第11話 魔王との激闘の果てに(魔王討伐編②)

「てえええーい!」


『ガキン、ガキーン‼』


 勇者リンクは柄に宝石が付いた自身の長剣で魔王ドッグの斜め斬りを受け流し、そのまま上段へと斬り払う。


 そして上からドッグを両断しようと柄を握り締め、力任せに押し斬るとすると、ドッグはそのままの体勢で後方へとジャンプし、リンクとの十分な間合いをとった。


「ふっ、人間無勢がこの魔王と対等に戦える

とは笑わせるね」

「対等とは勇者もなめられたものですね」


「じゃあ、ちょっとだけ本気を出そうかな!」


 ドッグが闇の剣先を対象者に見せつけたと思わせ、瞬時に距離を詰めての斬り込みをする。

 これにはリンクも予想を反していたらしく、やや体勢が崩れる。


『ガキーン!!』


「ふふっ、これで同じ強さだって? 笑わせてくれる」


 自身たっぷりに凪ぎ払いをしながら、圧されつつも攻撃を剣で防ぐリンク。

 やはり魔王だけあり、その強さは伊達じゃない。


「これならどんな反応をするかな?」


『バインドトラップ!』


 魔王ドッグが剣を握ってない片手から蜘蛛の巣のような網を出して、傍にいた二名のギャラリーを近くの木の幹に縛りつける。


「わっ‼ 何ですの‼」

「きゃっ‼」


 後方で悲鳴が上がり、俺は声のした方向に目線を合わせた。


「くっ、してやられましたわ」

「アンバー‼」


 アンバーが木に縛られ、身動きもできず、苦しそうに息を上げている。


「まさか、また自分も縛られる時が来るとは……」

「テイル‼」


 テイルも同じく木に縄にかけられ、アンバーと同じく動作もままならない状態だ。


 これが例の束縛魔法の正体か。

 敵にしてやられたな。


「どうかな。お仲間さんを魔法で縛りつけてもまだそんな余裕が……」


『ゴオオオオー‼』


「なっ、例のファイアーボールか!?」


 俺はリンクの無言の指示により、魔王の隙を狙い、直感的に炎の攻撃魔法を使っていた。


「何てことはない」


 魔王は闇で包まれた片手の甲で炎の玉を弾くと、大きな音を立てて、近場にあった廃墟の屋根に大穴を開ける。


 ものの見事にかかったな。

 その払う仕草で動きが限定した瞬間を見逃すはずがない。


『ファイアーボール!』


「二連発か。あまり感心しない攻撃だね」


 二度目は一回目とは違い、一回り大きな攻撃力である。

 最初の魔法のように簡単に手で弾き飛ばすのも難しいくらいに。


 しかしドッグはそれすらも余裕で上空へと払い除けてみせる。


 俺のファイアーボールを軽々と手で弾くとか、あの闇の手は何かしらのカラクリでもあるのか?


