第30話 強引さ
中須賀 花梨「ああ~。楽しかった~」
ご機嫌な中須賀。両手にはユニシロで購入した買い物袋が、2つあった。結局、俺が褒めた服はすべて購入した。
俺「ああ。そうだな」
正直な感想だった。初めてのデートで緊張した。彼女とのカフェ、ゲームセンター、買い物など初めの経験ばかりだった。だが、すべては楽しい経験だった。
中須賀 花梨「木越君も楽しんでくれたんだ。よかった」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。その表情は芸能人の女優を余裕で超えて、魅力的だった。中須賀の圧勝だった。俺にとって、女優よりも中須賀の方が、可愛く見えた。
中須賀 花梨「もう夕方だね。時間は経つのが早いね」
岡山駅から大多羅駅に移動し、現在は住宅地に沿った道を歩く。中須賀は一瞬だけ空を見上げる。空にはオレンジ色の夕日が登る。
俺「本当にな。そろそろ中須賀の自宅じゃないか? 」
2度ほど、中須賀を自宅まで送り届けた経験があった。そのため、中須賀の自宅の位置は把握していた。
中須賀 花梨「そうだね。もうすぐだね。もう見えてるね」
一瞬だけ名残惜し気な表情を示す。だが、すぐに普段の表情に戻る。
俺「ここだな。もう大丈夫だな。今日は楽しかったな。また明日な」
中須賀を自宅前まで送り届け、俺は踵を返す。そのまま自宅の帰路に就く。
中須賀 花梨「…ちょっと…待って欲しいな」
中須賀が優しく俺のネルシャツの袖を掴む。クイっと、引かれた感覚を知覚する。
俺「どうしたんだ? 何か言い忘れたか? 」
振り返り中須賀の顔を見る。彼女は頬を赤く染める。
中須賀 花梨「恋人らしいことしないの? 手を出さないの? 例えば…キス…とかしないの……」
意を決したように真剣な眼差しを向ける。中須賀の両手は微かに震えている。おそらく、勇気を絞っての発言だろう。
俺「キ…キス? 何を言ってる。まだ付き合って1ヶ月も経過してない。早すぎないか? 」
中須賀のビッグワードに戸惑う。積極的である。
中須賀は奥手なはずだ。実際に、三宅からのキスも拒んでいた。その中須賀がキスを求めた。どんな風の吹き回しだ?
中須賀 花梨「そうかもしれない。三宅君だったら、絶対にキスなんか求めない。でも、私にとって木越君が特別な存在。いち早く恋人らしいプレイをしたい。その気持ちを抑えられない」
顔を真っ赤にして俯き加減になった。相当恥ずかしいようだ。だが、同時に必死さも感じた。それほどまでに中須賀にとって俺の存在が大きいのか。
俺の理性が崩れ、中須賀を抱き寄せる。
中須賀 花梨「ふぇ!? 」
素っ頓狂な声を漏らす。中須賀の頭は俺の胸にある。
俺「俺も同じ気持ちだ。中須賀と恋人らしいプレイをしたかった。だが、恥ずかしさや臆病な心から手を出せなかった。キスはまだ不可能だが、ハグならできた。今日はこれで勘弁してくれないか? 」
コク。
小さく何度も、中須賀は首を縦に振る。顔が見えなかった。上手いこと、中須賀が俺の胸に顔を埋めていた。
中須賀は今どんな表情をしているのだろうか? 定かではなかった。
ただ、中須賀の心拍数が上昇していた。この事実は確かだった。ドクンッドクンッと豊満な胸から心拍数が伝わった。
このまま数分間ほど抱き合っていた。中須賀は俺に身を寄せ、離れる気は更々無かった。
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