第24話 ヒョウとの激しい争い(作戦遂行編③)
ヒョウが素早いパンチの連打をしてきて、手に負えず、防戦一方な俺。
数やスピードもあるが、一撃一撃がガードしてる腕に響き、受け止める度に重い痛みを感じる。
相手は攻撃にまかせて、この守りごと打ち負かす気なんだろう。
魔法戦士は魔法も操る戦士だが、普通の戦士よりは防御力に優れていない。
このままの力技では確実にこっちがやられる。
何か手立てはあるか、僅かな確率でも勝てる見込みはあるのか。
俺は空っぽの脳みそに今置かれた情報の海を流し込む。
「フンフン、フウーン!!」
ヒョウが余裕の笑顔で下手くそな鼻歌を歌いながら、次々と無数のパンチを生み出す。
「どうした小僧。まだ俺は半分以下のパワーしか出してないぜ?」
「くっ、これでか。何て馬鹿力なんだ……」
「そらそらオレのパワーになすすべもないか。勇者リンクとの方がまだ戦えたぜ」
勇者と聞いて俺の中の何かが崩れ落ちる。
今まで現実に目を背けていた理性だったものだ。
「そうか、リンクを罠にハメたのはお前さんだったのか」
「ああ。バカ正直で騙すのも容易だったよ」
「だったら手加減はいらないな」
俺は手のひらに炎の渦を集め、例の剣、ファイアーエタニティースレイヤーソードを具現化させる。
その突然の武器を前にしてヒョウは多少ながらも驚きの反応をしてみせる。
「おおう? 何だ、その炎の剣は。中々の味を出してんな」
恐らくファイアーボールを主軸にしており、ちょっと腕の立つ魔法使いと判断していたのだろう。
日頃から武器というもので戦う経験が少ない身として良くあるケースだ。
「まあな。本当はあまり披露したくないんだが」
「だけどな、奥の手を隠してもオレの敵じゃないぜ!!」
ヒョウが赤い爪の先端を光らせて空中へと飛び上がる。
空を飛ぶ翼がない俺もヒョウ同様、日常で使う転移魔法の応用で空にいけるのだが、ここは様子見で相手の出方を
「じゃあ、オレも秘密の技をお見舞いするぜ。くたばれよ、このニヒル野郎がー!!」
何の色香にも惑わされず、湯船に浮かぶアヒルのおもちゃならまだしも、今の俺はそんなにふざけた表情してるのか。
『アサルトデストリンガークロスクロー!!』
ヒョウが両腕を前方に出し、尖った爪を正面に向け、獲物を狩るような仕草でダイブを試みる。
「やれやれ。わざわざ死に急ぐような真似を……」
「ざけんな。魔王軍団長の力を思い知れー!!」
ヒョウは赤い爪をV字にクロスして地上にいる俺に迫りくる。
殺気じみた目からして相当に強力な技でその一撃でとどめを刺すつもりか。
……にも関わらず、俺には動揺の二文字もないし、宙から落下してくるヒョウの必殺技を前にしても微動だもしない。
俺はまぶたを閉じて視覚を遮断し、炎の剣に全神経を集中し、その腕を前方に振るった。
「くたばれや、小僧ー!!」
『ブオーン!!』
「ぐおっ!?」
俺は一太刀でヒョウの両腕を切り裂くと見せかけ、赤く尖った爪だけを綺麗に炎の剣で両断した。
「クッ、こんちくしょうめ!!」
しかし、今さら攻撃を止めることも出来ず、丸腰の体勢で俺に突っ込んでくる。
俺は炎の剣を後ろに引いて、剣先ではない柄の持ち手を、パンチを放ったヒョウのわき腹に思い切りぶつけた。
「ぐっ、ぐはっ!?」
殺傷能力が無いとはいえ、全体重の体にカウンターの攻撃をしたんだ。
例え、命を奪えなくても肋骨などは反動で数本は折れてるだろう。
案の定、ヒョウは青白い表情となり、太陽が照りつける青空を見据えて、野生の動物みたく、豪快に草原の地面に転げこんだ。
俺はそのまま炎の剣を霧散させる。
ずっと出現させているだけでも無限に魔力を奪われるからだ。
「こ、小僧。お前、手を抜いて戦ってたな……」
「まあな。パーティーも身近にいるし、下手な騒ぎは起こしたくないし」
「パーティーねえ……」
激しいぶつかり合いに疲弊したか、俺とのレベルの違いに熱い心が冷めたのか、ヒョウが激しく咳き込みながら地面に横たわる。
「今、戦闘服で透明人間になってる」
「……そうか。それでさっきから小僧以外のオーラを感じるんだな」
今時分、一番近くにいるのはミミか。
彼女の柔らかな弾力が体に伝わっているからだ。
心地よい感触だが、いくら女の子でもセクハラもいいとこだ。
「……オレの完敗だよ。小僧の力を見誤っていたな」
圧倒的な切れ味を身を持って知り、素直に負けを認めたヒョウが地面の上で大の字に寝転がる。
「さあ、さっさとオレの命を奪え」
近くにあった錆びたレイピアを魔法で
でも目的は上下関係を知らしめる欲望のままに行う殺戮ではない。
未成年には立ち寄れない酒場というコミュニティがない俺には常に最新の情報が必要だった。
俺は倒れているヒョウの体を抱き起こし、ポーチにおさめていた薬草で体力を少しだけ回復させる。
「……何のつもりだ?」
「いや、訊きたいことが色々あってな」
「何だ?」
「お前らはなぜこんな世界に来てまで世界征服を求める?」
「簡単な答えさ。異世界で勇者に魔王を滅ぼされたから新天地で再度征服をしようと目論んでいるのさ」
ヒョウが片手を宙に上げて、魔王忠誠への気持ちの何かを掴んで爽やかに微笑する。
「あの大魔獣百科を作った理由もそれか?」
「まあな。あれはクロワ魔王様の提案さ。異世界で魔王として手懐けたモンスターを利用した方が、邪魔者は排除しやすいし、侵略も比較的楽に進めるしな」
「そうか。なら確信に迫るが、俺たちをこの世界に送った者も魔王軍にいるのか?」
「……」
「おい、黙ってないで質問に答えろよ!」
「……」
突然のヒョウによる無視に神経を逆撫でにされる俺。
「おい、お前さんは歳ばかり食ったガキか。都合が悪くなったら無視かよ!!」
「シュウくん、無駄だよ。その人はもう息を引き取ってるから」
「えっ、マジかよ?」
ようやく俺たちの前に姿を現したミミが、目を開けたままのヒョウのまぶたをそっと閉じる。
「出血の少なさから心臓を一撃でえぐられています。実に巧妙な手口ですね」
テイルが胸の空いた細い穴を触り、ヒョウの自害ではないことを伝えてくる。
「……にしては悲鳴すらも上げないとは」
「驚いたままの表情からして、顔見知りによる犯行とは思えなかったのでしょう」
「相手はかなりのやり手ですわね」
「えー、そんなにー?」
テイルが神妙な面持ちで口ずさむとその言葉に釣られてミミが話にノッてくる。
「シュウくんでも手こずるかな?」
「さあ、どうだろう? 戦うまでは分からないが強敵であることは確かだな」
このヒョウ相手を一瞬で、しかもここからでは見えない遠距離で仕留めるとは……。
俺はヒョウの亡骸を魔法で掘った地面に埋めて埋葬し、次なる場所を目指すことにした。
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