「それも囮だ。魔王‼」


『ファイアーボール!』


 いや、考えるのも時間の無駄だ。

 俺はその反応の先を読んで、さっきよりも軽めな炎の玉を放つ。


「そなたらも本当に学習しないよね。早くも脳味噌が退化してるのかな?」


 ドッグが地面の骨の土を踏みしめながら、野球のキャッチャーのように腰を屈める。

 そのまま炎を受け止める気か。


「退化してるのはお前の方だ‼」

「そうですよ、魔王ドッグ‼」

「ようやく、わたくしたちのターンですわ」


「せーの‼」


『『『ファイアーボール!』』』


「なっ、三人揃って同じ魔法だとー‼」


 アンバーとテイルも俺の声に合わせただけと思わせ、三方の三角形の辺から炎の玉が迫ってくる攻撃にドッグは少し焦ってるようだ。


 ただの玉の予測を越えたトライアングル形式。

 さらに三つとも当たれば大ダメージ、即効でダウンな連続攻撃なんだ。


 ……かと言って三つの角度からくる攻撃を防ごうにも精々二発は防げても一発は当たってしまう。


 それにどんなに強い相手でも攻撃の際に必ず隙が生まれるとの意見。

 勇者リンクの名言といい、そう簡単に攻撃のチャンスは作れないはず。


「くっ、ワタシは最強の魔王。どれも避けてやるまでだよ‼」


 ドッグは闇の剣を背中にしまい、両手を流れるように左右に緩やかに広げて、三方向からの迎撃に備えるが……。


『ファイアーボール!』


「……何だと! 死角からの攻撃だって!?」


 魔王ドッグのがら空きな脇を狙いにつけた奇襲作戦。

 全てはこの攻撃のためにあったと言っても過言じゃない。


『カン、ドコーン‼』


「ぐわあああー‼」


 リンクの幻影魔法でアンバーとテイルが魔法を放つ姿と見せかけて、現状では俺のファイアーボールを上乗せした巧みなる攻撃の連発。


 それを見破れなかったドッグの脇腹が魔法でえぐり取られ、大きく声を上げて、骨の残骸による音を立てながらゆっくりと倒れ込む。


 激しくも厳しい攻防戦だったが、少なくとも勝敗は俺たちの勝ちで決まりだな。


「まさか、こんな人間ごときにこの魔王ドッグがやられるとは……」

「これではあの方に顔向けができぬ……」


「何言ってる。魔王だったら一番偉い肩書き何だろう? 寝惚けたことを言うなよ?」


 あまりの脇腹の痛みで気が滅入ったのか、早速ドッグが寝言を言い始めたようだ。


「クックックッ……」

「何がおかしい? 気でも狂ったか?」

「いいや、狂ってるのはそなたの方さ」


 俺らが狂ってしまったらこんな争いなど無益に違いない。


「これでクロワ様の計画もスムーズにいく。そなたたちの戦闘データはバッチリ記録したからね」

「えっ、クロワは魔王の幹部であって?」

「ハハハッ‼ 魔王がそんな簡単に役を移動したら責任重大だろう」


 確かに現時点でまだ若い身であったクロワが魔王を引退し、幹部に成り下がるというのも妙な話であった。


「今、クロワ様は忙しい身だ。代わりにワタシが魔王の代役になっても何の問題もないだろう」

「……と言うことは」

「そなたらは時間稼ぎの駒として利用されたに過ぎないのさ」


 何だよ、上手くいったと見せかけ、最初から向こうの作戦に踊らされていたのか。

 俺はその場で両ひざをついて、戦意を喪失する。


「……なっ、言葉巧みに騙されたぜ‼」

「ふふっ、実に愉快な表情をするね。見ていて飽きないよ」


 ドッグが傷口を手で押さえながら、痛み分けの笑いを浮かべる。


「おい、じゃあクロワはどこに行ったんだ? 状況によってはお前を!!」

「何だい、このワタシを亡き者にするのかい?」


 そんなことしなくてもお前のことだから治癒魔法で回復するんだろ。

 現に脇腹を押さえた手から緑の光が漏れているし。


「ええ。地獄のくすぐりコースへとご案内しますわよ」

「自分も頑張ってご奉仕しますね」


 束縛魔法が解けたアンバーとテイルがお返しとばかりにドッグの体に馬乗りになり、身動きができないように持ち込む。


「なぜだろう、命を奪われるよりも辛いこの遣り口は……」


 治癒魔法を封じられたドッグが二人の遣り口に諦めたのか、じっと闇の空を見上げたままだった……。


 ──結局、魔王討伐と動いた行動だったのに向こうの口車に上手に飲まされたのだ。


 さらに魔王城の探索から帰ってきたミミの話では魔獣大百科はどこにも置かれてなかったとか。


 真の魔王を逃した今、俺の旅はまだ終わりそうにない……。

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