第5章 動き出した計画、二度目の企みによる衝突

第22話 暗黙な作戦を企てて(作戦遂行編①)

【魔王クロワSide】


「──そちらの様子はどう?」


 紫の長い髪を赤いシュシュで纏めた魔王クロワが月一の基地訪問に顔を出した。 

 毎日同じベルトコンベアの作業なので、作業員の体調管理などの状態に常に気を配ってるのだ。


「──これはこれはクロワ魔王様じゃないですか。オレの基地に何用でしょう?」


 ──武器も何もない手ぶらなあたしは知り合いの陸軍基地キャンプ・モクサーへと訪れていた。

 今のあたしには絶大な魔法が使用できても、いざという時の対抗できる物がないからだ。


 ここに来る前にロボットの伝承鳩に言伝を頼んで来たものの、まだ準備が整ってないことにいささか不満も感じたけど……。


「さあ、ヒョウ=ガン魔獣団長。ここにあるありったけの武器を出して」

「その顔つき、ひょっとして戦争でもぶっ放すつもりなのですか?」


 二本足の人間なのに顔だけはヒョウの頭という不格好な釣り合わせだけど、団長クラスにおいて強さとスピード共にずば抜けたステータスで、あたしの部下の中では最も頼りになる存在だ。 


 そんな彼の反応からして、やはり言伝の紙を付けた伝承鳩はたどり着けなかったのか。


 どこかで落雷か風害で機能を停止したか、それとも誰かにより、意図的に壊されたのか。

 単純にバッテリーが持たなかったのも原因かも知れないけどね……。


「ええ。あたしの腕利きの二人の幹部が平凡なパーティーの攻撃からやられたの。なりふり構ってはいられないわ」

「何ですと!? あのサボンとイサベラが……。それは事の重大さを感じますね」


 骸骨団長サボンの生存反応が途切れ、妖魔団長のイサベラに関しては不意に蒸発。

 一気に二人の幹部クラスの仲間を失い、あたしは腹いせに虚空を睨みつける。


 空は何も感じてないように雲一つない天候だった。

 別に天気のせいで負けたわけでもない。

 いくら腹を立てても悔やんでも、過去にはもう戻れないから。


「でもこれらの道具には膨大なお金がかかってるんですよ。いくらクロワ様でも無料で渡すわけには……」

「お金ならあるわよ」


 あたしはふくよかな胸元から光り輝く銀色のチェーンを引っ張り出す。


「こっ、これは最高級のオリハルゴンのチェーンブローチ!?」

「それをよろず屋に売れば何億という金貨が手に入る。一生遊んで暮らせるわよ」

「ですが、これはクロワ様の大事な物では?」

「まあ、元魔王のお父様が身につけていたアイテムだったけど」

「だったら、なおさらのこと」


 ヒョウが困ったようにあたしの手にブローチを握らせるが、あたしは真面目に返事を断る。


 オリハルゴンが何だ、最高級が何だ、こうして身にしてないと何の価値もない。

 収納しようにも意外にも重たいし、余計に肩も凝るし、逆に荷物になるだけだ。


「いや、受け取ってよね。宝物庫に寝かせてホコリをかぶるくらいなら、こうやって外の世界に出した方が亡くなったお父様も浮かばれるから」

「クロワ様」


 ヒョウが心のこもった声を出す。

 ヒョウは優しすぎて幹部には不向きな意見も出ていたが、その優しさを買われて入れられたメンバーでもあった。


 真っ向的な強さだけでは魔王の幹部にはなれない。

 力も勿論もちろん、必須項目だけど、サボンの忠誠心、イサベラの信仰心、ヒョウの慈愛の精神などと、あたしにはない何かしらの秀でた能力を求められていたのだ。


「そう感傷的にならないでよね。お父様が亡くなってあれから20年以上は経ってるの。いい加減考えを切り替えていかないと」


「……今はあたしが魔王なんだからね」


 何かに導かれたように覚悟を決めた女の想いを真正面から受け止めて、やや複雑な顔を示すヒョウ。


 そのブローチを両手で優しく包み込むと、すぐさま元の戦士の面構えになり、迷いを振り切る男の顔となった。

 そうよ、あなたのその男気を見込んで頼んでいるのだから。


「そこまで言うのなら分かりました。ですがお父様との想い出の品であることは確か。このブローチは売却せずにオレが責任を持ってお預かりします」

「そう。ヒョウも相変わらずの堅物だねえ」

「いえいえ。口が軽かったら、こんな商売上がったりですよ。ここでは拉致や暗殺などという隠密作戦もありますし、下手に騒ぎを起こしたくもないのです」


 表向きでは陸軍が使用する銃や火薬などの兵器を製造する工場。


 しかし、その裏では得体の知れない闇社会にどっぷりと漬かっていて、実際はこちらの裏組織でこの工場が成り立っているようなものだ。


「仲の良い友達が少々過激なイベントでも、新たなお祭りごとを決行しようとしてる。表向きではそれでいいじゃないですか」

「そうだね。そうやっていつも上手い感じで丸め込まれるからなあ。ヒョウのトーク術には敵わないね」

「いえいえ、ここに入る前に学校の教師から学んだ処世術ですので」


「……確か名前はフライキン=フルト。現時点でもあのシュークリーヌアンビバレッジ高校の教師を担当をしてる者です」


 コンベアに流れる武器を観察しながらも、あたしはその洒落た高校という響きに、ふと考えを止めた。  


「なっ、あのフルトだと!?」

「どうかされました?」

「フルトというとあたしのお父様を倒したという伝説の女勇者か!?」

「俗にいう隠れ勇者ですか」

「ああ。あれから姿をくらませ、様子を見かけないなと思ってたら、まさか教師をやっていたとは」


 木の葉を隠すなら森に隠せの戯言のようにあの女勇者の正体を見破れなかった。

 これまでの敗因はそこにあったのかもと悩みつつも、あたしは細い腕を組む。


「勇者の手駒なら相手にとって不足はない。ありったけの武器の他に防具などもあると助かる」

「それに関しても了解です。ちょっと待っててください」


 ヒョウが作業員のいるベルトコンベアに向かい、あれこれと指示をしていると、話を聞きつけた作業員が様々なアイテムを運んできた。


「これだけあれば足りますか?」

「ああ、十分過ぎるくらいだ。その心意気に感謝する」


 遠距離の要となるショットガン、サブマシンガンにガトリングガン、

 近接攻撃で役立つであろうサバイバルナイフ、日本刀、メリケンサック。


 防具は魔法耐性のあるローブや、女性でも軽々と着れる鎖かたびらや胸当てなど。


 おまけに爆撃機から落とせる大きな爆弾や色気溢れるビキニ姿によるあたしのブロマイドまであった。


 後半は完全にヒョウの私物ね。

 どんだけ部下に慌てて持って越させたのか……。


「おや、クロワさん。何者かがこっちの基地に近付いてきます。数にして四名です」

「手前の巨大モニターに写せるかい」

「はい。この距離からだとソウセイ様が操るステルスドローンを近付けて拡大も出来ますが?」

「いや、そのままでいい。変に悟られたくはないからね」


 画面からして女の子三人と戯れる軟弱そうで最強な一人の男の子。


 やって来たな。

 例の勇者御一行が。

 だったらこっちも行動に移すわよ。

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