第23話 ひょうひょうとした攻防戦(作戦遂行編②)

「シュウくん、今のうちに」

「ああ、ありがとう。これで配達のフリして乗り込めるな」


 俺たちはミミの盗賊スキルで気配を消してこの小屋の近くまでやって来た。


「でも自分たちの格好じゃ、かえって怪しまれるのでは?」

「そこであのフライキン先生の出番よ!!」


 テイルの質問に親身になろうと、ミミが《えらく》張り切った顔で、ボストンバッグから折り畳まれた服を強引に引っ張り出している。


 ミミがたった一着のものを取り出すのに苦戦する間に、隣ではアンバーも似たような服を手提げバッグから数着出していた。


 だからミミ、余分な荷物を減らせよ、ウサギのぬいぐるみでキャパオーバーだって。


「この戦闘服のような黒いスーツは?」

「スーツというかトレーニングウェアみたいですね」


 歓喜に満ちたテイルが輝いた目つきで物欲しそうにスーツを眺めている。

 マニアックな趣向の彼女には喉から出るほどに欲しいんだろな。


「ご名答。フライキン先生が時間の合間をぬってコツコツと仕上げた、この世に数枚しかないバトルスーツよ」


 えっ、あの先生、服飾も出来るのかよ。

 料理も得意だし、それなりに大きな住まいもあるし、一人で衣服住完璧じゃないか!?


「……というかアンタたち、こんな大事な物はスルーして自分の持ち物に夢中なんだから。その場で先生からも説明もあったでしょ?」

「いやあ、自分の身を守るのに精一杯でさ」

「あのですね。身を守るからこその服でしょ?」


 おいおい、いつそんな説明してたんだ?

 いくら頭を捻っても、無断外泊から帰宅した俺とミミを叱った内容しか浮かばないが……。


「まあいいですわ。とりあえず操作方法を教えますわね」


 バトルスーツの横っ腹についた備品入れに手を当てると正方形サイズの取っ手が開く。

 中には右側から青、緑、白、赤の順番で均等に横に並んでいた。


 青で防御力強化、緑で攻撃をガードするバリア、白は透明人間になれる。

 ただし、赤のボタンだけは緊急用となっており、このボタンはイタズラ半分や不用意に押すことは駄目である。


「へえ、物騒なボタンもあるが、色々と便利な服だな」

「こうして着てみると、フライキン先生も一緒に旅をしてるみたいだね」

「そうだな。心強いぜ」


 ありがとな先生。

 魔王を倒したら真っ先にお礼をするよ。

 だから授業の方、頑張ってくれ。


「さあ、早く行きましょう。魔王が居ない今がチャンスです」

「そうだった。奇襲作戦の意味が無くなってしまうな」


 俺の望みとしては、この基地のシステム自体を乗っ取り、魔王が安心して帰った所で容赦なく攻撃を仕掛けるという計画だったが、ミミに何度、卑怯者のゲス男と言われたことか。


 あのなあ、相手は魔王なんだぜ、小手先の正当法な作戦が通用するかよと言い返したら、涙目でそれが男の子のやることなのーと来たもんだ。 


 ミミはレベルは低いけど、正義感のスキルは一丁前にあるからな。

 そんなスキルは、目にもステータスオープンでも見えないけどな。


「しかし、外観から想定はしてたんだけど、まんま製造工場だな」

「食べ物じゃないのが残念だね」

「ミミ、こんな時くらい食欲は抑えろ」

「修行僧じゃあるまいし、人間の三大欲求には抗えないよ」


 こんな非常時にビクともしないミミの食欲ぶりにも参るが、俺たちは回転寿司に来たわけではない。

 早いところ、次なる行動を再開しないと。


「さてみんなで探そう。乗っ取りは無理でも、ここにクロワを倒せる武器か、道具があるかも知れないからな」

「奇襲に向けてだね」


 ミミが張りきって腕を伸ばし、テクテクと可愛く歩く矢先に柱から一つの人影が見えた。


「その奇襲とやらがオレの牙を向く」

「むっ、そこに居るのは誰だ!!」

「ヒョウ=ガン魔獣団長。それが今のオレの肩書きさ」


 柱から飛び出たヒョウが鋭く尖った赤い爪を光らせ、そのまま俺の首に触れようとする。

 俺はその攻撃をしゃがんで避けて、がら空きなヒョウの寸胴にひじ鉄を食らわす。


 これはただのひじ鉄ではない。

 俺の得意なファイアーボールをひじに集中させて放った最強の近接攻撃の一つでもある。


 ちょっとかすっただけでも高熱で肌を焼き切ってしまう破壊力だ。

 いくら筋肉がついていようと、腕なんかでガードして防いでどうかなる攻撃でもない。


 つまり避けるしか方法はないのだが、俺は至近距離でこのひじ鉄を仕掛けた。

 動きたくても動きようがないゼロ距離からの一発だったのだ。


「およっと!!」


 ヒョウはその流れを大きくジャンプしてやり過ごし、ひょうひょうとコンクリの床に着地してみせる。


 何という身体能力の速さ、そして決断してからの素早い行動力だろう。

 同じ団長のサボンやイサベラとは違い、ワンランク上の戦いを披露してみせた。


「ふう。危ないな。物騒なモノ持ってからさ。隣にいる恋人の了承は得たのかい?」

「得たも何も俺は恋人を作らない主義でさ、目の前にある邪魔な障害は排除するたちなんだ」


 コイツはファイアーボールでさよなら所じゃなさそうだ。 


「とりあえず、ステータスチェックでもするか」

「ウィンドウ、オープン」


【ヒョウ=ガン、

 無属性、

 レベル950、

 力9500、

 魔力5300、

 みのまもり6200、

 素早さ9000、

 賢さ4300、

 運のよさ4200、

 経験値33000、

 金貨500。

(以下略)】


 無属性か、これは厄介な相手に出くわしたものだ。

 あのドラゴンとは違い、俺が得意な火属性のファイアーボールは効かないと思っていい。


 防御力はさほど高くはないが、素早さと高い攻撃力を武器にヒットアンドアウェイを軸とした武道家のようなタイプか。

 魔力もそれなりにあるし、何かの魔法を使用する可能性もある。


 こっちが下手に出たら、一瞬で向こうに軍配が上がるだろいう。

 何とも戦いにくい相手だ。


『ファイアーボールー!!』


 俺はファイアーボールの数を何重にも増幅して発動し、火の玉による雨をヒョウの頭上めがけて振り下ろす。

 その何十発もの玉を手の甲と足先のみで簡単に弾き飛ばすヒョウ。


 炎に触れてもダメージがないということは肉体の強化魔法をかけているのか。

 いや、俺の見た限りではそのような詠唱や光などの演出は無かった。 


「これは久々に腕が鳴る相手だぜ」


 俺は肩を大きく回し終え、前傾の姿勢で次の手段を考える。

 ヒョウとの激しいバトルは始まったばかりだ。

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