異世界でレベルカンスト、現実世界でもチートなファイアーボールで無敗です!?
ぴこたんすたー
第1章 天下無敵の魔法戦士
第1話 最強のファイアーボール(魔法戦士降臨編①)
『ガオオオオー!』
ここは世間から現実と呼ばれた世界。
元居た街並みと似たような高層ビルが立ち並ぶど真ん中に位置するこの場所は、沢山の木々に光を遮られた森の中だが、それを裏付けるかのように巨大な動物が周囲を支配していた。
いや、こんな鳴き声の動物なんてこの世界にいるわけがない。
トカゲを巨大化したような生物でもあり、頭に一本角を生やし、大きな口を開いた朱色の化け物は鋭い牙をちらつかせながら、こちらの機会を伺っていた。
「朱色からして、この世界ではあり得ない生き物だけどな」
『ガアアアアー!』
大きな化け物は挑発されて怒りを感じたのか、大きく吠えるとこちらに狙いを定める。
『ゴオオオオー!』
「うわっ、相変わらず危ない奴だな!」
その化け物の口から吹き出た大量の炎の波。
相手は異世界では定番の最強モンスターと位置付けされるドラゴンだった。
俺の頭の中の辞書から知り得るからに俗にいうダークネスフレアドラゴンってヤツか。
ヤツは二本足が主流なドラゴンの中でも、特に狂暴性があると心の鐘が警鐘する。
「うーん、別に倒すほどの相手でもないし、このまま転移魔法で害のない
『ガオオオオー!』
「それにこの森に新しい海が出来そうだしな」
海と呼んでも炎だけに人間が泳げそうな環境じゃない。
俺の居た異世界では魔族が堂々とマグマの海に浸かって傷ついた身体を癒すという現場は見たことはあったが、この世界ではそんな人間はいないらしい。
そんな人間がいたら、マスコミというやたらとお喋りな人間の集団が現れ、黒くて四角い貝殻のようなモンスターを操り、眩しい光の点滅で相手を威嚇する。
そして次の日には周りの人間たちがぞろぞろと緊迫した相手に群がり、あれやこれやと暴風雨や海のしけでもない、質問の嵐に襲われるのだ。
まあ、何だ、ここで能書きを垂れてる場合じゃないな。
このままだと、ここの森自体が焼け野原になってしまう。
キョウトという舞台から首都の位置が変更となり、大都市、トウキョウとか呼ばれた唯一の安らぎと呼ばれるこの森も燃えてしまえば一巻の終わりである。
俺にとっても息をつける場所として、休憩地と選んでいた所でもあり、ここでこの森林を奪ってしまうのは
燃えてしまえば数分だが、このような森林に成長するまでには何年もの年月がかかる。
だが、俺自身、そんなに気が長い男でもない。
年齢は十七歳になったばかり。
ここでの職業は学生の高校二年生。
どちらかと言えば気は短く、クールに見えて内面は熱い男だなとはよく言われる。
例え、この現実世界と言われた異世界でも、仲間たちの反応はみんな一緒だ。
『ガオオオオー!』
「さてとドラゴンさんよ。ピーチクパーチク鳴くのもいいが、そろそろ俺の視界から消えてもらおうか」
相手側はガオガオしか吠えてないが、利き手の右腕をダークネスフレアドラゴンに向けて、ある言葉を唱える。
『テレポーテー……』
「シュウくーん!」
「はあ?」
『シュウ』と黄色い声で呼ばれた俺はショートな黒い髪を乱雑に掻きながら、その声の主に振り向いた。
「ねえ、シュウくん、こんな場所まで来て、何してんの?」
「何だよ、ここには来るなと言ったろ、ミミ!」
猛獣ドラゴンに警戒もせずに俺、サンイッチ=シュウに近づいてくる幼馴染みでもある黒に近いパッチリ赤眼で、茶髪なポニーテールであるコウボウ=ミミ。
ドラゴンといえど、誰でも構わず奇声を上げて炎を吐く
同年代で活発的な田舎娘も近くで見ると、意外と可愛いからという理由でスルーするほど、知性の高いドラゴンでもなさそうだ。
「ねえねえ、シュウくん。この前の数学のテスト難しかったよね」
「私たちが居た世界では、あんな謎かけ問題とかなかったよね」
「特にさ、二次方程式とか。あんな英語の暗号文を見せられて何とか答えなさいだなんて何のことやら」
二次方程式って中学で習う授業だし、暗号文じゃなくて計算式なんだが?
そう心でツッコミながら息をつく間もなく喋るミミを止めるべく、ドラゴンとミミの間合いに入る。
「ミミ! いいから近付くな!」
「えっ、何言ってるの。私とシュウくんの仲じゃん。今さら照れなくてもいいからさあ」
ミミは俺との話に夢中なのか、向かってくるドラゴンの存在に気付いていない。
『ガオオオオーン‼』
ドラゴンは咆哮し、口の中を大きく膨らませる。
ミミはその存在感と叫び声に驚き、草地にぺたんと尻餅をついた。
「きゃっ、何々、あのドラゴンなの!?」
「何でこんな辺鄙な現実世界にいるのよ!?」
「それは俺が聞きたいくらいだぜ」
ミミが一人で騒ぎ、『私、食べても美味しくないよ?』とドラゴンに事情を説明するが、それが逆に反感を持たれたようだ。
ドラゴンは大きく体を震わせ、ミミ目がけて、炎のブレスを吐いた。
「きゃああー‼ 丸焦げになっちゃう!」
「いや、その前にゲームオーバーだろ?」
ミミは素早い身のこなしで次々と炎を避けるが、素早さのスキルは意外にも技ゲージを消費する。
彼女は異世界では盗賊の職だったが、まだ成り立てで能力はひよっこだ。
「だったらピンチな私を助けてよ!」
「きゃあ!?」
ドラゴンが炎でミミをつけ狙い、逃げ回るのも末路だったように、草に隠れた大きな石につまづく。
本人は至って真面目な女の子のつもりだったが、ここまではお約束のボケである。
『ギャオー、ゴオオオオー‼』
「ミミ!」
ドラゴンの迷いもない、一筋の炎の海がミミの体に襲いかかる。
『ファイアーボール!』
俺の黒い瞳が赤くなり、人さし指からピンポン玉みたいな火がちょろちょろと飛び出し、そのままドラゴンの炎のブレスに飲み込まれる。
『ゴオオオオー、オオウ!?』
強力なブレスの流れを押し戻していく一つの炎の玉。
これにはドラゴンも戸惑ってるようだが、放ってからじゃ、もう後には引けない。
息をつく暇もなく、これよりダークネスフレアドラゴンとの激しい一騎討ちが……、
『ゴアアアアーン?』
……始まろうともせず、たった一発の攻撃魔法により、あっさりとヤツの炎を突き破り、ドラゴンの腹を大きくぶち抜いた!
