第34話 隙を見せたら終わりだと(新生魔王決闘編②)

 ──俺は斬られる覚悟で頭を両手で防ぎ、剣でのダメージを少しでも減らすために体を僅かばかりに反転させる。


 剣は普通に斬るだけじゃなく、ギリギリの近接攻撃では、体重をかけて対象を叩き潰すこともできる。


 それを視野に入れ、この行動は少しでも剣が当たる箇所をずらし、その攻撃が当たった時による内臓の損傷を最低限にするためでもあった。


『ガキィィィーン!!』


 耳障りな擦れ合う金属音が聞こえてきて、自分の身に何も痛みなどのダメージがないことを知り、内心ホッとする。


「どうやら間に合ったようですね」

「ふー、ヒヤヒヤさせますわね」


 僕の真正面に小さな背を向けた二人の女の子はいつもより頼もしく、二人のフォローにまわっていたリンクにも勇者という貫禄が滲み出ていた。


「リンク助かったぜ。テイルにアンバーもな」

「何ですの、その言い分は。しんがりでの激しい戦を戦い抜いたわたくしたちはおまけじゃないのですよ」

「だったら、なぜアンバーは竹刀を構えてるんだ?」

「それには我輩がお答えしましょう」


 ドッグの剣は相手の魔法力を吸収して自らの糧にする能力があるが、それは魔法が相手の場合である。

 だったら初めから魔力がない普通の竹刀で立ち向かえば、ドッグの剣では魔力を飲み込めず、パワーを上げるのは事実では不可能のはず。


 ドッグの剣自体も魔力を溜めておくことはできず、吸収したら次の斬撃で拡散されるため、先ほどの僕に向けた強力な反撃は出来ないと……。

 勇者リンクよ、明智小十郎もビックリな中々の名推理だな。


「うむむ。ワタシの魔物の精鋭部隊をいとも簡単に蹴散らしてくるとはな」

「まあ我輩たちがオーク如きの軍勢で抑えきれるとでも」


 そうだな、聞いた話によるとアンバーは剣道をしていて、テイルは敵の分析などの情報で敵側の弱みも掴める。


 さらに歴戦の勇者も加わった頼もしいパーティーに、二足歩行して棍棒が武器なただの豚相手に手こずるわけないよな。

 着ぐるみじゃないモンスターだけど、人材ミスもいいとこだ。


「さあ、ドッグさんとやら、美味しい惣菜パンになりたくないなら、素直に降参をおすすめするぜ」


 ホットドッグの異名さえも合いそうなソウセイ=ドッグは俺の威勢のある発言に剣を床に下ろす。


 あれほどデタラメ好き勝手に暴れていたドッグはようやく観念したのか、イキイキとしていた表情を曇らせる。


「……確かにな」


 腕の立つ勇者が二人、強烈な炎を操る魔法戦士、意外と馬鹿にならない盗賊のスキル、そして一般人でもそれなりの戦いができる二名ときたものだ。

 いくら強い魔王であっても、五対一では分が悪すぎるよな。


「もう諦めて試合終了にしたらどうだ。どう考えても勝てる見込みはないだろ?」

「そうだな。認めるよ、ワタシの技量のなさに」


 ドッグが剣を黒いローブに見え隠れする腰の鞘に剣を収めて無抵抗の格好となる。


「ああ、物分かりが早くて助かるよ」

「いや! 間違っても降伏などはしない。だったらこの体を捨てるまでだ!!」

「はっ、お前さん? 何を言って?」


 血迷って裸芸でもするのか、ドッグが着ていたローブを脱ぎ捨てる。

 その上半身をさらけ出した肉体はセクシーで、体つきも程よく引き締まっていた。


 また胸板から腹部までには大きな刀傷が右斜めについており、その古傷から過去での大戦が思い浮かぶ。

 俺は無言の反応でドッグに目線を合わせる。


「ああ、この傷かい。ご察しの通り、前回の戦いで勇者フライキンにつけられた傷だ」

「凄いな、ちょっと集中を削ぐと両断しそうな傷痕だな」

「封印とは名ばかりで本当は命を断つために振るわれたんだが、フライキンにも情があったらしくてね」


 あの優しい先生ならそんなことがあっても、おかしくはない状況だ。

 敵に情けをかけて、攻撃の手を止める大人な姿が頭の中に膨らんでいた。


「『ワタシにも大切な想い人がいるはずだ。だから降参して世界征服をやめてくれないか』とな」

「それで断ったらバッサリと斬られて?」

「いや、その隙に身体を魔法で縛られ、強引に封印されたのだ」

「自業自得じゃないか……」


 どうやら魔王が封印されたのは強制的ではなく、お互いの商談からの大きな失敗からだったようだ。


「さて、お喋りもここまでだ」

「このワタシに本気を出させたことを後悔するがいい」


『ウオオオオオー!!』


 ドッグが気高い唸り声を上げて、筋肉質な体を激しく揺さぶり出す。


『ファイアーボール!』


 俺はその空いた時間を見逃さず、炎の玉を魔王ドッグに撃つ。


「おうおっ!?」


 突然の遠距離攻撃にその動きを休めるドッグ。


「お前さん、我輩は今、大事な変身を!?」

「だったら変身前に倒した方が手っ取り早いだろ?」


 俺は正義のヒーローではなく、闇に生き、コツコツと影で悪を相殺する魔法戦士だ。

 そんな俺は敵も暗殺も得意だし、例え建物や草木などが崩壊しても修復魔法で直せる。


『ファイアーボール!』

「おい、よしてくれよ!?」


 俺の極み抜いたファイアーボールなら一発でも当たれば致命傷なんだ。

 先手をうって動きを制限した方が、後々容易い。


「だから封印するより風穴を開けた方が最善策かもって、二人の勇者がな」

「くっ、あの二人、器用な逃げ道を作ってからに!」


 二人の勇者、リンクとフライキンは前回魔王を封じたせいか、攻め方や弱点などを知り尽くしていた。

 その上、こちらの戦闘力は寄せ集めのわりには前回とは比べようにない強さだ。


『ファイアーボール!』


「うおっ、お前さんも小癪こしゃくだな!?」


 建物に大きな損傷をあたえないよう、ドッグの間合いに飛び込んで、肌身に近い部分でファイアーボールを放つの繰り返し。

 ドッグは紙一重で炎の魔法を避けるたび、行き場を無くしたファイアーボールは徐々に薄れて最終的には無へとかえる。


「シュウ殿。そんな感じでお願い致します」

「ええ、リンクの言う通りです。封印の力は魔力もですが、結構体力も使いますからね」


 二人の勇者は左右に離れて、魔術の構成を練り出す。

 二人ともそれなりにレベルやステータスは高めだが、トップクラスの強さな魔王を封印となると、それなりの詠唱時間がかかるらしい。


「くっ、お主たち、卑怯だぞ」

「卑怯なのはどっちだよ。大魔獣百科という本を通じてモンスターをこの世界に召喚して」


 その百科事典を奪い去り、今すぐにでもファイアーボールで燃やしたい気分だったが、俺とミミの地元に帰れる貴重な本となると慎重に取り扱うしかない。


「ぐぬぬ、我輩に逆らって無事に済むと思うなよ」


 追い詰められたドッグは両手を上空に上げて、巨大の鋼の固まりを呼び寄せた。


 何だ、それも変身の一部なのか?

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