第16話 探索

俺「なに!? こんな紙が中須賀の自宅に送られてきたのか」


 昼休みの誰もいない屋上で俺は驚嘆した声を漏らす。


 中須賀が誰もいない屋上で話をしたいと、突然俺にモインを寄越した。


 当然断らず昼休みに昼食も取らずに足を運んだわけだ。


中須賀 花梨「…うん。ここ数日連続で送られてくるの。これ同じ種類の茶封筒」


俺「送り主は? 」


中須賀 花梨「…もちろん一緒だよ。芝谷三富子しばや みふこって人だよ…」


俺「芝谷 三富子。変わった名前だな。本当にそんな読み方なのか? 」


 俺は中須賀に対する怒りと罵倒が記された紙が入っていた茶封筒の後ろを確認する。確かに、しばやみふこ、と読める。


中須賀 花梨「私、怖くて。知らない人から怒りの書類が送られてくるのは初めての経験だから。それに、自宅の住所をこの謎の送り主に知られてると思うと…」


 両腕で身体を抱きながら、中須賀はブルッと全身を震わせる。恐怖が原因で寒気でも発生したのだろう。


俺「なるほど。それで俺に助けを求めにきたわけか」


中須賀 花梨「ごめんね。迷惑かけて」


 顔を俯ける中須賀。普段らしさは消えていた。本日、笑顔は見えず、ずっと気分が暗かった。おそらく俺が手に持つ紙のせいだ。


俺「構わない。それに中須賀の身に危険が及ぶ可能性もある。だから今日から探索を入れてみよう」


 本心から出た言葉だ。それに中須賀には三宅にもっと苦しみを与えて欲しいからな。三宅に苦痛を与えるには中須賀の存在が必須だ。


 中須賀に何かあれば俺にも損害が被る。それだけは避ける必要がある。


中須賀 花梨「ありがとう! 本当に木越君は優しくて頼もしいね」


 わずかに中須賀の表情が華やかになった。少し安心した。


俺「では俺は今から犯人探しをする。何か分かり次第モインで連絡する。じゃあな」


 思い当たる人物は2人いるしな。


 踵を返し、俺は屋上を後にする。


 残された中須賀は祈るように、豊満な胸の前で右拳を握る。



⭐️⭐️⭐️



 まずは思い当たる節として、三宅の浮気相手の女だな。


 俺は中須賀に不気味な紙を送った主として当たりをつけていた。候補は2人いた。三宅の浮気相手の女と三宅自身だ。


 まずは三宅の浮気相手の女に接触したいのだ、どうにも学年が分からない。そのため接触しようにも不可能だ。

 

 俺は気晴らしに自動販売機にジュースを買いに行く。


 って、おおん。


 俺は目を見開く。偶然にも自動販売機の前に三宅の浮気相手の女性の姿がある。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。


