第18話 見た目、聖職者な相手(教会探索編②)

「……あった。ここで間違いないな」


 先が読めない今、まだ船を手放すには惜しいと勇者リンクに船番を頼み、海岸線沿いに歩いた先に見えてくるのは二階建ての一軒家。


 カラフルな山吹色の扉が目立つ、シコク国際教会。

 建てつけの看板からして、ゴスベールチャーチという名称らしい。


「本当にこんな質素な建物が教会ですの?」

「だな。名前も扉も怪しいし、教会でも中身はいかがわしい店かもな」

「シュウくん、それって美味しいお店なの?」

「どうだろう。人によりけりだと思うし」


 野郎にとっては嬉しいお店かもだけど、こういう店の衛生監理は緩いからな。


 心まで楽しんだ結果、心身を蝕む病気を移されたという例もあると聞いたことがある。

 まあ、俺には興味ない噂だが……。


「お邪魔しまーす……」


 怪しいお店だとはいえ、見た感じは教会らしい十字架も飾られている。

 俺は軽くドアを二回ノックして、照明もない薄暗い建物内に立ち入った。


『パン、パン、パパーン!!』


「きゃっ? なに!?」


「くっ、言ってる側からこれかよ。ミミ伏せてろ!!」


 いきなり鳴る銃声のような発砲音。

 扉を抜けて飛び道具とか来訪者に対して、無礼極まりないよな。


 だったらこちらも手加減は無用。

 まずはこの暗闇に光を照らすため、この教会の天井ごとぶっ飛ばす!


『ファイアーボール!!』


『ドコーン!!』


 俺の放った火の玉が頑丈な天井の壁をいとも容易く打ち砕く。

 粉々になった石の欠片が砂の粒子のように床下へと流れていった。


「おおっ、いい感じに大穴が空いたね。お陰様で天窓を付ける手間が省けたわ」


 二階に伸びた木製の階段から一人の女性が下りてくる。


 玄関先の扉と同系色の山吹色のショートカットの髪が質素な作りの外観にやけに映えて見える。

 水色で十字架の紋章が刻まれた法衣を着ており、いかにも聖職者らしい風貌でもあった。


「お前がこの教会の責任者か」

「ええ。魔王様に仕える妖魔団長のシスター=イサベラ。それがあたしの名だよ」


 イサベラと名乗り、俺の目の前に突き出てくる女性。

 玄関から見た感じでも、それなりに広い作りだが、彼女以外に住んでる者の気配がしない。 


「ここにいた教会の人たちはどうした?」


 俺は純粋そうな雰囲気のイサベラにはっぱをかける。

 さて、どんな反応をするだろうか。


「そんなことはいいでしょ。それよりもさ、ここは喜ぶ所じゃないかしら?」

「はあ? お前さん何を言って?」


 イサベラが妙なことを言ってきて、正直言葉が詰まる。

 知らない家に押し入って、呑気に喜ぶようなヤツは変なこそ泥しかいないことに。


「ちょうどあなたで五千人目の来店者なのよ。ここで祝っておかないと後悔するわよ」


 鳴り終えて紙くずとなったクラッカーを見せつけ、ますます脱線した会話についていけず、嫌な汗が頬を伝う。


 本能的に危ないヤツだと感じているのか。


「シュウくん、あのオバちゃん、かなりヤバめな人だね」

「ああ。それに関しては同感だ」


「ちょっと、さりげなく変な扱いはしないでもらえる!! こっちは真剣なんだからね!!」


 真剣なこととアピールする相手ほど内容は大したことない場合が多い。

 一見強いようで魔王に返り討ちにあった勇者リンクの情けない話とか。


 今頃、留守番中の船内で大きなくしゃみを連発してるだろう。


 下手なくしゃみも数撃てば当たる。

 何が当たるかはお楽しみ。


「マジならなおさらヤバいよな」


「「「うんうん」」」


 まあ、それはともかく、このオバちゃんが変なオバちゃんなことは理解した。

 呼び方、お姉さんじゃなくていいか?


