第31話 初キス

三宅 貫「おい! どういうことだい! 」


 自動販売機にお茶を購入しようと足を運ぶ。偶然にも三宅と遭遇する。


 人気のない場所と認識した奴は、俺を自動販売機に押し付ける。胸ぐらを掴まれ、背中が自動販売機に衝突する。背中に強い痛みを覚える。


俺「どういうこととは? 」


 顔を歪めながらも、俺は反抗的に答える。


三宅 貫「とぼけるな! お前みたいな陰キャがどうして花梨と付き合ってるんだ! 」


 三宅は声を荒げた。口調には怒りが帯びていた。


俺「それは中須賀に告白されたからだよ! 」


 意地で荒れた口調で返す。せめてもの抵抗である。


三宅 貫「花梨から告白を受けただと。…嘘をつくな! 弱みを握った。そうに違いないはずだ! どんな弱みを握った! 吐けや!! 」


 三宅は腕により力を込める。俺の胸ぐらが苦しくなる。首の辺りにも苦痛も覚える。


俺「…弱みは握ってない。握っても俺に得は無い」


 正直な本心を吐露した。


中須賀 花梨「そうだよ! 木越君は嘘をついてないよ! 」


 中須賀が現れる。俺と三宅の姿を偶然にも発見したのだろう。


三宅 貫「どうして。どうして。花梨が…」


中須賀 花梨「前にも言ったよね。下の名前で呼ばないで! 言うこと聞いて!! 」


 中須賀は鋭い眼光で三宅を睨み付ける。普段とは様子が大きく異なる。明らかに怒っている。


三宅 貫「ど、どうして…。どうして木越の味方をして。陰キャだぜ。俺とはスクールカーストに差があるんだぜ」


 三宅は動揺し、声が震えている。顔色も青ざめている。


中須賀 花梨「木越君を悪く言うのはやめてくれないかな! 見下すのもやめて欲しいな! 正直、木越君の方が何倍も魅力的だから! 」


 珍しく、中須賀は大きな声を上げた。


中須賀 花梨「早く木越君から離れて! 」


三宅貫「わ、分かった。分かったから。…一旦…落ち着いてくれないか…。な…」


 おそるおそる三宅は俺から距離を置いた。ようやく胸元が開放された。


中須賀 花梨「だ、大丈夫! 木越君!! 」


 胸を押さえ、咳き込む俺に、中須賀は駆け寄る。俺の身体を心配し、背中をさする。


俺「あ、ああ。ありがとうな」


 俺はお礼を口にした。中須賀のおかげで三宅から解放されたものだからな。


中須賀 花梨「今後一切、木越君に関与しないで! もちろん私にも関わらないで!! 」


 俺を守るように、中須賀は三宅の前に立ち塞がる。


三宅 貫「…どうして。どうして。こうなって。俺から放れて行かないでくれ」


 ぼそぼそと呟く。完全に弱腰である。


中須賀 花梨「嫌だ! 浮気をする上、私の彼氏を苦しめた。そんな、あなたは最低だ!」


 さりげなく俺の手を握りながら、彼女は強い口調で言い放つ。


俺(俺の彼女は可愛いし、優しすぎる。彼女として魅力的すぎる」


 思わず、俺は中須賀に後方から抱きつく。


中須賀 花梨「ふぇ!? 」


 素っ頓狂な声を漏らす中須賀。だが、そんな彼女を無視し、顎を軽く掴み、強引に中須賀の唇を奪う。


中須賀 花梨「うん!? ううん~~」


 中須賀の瞳が大きく見開く。だが、トロンとした瞳を浮かべ、ゆっくり瞼を閉じる。


 中須賀の厚みがあり、柔らかい唇の感触を感じる。同時に幸福感に包まれる。


 自分でも驚きべき行動に出た。三宅の前で中須賀とキスをした。ファーストキスだった。見せつける予定はなかった。

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