第35話 魔王の最期(新生魔王決闘編③)

「さあ来い、最強の攻撃と防御を兼ね備えた魔の武器と防具よ」


 魔王ドッグが指先をパチンと鳴らすと、浮遊した鋼の固まりが、開いた木の扉からゆっくりと迫ってくる。


 よく見ると灰色の丈夫そうな騎士の鎧に禍々しい黒い兜、手持ちよりも巨大な長剣、大きな鉄砲に、ナイフやメリケンサックなどと様々だ。

 ただで厄介な強い相手なのに、こんな強力な装備をされたら、俺らの勝算はグッと下がってしまう。


 だったら先手をうって破壊するまでだ。


『ファイアーボール!』


『ドコーン!!』


 俺はこっちに向かってきた鋼の固まりを炎の玉で迎撃すると、魔法耐性があったのか、破壊されずに大きく弾かれ、偶然にも開いていた別の窓の外へと飛び出してしまう。

 換気か知らないが、えらく開いた窓が多い魔王城だなというツッコミを入れたくもなるが……。


「ああ? 何をしてくれる。魔法でアイテムを撃ち落とすでない!!」

「だって目の前にハエが飛んでいたら攻撃をするのが普通だろ?」

「ハエではない。ワタシの史上最強の装備品たちを……ああ、どこに落ちたのやら!?」

「うーん? 海辺りにでも拐われたかな」

「おい、この辺に海はないぞ!」


 あれだけの重みのある装備品。

 水じゃなく、こんな暗闇に広がる骨の海に落ちたら何がどうなったか分からないだろう。


「くっ、おのれ。だったらワタシ自らの拳で始末しないといけないようだな」

「そうだな。男は拳で語り合ってなんぼさ」


 ドッグが両拳を構え、前のめりになって牽制すると、俺は対峙して当たり前のように腰を低くしてその挑発に乗る。


「クククッ、肉弾戦と言えど、ワタシの力を見くびるなよ」

「それはどうかな」

「クッ。ワタシもなめられたものだな」


 玉座をバックにし、ホールの広さを活かして、目にも止まらず素早さで俺の周りに残像を残して駆け回るドッグ。

 これだと、どの方面から攻撃が来るか読めない。


「いくぞ。超弾丸竜乱れ舞い」

「その変なネーミングセンスも一から学んだ方がいいぜ」

「何の。そんな口先だけの手口を使い、ワタシの隙をつけるとでも!!」


 竜の乱れ舞いは一大事だなと思いながら、ドッグが間合いに入ってきた瞬間を狙って、俺は合図の手を上げる。


「今だ、フライキン先生!」


 俺が腕を振り下ろして、例の二人を呼び寄せる。


「はい。いきますわよ。リンク」

「了承、準備万端でございます」


 二人の勇者がドッグから距離を離し、左右に散って、両者とも真似事のように両手を前に出す。


「封印のキーにかけて、あなたをここで封じこめます」

「何だと!?」

「遅い!!」


 フライキン先生とリンクが詠唱を繋げると、手のひらから紫色の巨大な魔法陣を生み出した。

 これにはドッグも驚いて攻撃の手を休める。

 残念だったな、それが二人の狙いだったことも知らずに。


『『メガサイレンスキーボックス!!』』


「ごおおおおー!?」


 見事に左右に近付いた二つの魔法陣に体を挟まれ、動くこともままならないドッグ。


「こんなちゃちな結界なんぞ、ワタシの手によって!」


 ドッグが唯一動かせる右腕を魔法陣に振り下ろす。


『ピカーン、ビリビリ!!』

「あがががが!?」


 しかし抵抗も虚しく、身体全体が激しく光り、まともに感電を受ける情けない魔王。


「無駄ですわ。結界にはバリアが張っていて、触れると強力な電流が流れる仕組みよ」

「おっしゃる通りでございます。親玉は大人しく封印されるのです」


 こうなることを前もって予想していたのか。

 二人の勇者は自身に満ち溢れた顔で二つの魔法陣を合わせ、一つの魔法円へと変える。


「……ぐっ、貴様らの顔は目に焼けつけたからな」

「今度、封印が解けたら真っ先に貴様らの家系とその町を滅ぼしてやる!!」

「どうぞご自由に。もう先生はあなた如きには負けませんから」

「お、おのれえええー!!」


 フライキン先生が中指だけを曲げて、その対象者を封じ込める。

 電撃で黒焦げになったドッグは抵抗もできず、獣みたいに吠え立てることしかできない。


『ガチャーン!!』

「……」


 南京錠を閉めたような大きな音で魔法陣が消え、叫び声もドッグらしき姿も瞬時にいなくなる。


 辺りはキャンドルの光のみとなった静寂なる闇。

 一時的とはいえ、どうやら魔王の封印に成功したようだ。


「──ふう。何とかやりましたわね」

「フライキン先生お疲れ様です。怪我とはないですか?」

「ええ、かすり傷程度なら。でも心配には及びません」


 フライキン先生が戦闘服についたホコリを払いながら、俺にピースサインを忘れない。


 結局はこのバトルスーツに付いた青で防御力強化、緑で攻撃をガードするボタンは耐久性が怪しいから使用しなかったな。


 意味深な赤いボタンだけも押さないままだったし。

 押すなというからに、やっぱり自爆スイッチだったのだろうか。


「それはそうと、とうとう俺たちは魔王を倒したんだな」

「倒したというか封じ込めただけですけどね」

「そうか。いつかまたあの強敵を相手をしないといけないのか」


 何年後か分からないが、避けられない宿命に立ち向かうしかないのか。

 まるで現地で取材するリポーターのような気分だ。


「まあまあシュウ殿、宜しいではないですか。これで一時の平和は保たれるのですから」

「そうだな。こっちは勇者がいて完璧だしな」


 いくら向こうが復活しようと、こっちには凄腕な勇者が二人いるんだ。

 この先、どんなことがあっても負けはしない。


「シュウ殿、その件についてなのですが、フライキン先生と我輩からお話しがあります」

「何だよ、二人ともかしこまって」


 トイレならそこの角を曲がって左だぞと口に出そうとするのを辛うじて飲み込む。

 危ないな、危うくセクハラになる所だった。


「先生ね、今は教師をしてるし、勇者としての活動は今回限りにしようと思うの」

「我輩もトウキョウでの就職活動に専念しようかと。今どき勇者では稼げないですから」

「えええー! と言うことはこの世界での勇者はいなくなるのかー!?」

「はい、そういうことになりますね」


 こうして魔王を退けた束の間の平和に関わらず、貴重な勇者を失い、途方な気持ちになるのだった……。


 俺、魔法戦士辞めて、勇者を目指そうかな……。

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