第4章 迫りくる魔王軍による団長たちの影
第17話 ここはアフリコ大陸ではない(教会探索編①)
木々が寄り集まった木々、岩がそそり出た歩きにくい大地に、熱帯のジャングル。
その森を抜けると広大な草原となり、蒸し暑さと比較してカラリと晴れた青空。
照りつける暑さが頭を刺激し、虫眼鏡の収束に成り果てる最中、持参したポーチから折り畳んだ帽子を出し、被ることで強い日差しをシャットアウトする。
俺たちは新大陸のアフリコ大陸に上陸し、三日三晩過ごした長い海をようやく離れたが、すぐに樹海のような場所に遭遇した。
だが、そんな道無き道をアンバー持参の辞典のような地図が役立ったのだ。
……と潔く言いたい所だが、地図上には、ここの草原の道には案内になるような目印も何もなく、こうやってエリア内で迷ってる状況である。
「シュウくん、ガチ迷ったって顔してる」
「ああ、何せ、新大陸だからな」
「いえ、単純にシュウさんが地図を紐解く考えがないからではないでしょうか?」
「それには同感ですわ。馬鹿につける薬はないって言いますしね」
シュウ自身も分からない未知の大陸の探索。
あの過去の英雄のコロンプスもギャラリーに囲まれながら、ゆで卵を船内で立たせながら、こういう気分で新大陸を眺めていたのか。
用済みなゆで卵をかじり、船員に内緒な日記帳に青春の一ページを刻むがごとく。
「おい、お前ら。後ろからコソコソ悪口を言うようなら最前線で戦わせるぞ」
「無茶言わないでくれるかしら。わたくしとテイルは一般生徒ですわよ。特別な修行で身につけたスキルもなく、モンスターと渡り合える武闘の心得もない。かえって足を引っ張るだけですわ」
「そうですね。アンバーさんの言う通り、それこそ無駄死にですよ」
「「じー……」」
「そりゃ悪かった。だからそんな目で睨むなって」
二人の瞳が夜間の猫のように光り、多少、泣き顔になりながら責められる俺。
俺をセメントでがっちりと固めるのもいいが、学生の分際でその維持費を払う覚悟があるのかよ。
少なくとも動けない石像にはなりたくないし、手元にはそんなにお金は持ち合わせてないぞ。
──肝心の船は浅瀬に流れ着き、その巨体の動きをゆっくりと止めている。
稼働範囲の限界か、ここからは降りて進まないといけないからだ。
だから俺たちは徒歩で移動してるのだが、この広く見渡せる草原には動物はおろか、人影もない。
「でもアフリコ大陸のわりには外国らしさを感じないね」
「そうだな。律儀に道案内の標識もあるし、日本語の下にローマ字で記されてるし……」
そう、道の途中にある標識にはデカデカと日本語で場所を示しており、こんな異国の島にあること自体がおかしい。
海外ならその国の言語で書かれてないと不自然なのだ。
「もしかして場所自体を間違えたかもな。リンクの容態も気になるし、一旦、道を引き返すか」
「はーい。お腹も空きましたし、シュウくんの意見に賛成です!!」
「と言うわけだ。アンバーもテイルもそれでいいか?」
「ちょっと、何の力も無いわたくしたちに拒否権はないでしょう?」
「それもそうだったな」
俺たちは船の停泊してる場所へと戻り、空腹を満たすために食堂へと向かった。
****
「──リンク、もう体は大丈夫なのか?」
「はい。お陰様で我輩はこの通り、容態は完全回復ですよ。看病していただき、誠にありがとうございます」
「そのお礼も兼ねまして、今ご飯作っていますから、もう少し待っててもらえないでしょうか」
体中に包帯を巻きつけた痛々しいリンクがせっせと調理に勤しんでいる。
そういえば前にいた世界でも料理人という職業があったのを思い出すな。
特に資格はなく、なるのは簡単だが、ありきたりではなく、自分なりの創作料理を考えつかないと、すぐに潰れてしまう職でもあり、その職を、腕を高めるために日中は調理の技術を磨く。
休憩時間、睡眠時間さえも削り、昼夜問わず練習の日々なので、肉体的、精神的に参ってしまい、本当に料理が好きじゃないとやっていけない職業でもあった……。
……と言う同業者からの耳寄り情報だったのだが、この現実世界に来た時点で既に時効が成立している。
よってここで愚痴のように吐いても何も問題はない。
「お待たせ致しました」
「うわあ、黄金色に輝いてるね」
「この世界では馴染みにある親子丼という食べ物となります。お熱いからお気をつけて下さい」
「はいっ!!」
白米の上にかかった熱々の黄金のソース。
親子丼とは、鶏の卵にこれまた鶏肉を混ぜた作りから名付けられた親と子のコラボである丼もの。
美味しそうな見た目だけでなく、程よい醤油ダレの匂いが食欲をそそる。
「「「「いただきます!」」」」
俺たちは食に感謝の挨拶をして、その丼を口にかきこんだ。
これはめちゃくちゃ旨い。
出来たてトロトロの半熟卵とジューシーな鶏肉が何とも言えなく上品で、本当に好きな婚約者のように、いつも傍にいて欲しいくらいだ。
「皆さん、食べながらでいいから我輩めの話を聞いてください」
俺たちは丼を食べつつも、リンクの発する言葉に意識を集中する。
「まず我輩たちはアフリコ大陸に来たと見せかけて、実はニホン島にあるシコクのシゼンカイキの森にいます」
「ちょっと待て。俺らはあれだけ大きな海原を移動したんだぜ。同じニホン島のはずがないだろ?」
「問題はそこなのですよ」
無駄足だった航海術を否定してリンクに楯突く俺だが、さっきの標識の件といい、薄々と感じてはいた。
「何か勘違いをしてるようですが、ここ数年、度重なる火山の噴火の影響でニホン列島は五つの独立した離れ島になり、ニホン島になったことはご存知でしょうか?」
「えっ、そうだったのか?」
「本当にご存知なかったのですね。高校の基礎で再度学ぶはずですが……」
そうか?
高校には通ってはいるが、そんな授業は受けた覚えはないのだが?
「シュウくんは授業中はいつも寝たからね。記憶があやふやなんだよ」
「ミミ、お前さん?」
ミミが急に俺の元に近付き、何やら小声で話し出す。
「……シュウくん、いいから私に話を合わせて。ここでの知りたい情報が盛り沢山でしょ」
「そうだな。色々とすまないな」
さっきから耳元で話すミミのヒソヒソ話がやけにくすぐったい。
「別にいいよ。私が好きでやってることだし」
ミミも事の重要さに気付いたらしい。
嘘か誠か、俺たちは勇者リンクの話に真面目に聞き入ることにした。
「──それにシュウ殿を取り巻く呪いなら各地に規模がある教会にいけば払えるのですよ」
「……と言うことはわざわざアフリコに行かずとも」
「ええ。探せばトウキョウにもあったでしょう」
リンクから呪い関連の話題を真に受けて、ふと、幼馴染の方に目線をやると、彼女は平静さを装い、下手くそな口笛を吹いていた。
「ミミー!!」
「ごめんね。私のリサーチ不足だったw」
魔王を地に付け、海を渡る船を探し、数々のモンスターとの激戦。
さらにたどり着いた新世界が実は分裂したニホン列島。
おまけに魔王によってかけられたステータス異常もこのニホンで治せるときたものだ。
これまでの俺が行ってきた旅は何だったのだろうか……。
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