「キィー! あなたたち、いい加減にしなさいよ。あたしが本気になったら、あなたたちなんて一瞬で宇宙の塵にして!!」

「はいはい。よしよし」

「気安くあたしの頭を撫でるな!!」


 だってこの人、子供みたいな態度で可愛いんだぜ。

 本能が撫でてあやせと叫んでるのだ。


「ごめんごめん」

「ちっとも謝罪の気持ちが伝わらんわ!!」


 苛ついたイサベラがクラッカーを床に投げつけて、その床をダンダンと踏みつける。


「そんなことよりオバちゃん。俺、この教会のシスターを捜してるんだが、心当たりないか?」

「シスターに何用だ?」

「いや、ちょっとさ、嫌な呪いを祓ってもらうために来たんだけどさ」


 いくらファイアーボールがカンストで最強だとはいえ、日々モンスターたちとの戦いは厳しくなってきてる。


 これから先、敵のステータスも見れないとなると作戦も立て辛い。

 前回のサボンみたいな団長クラスとなればなおさらだ。


「もう居ないんだったら他の教会であてを探すわ」

「待て、シスターならここに居る」

「えっ?」


 またオバちゃんが妙な口振りをして、俺を引き止める。


 男心を掴むのが上手いというか、やけに手慣れてるな。

 これまで何人の男と暮らしてきたのやら。


「魔王軍の団長クラスに登りつめた=イサベラこと、あたしがな!」


 イサベラが両手を腰に当てて、大層に偉ぶった態度をとるが、ここでの観客は俺たち以外には誰もいない。


「あー。この様子じゃ、やっぱ居なかったか」

「仕方ありませんね。では次の教会に行きましょう」


 もう俺らステージから帰っていいよな。

 リンクに船を守らせてるとはいえ、一応怪我人だし、あまり無理はさせられない。


「一体、次の教会の場所まで何Kmくらいあるのかしら」

「うーん。単純計算でも航路で進んで、十Kmはあるそうですよ」


 テイルが地図を見つめながらアンバーに率直な答えを出す。


「うへえー、とてもじゃないですが、今日中には着かないですわね。どこかで宿の手配でも……今日中には予約とれるかしら」

「アンバーさん。宿なら自分にお任せ下さい」


 今度は手帳を見ながら宿屋の電話番号をチェックするテイル。

 隣でおろおろしながらフロアを行き来するミミと比べ、冷静で手際がいい娘だ。


「おいっ、あたしを無視して話を進めるな!!」

「何だ、まだ居たのか。ロリババア」

「なっ、あたしはイサベラよ。ふざけた名で呼ぶなよ。この……」


『ファイアーボール!!』 


「ひゃっ!?」


 俺はムキになって否定するイサベラに振り向きもせず、瞬時に練り上げた炎の玉を天井に向かって投げつけた。


『カンドッカーン!!』


 壁を挟んだ爆発により、次々と落ちてくる瓦礫。

 怒りに反して、ちょっと加減ができなかったか。


 あの程度で腹を立てるなんて、俺もまだまだガキンチョだな。


「あーあー、天窓どころか、吹き抜けの天井になってしまったぜ。どうする? 魔法で修繕するかい?」

「あわ、あわわわ!?」


 例え、カンストの魔法戦士でも戦意喪失となった敵をいたぶるほど、落ちぶれてもいない。

 そのまま無言で教会の外へと出ようとすると……。


「あの、待って下さい」


「あたしがあなた様の呪いを無料で解きます」


 イサベラが急に丁寧な言葉で俺を呼びかけて、置かれた問題を解決させようとする。

 今度は何なんだ、この女性の思考は謎だ。


「えっ、いいのか?」

「はい。そのかわり条件が一つだけあります」

「何だい?」


 イサベラが涙目となり、俺の瞳をじっと捉えて離さない。


「お願いです。あたしをあなた様の弟子にして下さい!!」

「はあっ、何だってえぇぇー!?」


 イサベラの衝撃的な告白に脳内の回路が真っ白になった。

 ミミたち女子連中も同じ反応をしている。


 なあ、この場にいない同じ男としての立場のリンクよ、答えてくれ。


 俺は同じ男として、この魔王軍の女団長にどう接したらいいんだよ!!

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