが、料理に籠った愛情が大きかった。


 料理は愛情と言うが。どうやら正しい論理のようだ。


三宅 貫「やめてくれ。もうやめてくれ。花梨、俺の前でイチャイチャを見せつけないでくれ」


 泣きそうな顔で三宅が自席に座る。三宅の視界にはイチャイチャ真っ只中の俺と中須賀が映る。ほいほい中須賀が俺に料理を食べさせてくれる。


 三宅貫の顔には悲壮感が漂う。元カノの中須賀が、他の男と仲良くする姿を目にするのは辛いだろう。


 しかも復縁を目指していた身だ。おそらく戦略を練っていたはずだ。


 そこで俺と中須賀が付き合う形になった。


 奴は中須賀を奪われた感覚を味わった可能性がある。


 三宅の気持ちなど露知らず、中須賀はあ~んを止めてはくれない。赤ちゃんのように褒め言葉を希望する。


 ちらっと俺は三宅に視線を走らせる。自然と三宅と目が合う。


 威嚇するように奴は苛立ちを示す。だが以前のような覇気は消える。


 情けないな。もうお前は以前のような自由を失ったな。俺にうざ絡みも叶わないな。


 ざまぁという感情は無く、もはや憐れむ。三宅の気持ちに同情すら向ける。可哀そうな三宅貫。


中須賀 花梨「よそ見してないで早く食べてよ。彼女ちゃんが拗ねちゃうよ」

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