第4話 情報提供
俺「ちょっといいかな? 」
次の日の1時間目終了後の休み時間。
初めて隣のクラスの2年5組に足を運び、俺は中須賀に声を掛ける。
中須賀 花梨「あっ。君は確か…三宅君の同じクラスの」
中須賀は友人と会話を楽しむ最中だった。会話を遮断したことは少なからず罪悪感を覚えた。
だが、三宅に見つからない場所で中須賀に情報提供しなければならない。その場合、三宅は必ず仮眠を取る1時間目終了後の休み時間がベストなわけだ。
中須賀の友人1「何々。もしかして花梨の知り合い? 」
中須賀の友人2「彼氏ではないよね。彼氏は隣のクラスの三宅君だし」
友人たちは好奇の視線を俺に向ける。中須賀に接触した俺が気になるのだろう。
中須賀 花梨「ううん。ただの顔見知りだよ」
笑顔で中須賀は対応する。
おっと。こうしてはいけない。休み時間は10分しかない。のんびり時間を過ごしてはいけない。
俺「ちょっと伝えたいことがあってな。だから少し時間をもらってもいいか? 」
中須賀 花梨「そ、そうなんだ。いきなりだね」
中須賀の顔に戸惑いが走る。懐疑的になっているようにも見える。
俺「すまない。だが大事なことなんだ。だから場所を変えないか? 」
中須賀 花梨「う、うん。わかったよ」
歯切れ悪く返答すると、中須賀は席から腰を上げる。
俺「ありがとう。場所は屋上でいいか? 」
中須賀 花梨「問題ないよ。でも後7分ほどで授業が始まるから手短にお願いできるかな」
俺「ああ。任せろ」
手短になるかどうかは中須賀の反応次第だけどな。中須賀の反応によって長くなるか短くなるかが決まるからな。
俺は中須賀と共に屋上に移動する。
屋上は開放的な空間であり、ガードレールのように高い柵が屋上のエリアを囲む。
空気も心地よく美味しい。
俺「いきなりだが。これを見てくれないか」
制服のポケットからスマートフォンを取り出し、俺はアルバムを開く。少数の写真の中から昨日収めた三宅と女性のキスする写真を画面に表示する。
中須賀 花梨「え!? 」
大きく目を見開く中須賀。目に多大な動揺も走る。
中須賀 花梨「うそ…。どうして三宅君がホテルの前で知らない女性とキスしてるの…」
俺「俺も驚いた。たまたまブラブラしてたらこの場面に遭遇した。流石に黙って見過ごすわけにもいかなかった。俺は浮気は嫌いだ。変な正義感が勝って写真に収めたわけだ。お節介だったら申し訳ない」
浮気が嫌いなのは事実。浮気するぐらいなら別れる方を選ぶ。
ブラブラしていたのは嘘だ。しっかり三宅をストーカーしていた。
中須賀 花梨「ううん。そんなことない」
完全に上の空だ。中須賀は俺を見ていないはずだ。視線から推測できた。
俺「信じるか信じないかはお前次第だ。後、もう1枚あるから一応見せておくな」
俺は三宅と女性がラブホから出てくる瞬間の写真も中須賀に提供する。
中須賀 花梨「…」
もはや中須賀から反応は消える。彼女は今どんな感情を抱いているのだろう。
悲しみかそれとも怒りか。もしくは呆れか。
俺「このホテルはビジネスではない。ラブホだ。後はわかるな? 」
中須賀 花梨「……うん。流石にわかるよ」
中須賀は力なく返答した。沈んだ様子で俯いた。
俺「酷かもしれないが、中須賀が望むなら三宅の浮気現場を確かめに行くか? 」
中須賀 花梨「えっ! 」
中須賀は顔を上げ、俺に視線を向ける。その瞳は驚きで満ち溢れる。
俺「判断は任せる。もし決心ができたら、俺のモインに連絡くれ」
常備するメモ帳にモインのIDを書き込み、俺は千切って中須賀に差し出す。
中須賀は口を噤み、メモを受け取る。
そして無言のまま俺は屋上を後にし、教室に帰還する。
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