第8話 アドバイス

 ブーブー。ブーブー。


 トイレを済ませ手を洗っていると、制服の中でスマートフォンが振動し始める。


俺「誰だ…」


 俺はハンカチで手を拭いた後、スマートフォンの画面を確認する。画面には中須賀花梨と表示される。


俺「…もしもし」


 応答のボタンをタップし、電話に答える。


中須賀 花梨「あっ。木越君。今ちょっと時間いいかな? 」


 ここ数日聞き慣れた可愛らしい心地よい声が俺の鼓膜を刺激する。耳に入れるだけで気分が上がる素晴らしい声帯である。


俺「構わない。それで用件はなんだい? 」


 時間を確認する。2時間目開始まで後5分ほど残る。電話1本ぐらいは余裕だろう。


中須賀 花梨「時間を作ってくれてありがとう。実はついさっき三宅君に別れを切り出してきた。本人は渋っていたけど、私は完全に別れたつもりかな」


 ほぅ。行動が速いな。昨日、決意したと口にしていたが。別れる決意だったのか。


 分かってはいたがな。


俺「そうか。ご苦労だったな。少なからず精神的に疲れたか? 」


 中須賀の声色から疲労感を感じる。容易に理解できる。


 中須賀は優しい性格なのかもしれない。


中須賀 花梨「正直疲れたかな。それに浮気をした人間を見ると不快感も感じた。余計に疲労が溜まった感じかな」


 その通りだと思う。俺なら間違いなく同じ反応をする。他人の不幸は蜜の味と言うが、自分が経験すると胸糞悪いものである。


 そんなことより、気になることがある。


俺「それで別れを切り出しただけなのか? 脅しとかはしなかったのか? 」


 別れ話を持ち出すだけでも十分だが、それだけだと少し不安が残る。それに浮気した人間に別れだけを切り出すだけでは物足りないだろう。


 仕返しをしないとな。中須賀が望めばな。


中須賀 花梨「脅し? そんなことするわけない。それに脅しのやり方が分からない」


 中須賀は苦笑いしながら答えているようだ。


俺「そうか。なら脅しは実行しなくていいかな。ただ三宅が浮気した事実だけは拡散しな。学年全体に拡大するようにな。中須賀なら可能だろ? 」


 中須賀は悪い事実を拡める能力に長けているはずだ。学年1の美少女なのだから。多くの同級生が中須賀の言葉を信じるだろうから。


中須賀 花梨「それって三宅君を苦しめることになるよね」


 どうやら躊躇しているようだ。中須賀の善意と悪意が対立しているようだ。


 だが、ここは俺の言葉で説得する必要がある。俺のためにも。中須賀のためにも。


俺「中須賀。自分自身を守るために浮気された事実を拡散しな。そうすれば、三宅がお前に接触した際も誰かが守ってくれるはすだ。いくら爽やかイケメンの奴が復縁を求めても、他の生徒からの邪魔があれば話は別だ。三宅は中須賀に接触することが困難になるからな」


中須賀 花梨「確かに…そうかもしれないね。わかった自分のためにやってみるね。それに、木越君が言うからには信じてみる価値もあると思うからね」


 俺はスマートフォン越しに軽く息を吐いた。納得してくれたみたいだな。

 

 これで三宅のスクールカーストを落とすことができる。今までのような偉そうな態度は取れなくなる。自然と俺に対するうざ絡みも消える。


 完璧じゃないか! やった! 俺は内心ガッツポーズを作った。


俺「拡散の件だが今日中に実行してくれるか。理想としては次の休み時間からだな。もし困ったことがあれば気軽に連絡してくれればいいからな」


中須賀 花梨「うん。わかったよ。ありがと。木越君に報告してよかったよ」


俺「ああ。ならよかった」


 通話を切る。ふぅ。とりあえず一安心である。中須賀はこれから大変になるだろう。


 頑張ってほしいな。俺の目指す未来を実現するためにな。


 俺は薄く笑みを溢し、トイレから退出した。

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