俺「なぁ、ちょっといいか? 」


 俺は後ろから浮気相手の女性に声を掛ける。


浮気相手の女性「…はい」


 怪訝な目で対応する。非常に面倒くさそうである。


俺「お前は彼女持ちの三宅貫と浮気してたよな? 」


 スマートファンを取り出し、例の三宅と浮気相手の女性がラブホ前でキスする写真を見せる。


浮気相手の女性「っ。どうしてその写真を…。もしかしてあなたが情報を——」


俺「余計なことは喋るな。この写真をモザイク無しでばら撒かれたくないはずだ。だから俺の質問に答えろ」


浮気相手の女性「…わかった。その代わり質問に答えた。そしたら、この写真をばら撒かないって約束してくれる? 」


 動揺を隠せない。この写真1枚の拡散で自身の学校内の立場が格段に悪くなる。十分に理解しているようだ。


俺「ああ。それは約束する。だが俺の質問に対して嘘はつくなよ。嘘が明らかになったら問答無用でこの写真をSNSなり生徒に協力してばら撒くからな」


 俺は脅しを掛ける。もしこの女が犯人だった場合、俺の質問に嘘をつくに決まっている。その点で逃げ道を塞ぐ。


浮気相手の女性「……」


 怯えながら静かに頭を縦に振る。


俺「よし。それならいい。質問は1つだ。この紙を中須賀花梨に送ったのはお前か? 」


 俺は手の持つ茶封筒から例の紙を取り出し、浮気相手の女性に見えるように掲げる。


浮気相手の女性「…」


 黙って紙を注視する。どうやら隅から隅まで目を通しているようだ。


浮気相手の女性「し、知らない。こんな紙、送ってない」


 手をバラバタと振りながら、容疑を否認する。


俺「本当だな? 三宅の彼女である中須賀に怒りを覚えて紙を送ったとかはないな? もし嘘をつけば…わかってるな? そのときは写真を」


 俺は睨みを利かせる。目の前の浮気相手にプレッシャーを掛ける。


浮気相手の女性「ほ、本当に! 嘘じゃない!! 信じて!! 」


 自身の身を守るために、浮気相手の女性は必死に俺に訴えかける。


 俺は目の前の女の顔を直視する。


 瞳が左右に動いている様子はない。人間は嘘をついた際に、瞳が動く傾向がある。だが、この女にその現象は見受けられない。


俺「わかった。時間を取って悪かったな」


 どうやらこいつは犯人ではないみたいだ。嘘をついているようには見えない。


 それならこの浮気相手の女に用はない。


 だが、いずれこの写真は拡散させてもらうがな。三宅の被害者かもしれないが。何か中須賀を傷つけた人間が平然と学校生活を送っている時点で腹が立つからな。


 俺は踵を返し、その場を立ち去った。



⭐️⭐️⭐️



俺は用を足すためにトイレに足を運ぶと、三宅が3人の男子生徒に絡まれていた。


男子生徒1「おい! 今日は普段と比べて中須賀さんが暗いぞ! もしかしてお前、中須賀さんに関わったのか? 接触とかしてないよな? おぉん? 」


 男子3人は鋭い眼光で三宅に詰め寄る。


三宅 貫「してねぇって。約束は守ってるよ! 」


 慌てた口調で主張する。


男子生徒2「嘘じゃないな? 」


男子生徒3「嘘だった場合どうなるか分かってるな…」


 残りの男子生徒2人も言葉で圧力を掛ける。


三宅 貫「ほ、本当だって! 」


 三宅は必死だ。


 だが、男子生徒3人からの疑いは晴れない。


俺「お取込み中悪いが、俺も三宅に聞きたいことがあるけど言いか? 」


 勇気を振り絞って俺は話に割って入る。


男子生徒1「なんだ? 」


 鋭い目付きが俺を捉える。1人に呼応して2人も俺を視界に捕まえる。


 こいつら怖いな。三宅が恐怖を覚えるのも無理ないな。これは怖気づくわ。


俺「な。中須賀が恐怖を覚えているのはこの紙が原因だ」


 俺は茶封筒から1枚の紙を取り出し、男子生徒1に差し出す。


男子生徒1「なに! それは本当か! 」

 

 ぱっと男子生徒1は俺から紙を奪い取る。


 男子生徒3人は異常な剣幕で紙に目を通す。


男子生徒1「なるほど。もしかして…この紙の送り主はお前か…」


 男子生徒3人の怪訝な視線が三宅に集中する。完全に3人は三宅を疑う。


俺「俺は三宅が怪しいと思っている。中須賀にフラれたばかりだしな」


 相槌を打つように俺は情報を提供する。


三宅 貫「なっ!? なんでお前がそれを! それに陰キャは黙っとけよ! 」


 三宅は俺にだけ見下した態度を取る。やはり俺を下に見ているのだろう。少なからず苛立ちを覚える。


男子生徒1「うるさい…。で、どうなんだ。お前が犯人なのか? 」

 

 強引に男子生徒1は三宅の胸ぐらを掴む。


 三宅を勢いよく壁に背中を打ちつける。痛みから顔を歪める。


 その表情を視認し、気分が良くなる。俺の代わりに男子生徒1が三宅に暴力を奮ってくれた。男子生徒1には感謝だ。


三宅 貫「ち、違う! 本当だ! 花梨とは復縁したいとは思っているが。はっ」


 爆弾発言に気づいたのだろう。即座に三宅は両手で口を覆う。


俺「そうか。この状況で嘘をつくなら大したものだ。それと、3人共、もし気がかりなら三宅と話をしたらどうだ。俺はもうこの場を去るからご自由にできるぞ」


 茶封筒に紙を仕舞い、俺はひらひらと手を振る。


三宅 貫「お、おい! 待て! 陰キャが偉そうに場を仕切るな! 」


 三宅が俺に飛びかかろうとする。


 だが、その行為は叶わない。男子生徒3人に後方から肩を摑まれる。


男子生徒1「勝手に動くな。それと中須賀さんと復縁したい? 聞き間違いじゃないよな? 」


男子生徒2「俺達の耳に入った。覚悟しろよ」


男子生徒3「2度とお前の口から、中須賀さんとの復縁という言葉が出ないようにしてやるからな」


 真顔に冷酷な口調で男子生徒3人は告げる。


三宅 貫「ちょ、ちょっと待って。さっきのはミスというか。ぎゃあああぁ~~」


 トイレから響く三宅の悲鳴が俺の鼓膜を刺激する。


 だが不快ではない。幸せな気分だ。あの三宅に不幸が押し寄せているのだから。最高じゃねぇか。


 それにしても、浮気相手の女と三宅が犯人ではない。これは間違いない。なら犯人は誰なんだ。

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