『ギャオオオーン!?』
「ドラゴンのわりには知性の欠片もないクズが、俺のファイアーボールに対抗するとは。千年早いぜ」
ドラゴンは大きな地響きを立てて、その場に倒れ込み、ヤツ自身も放っていた炎の海さえも綺麗に消え去る。
俺は仙人じゃないし、千年も生きてないけどな。
「さてと、コイツはどれくらいの経験値と金があったかな」
「ウィンドウ、オープン」
【ダークネスフレアドラゴン、
火属性、
レベル889、
力8500、
魔力8800、
みのまもり8200、
素早さ7000、
賢さ1300、
運のよさ1200、
経験値23000、
金貨9900。
(以下略)】
力、魔力、みのまもりの三点セットが最高数値の9999に近く、ラスボス、いや、ゲームクリア後に戦える裏ボスクラス並みの手柄だが、すでに俺のレベルはカンスト(カウンターストップの略)なので特に影響はない。
だけど今月も金欠なんで、異世界と通信システムが繋がる冒険者ギルド(ウィンドウ、オープン)を通じて、金貨はありがたく受け取っておく。
「へえ、相変わらず凄いよね。初期の火魔法で、しかも同じ火属性を無視してドラゴンを一撃ドカーンだよ‼ 詠唱時間もゼロだし‼」
「まあ、初期魔法だからな。それに俺はこの魔法しか使えないんだがな」
「しかもさあ、岩より固いドラゴンの体を貫通させて。職業をスナイパーに変えた方が良くない?」
「ははっ、冗談言うなよ。あんな地味で陰湿な職業なんて俺の性に合わないんだよ」
魔法戦士の方がアクティブだし、派手で目立つし、何より異性にモテるはず。
(目つき悪いし、愛想もないのでNG )
……と、そこから選んだ魔法戦士という職業だったが、この世界ではこんな職業なんて紙切れ同然だし、何しろもうレベルはカンストだ。
他のステータスを上げようとしても手一杯な状態であり、カンスト前にやたらと強化して上げていたのは唯一覚えていた炎の魔法、ファイアーボールのみ。
俺は誰よりも強くなりたいと、他のステータスには目もくれず、このファイアーボールのスキルのみを上げまくった。
それがこの結果、ファイアーボール一発のみで敵を倒せてしまうというチートな魔法を会得してしまったのだ。
【サンイッチ=シュウ、
魔法戦士、
レベル999(MAX)、
力4500、
魔力9999(MAX)、
みのまもり4300、
素早さ4550、
賢さ9700、
運のよさ4000、
火魔法ファイアーボールレベル999999(カンスト)……、
経験値999999……、
金貨9800。
(以下略)】
自身のステータスをオープンしたその結果がこの状態だぜ……。
もう少しバランス良くスキルを上げれば良かったな、どんだけ能力が片寄ってるんだか。
「でも良かったな。剣も魔法も得意じゃなかったシュウくんがこんなにも逞しくなって」
「おい、誤解されるような言い方はやめろ」
「何言ってるの。熱くてちょうどいい感覚だし、気持ちいいくらいスカッとしてさあ」
おい、お得意のファイアーボールをそこいらのゴルフボールに例えるな。
「……それは聞き捨てならないですわ」
火の海で焼かれた木々を魔法で修復し、全てが終わった後に凛とした声が鼓膜に響く。
「ヤベッ、こんなときに限って厄介もんが……」
「この声は陸上とかいう職業に入ってるアンバー先輩だよね」
「ええ、その通りよ」
トーストン=アンバー。
変な名前のせいか、上の名で呼ばれるのを嫌う高飛車な美人系の娘。
「あなたたち、こんな所で何をしてたの? 場合によっては教師に話して、学校を停学にしてもよろしいのですわよ」
強気な発言とは裏腹にアンバーは木の根に足を捕られないよう、慎重な足取りでこちらに向かって来る。
何だよ、不純な動機でいると思わされたか?
まあ、その方が都合がいいな。
この世界では人為的に魔法を作ることが出来ないらしいし、下手にこの魔法のことが知れたら、おおごとになりそうだしな。
俺はアンバーに話を合わせようと彼女の前に打って出た。
しかし、アンバーは不機嫌そうに友好な証でもある握手を素通りし、俺から少し距離を置いた。
「何だよ、俺が何かしたか?」
「ええ、それ以上近づかないで下さる。林檎病という病気になりますので」
アンバーは警戒しながら、病名を口に出すが、惜しい、その病名はちょっと違うし、俺はアンバーに下心さえもない。
この現実世界という異世界に来て、俺の冒険は始まったばかりだ──。
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