第33話 嘘告白&マウント

藤原日和ふじわらひより「ごめんね。いきなり呼び出して」


俺「構わない。それで用件は何だい? 」


 帰路に就く直前に、靴箱の中に、1枚の紙を発見した。その中身を確認した。内容は呼び出しだった。俺もそこまで鈍くはなかった。ラブレターだとすぐに理解した。


 藤原日和。学年でも有名な美少女だ。花梨に次いで学年で2番目の美少女と謳われる存在だ。


 俺が彼女持ち出なければ、おそらく興奮していた。だが、今の俺には花梨の存在があった。可愛く、優しく、反則的な彼女だ。


 だから俺は断る予定で、屋上に足を運んだ。屋上が呼び出し場所だった。


藤原 日和「あの。あたしは木越君のことが好きなの。もちろん、中須賀さんと付き合ってるのも知ってるの。でも気持ちは抑えられないの。だから中須賀さんと別れて付き合わない? 」


 真剣な表情で告白される。


 それにしても、ふざけている。俺が花梨と別れる? するわけないだろう。あんな可愛くて優しい彼女を捨てるバカがどこにいる。


俺「悪いが。告白には応え——」


野田 啓一「はいはい ! ストップストップ!! 」


 突如、聞き覚えない声色が鼓膜を刺激する。声色から男子と判断できる。


 輝かしい金髪に髪を染めたイケメンが現れた。三宅とはタイプが異なり、ジャニーズ系のイケメンだった。


 ちなみに三宅は俳優系のイケメンだ。


野田 啓一「嘘告白。嘘告白。決まってるじゃんか! 」


 得意げな口調で、ご機嫌な野田。いきなり現れては場を支配した。


俺「どういうことだ? 」


野田 啓一「分からないのか? お前みたいなパッとしない人間に、藤原が本気で告白しない。そういうことだい。それに、彼女持ちの人間と付き合えば、印象が悪くなるのは必至。そんなことも分からなかったのかい? 」


 小馬鹿にした口調で、野田は説明する。


藤原 日和「そういうこと。あんた顔がタイプじゃないの。陰キャ風が漂うあんたに私が告白すると思う? そこまで、あたしもバカじゃないわよ」


 野田と藤原は高笑いを上げる。両者ともに意地悪で、醜い笑みを浮かべる。


俺「…どういうつもりだ。なぜこんな真似をした…」


 苛立ちを抑える。必死に両拳を握る。


野田 啓一「あ? 分からないのか? お前が、あの中須賀と付き合ったからだ。お前みたいな地味な奴が、学年1の美少女と付き合った。その事実が気に食わなかった。だからお前に嫌がらせで嘘告白を仕掛けた。友人の藤原に協力してもらってな」


藤原 日和「そういうこと。面白そうだから協力したの」


 性格が悪い陽キャどもだ。おそらく嫉妬からのハラスメントだろが。全くロクな行いをしないな。


 怒りの限界を超えてしまう。怒りを通り越し、呆れてしまう。


 人間、怒りの限界を超えると呆れるらしい。初めての経験をした。人間としては成長できた。その点では眼前の2人に感謝だな。ただ少なからず、心は傷ついたがな。


中須賀 花梨「あ! こんなところにいた! 」


 屋上のドアが開き、花梨が登場する。俺を含めた3人の視線が花梨に集中する。


野田 啓一「どうして中須賀がここに…」


 予想外の展開に困惑している様子だ。先ほどの会話を聞かれたのか、心配なのか。野田は瞳を左右に彷徨わせる。


 藤原は黙って口を噤む。自身よりもスクールカーストの高い花梨の登場に、委縮する。先ほどまでの威勢は何処に消えたのだろう。


中須賀 花梨「あなた達は…野田君と藤原さん? 野田君は確か同じクラスだよね? 」


 花梨は野田と藤原に視線を走らせる。


 藤原はさっと逃げるように視線を逸らす。完全に負け越しである。


野田 啓一「ああ。そうだ。ちょっと中須賀いいかな——」


中須賀 花梨「優成君、早く帰ろうよ! 私ずっと探してたんだよ! 」


 既に野田は眼中に無かった。花梨は俺の元に駆け寄り、手を取った。依然として柔らかく、温かみのある感触を知覚した。花梨の存在を身近に感じた。


俺「…すまない」


 今は花梨の存在に感謝する。おかげでこの場を切り抜けることが可能である。


中須賀 花梨「いいよ。彼女なんだから、これぐらいは寛大に許さないと」


 えっへんと花梨は胸を張る。その際、豊満な胸が揺れる。


中須賀 花梨「それじゃあ、一緒に帰りましょう! 今日も存分にイチャイチャしよ! 」


 俺の手を引き、花梨は歩き始める。俺も歩幅を合わせ、追随する。


野田 啓一「ちょ、ちょっと待ってくれ! 中須賀、俺の話を聞いてくれ! 」


 野田は中須賀を制止しようと試みる。先ほどのような余裕は皆無である。


中須賀 花梨「ごめんね野田君。これから彼氏との楽しい時間なの。邪魔しないで」


 遠慮ない言葉で一蹴し、俺と花梨は屋上を後にする。


中須賀 花梨「それと後で屋上で何があったのか。聞かせてもらうから」


 屋上の階段を降りる際に、花梨はそれだけ早口で述べた。


 これは正直に打ち明けないと痛い目に遭うパターンだな。花梨の表情から今後の未来を薄っすらだが推測できた。


 花梨を敵にすれば、どうなるか。想像するだけで悪寒を感じた。

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