第33話 最強の魔法剣に挑む最悪な剣(新生魔王決闘編①)

『ガキーン!』


 新生魔王ソウセイ=ドッグが詰めてきたパンチの一撃を炎の剣、ファイアーエタニティースレイヤーソードで自然の返しで受け止める。

 普通の剣なら衝撃で折れてしまいそうだが、俺が手にしてるのは魔法剣だ。


 魔力がある限り、永久に強度は保てるし、俺のMPは少しずつだが、特殊スキルで自動回復するため、ほぼ無尽蔵に折れない剣を出し続けることもできる。

 エタニティーの剣の語源はここからきていたりするのだ。


 いくら新生魔王としてパワーアップしたドッグでもこの剣を砕くことは不可能だ。

 この剣はレベルカンストなファイアーボールの固まりの材質で出来ているからだ。


 その上、最強の攻撃力を持ち、なおかつ強度はダイヤモンドよりも強く、ステータス画面さえも振り切って数値が何億とバグっており、現実的に破壊は無理である。


「残念だったな。この剣さえあればダメージはほぼゼロさ!」

「フムフム。どんな攻撃も通用しない武器ときたものか。これは厄介だな」


 ドッグが顎に手を当てて少しばかり考えごとをする。

 その間に背後から攻撃すれば、さらに勝算は上がりそうだが、俺はそこまで落ちぶれてはいない。

 お互いにやるからにはセコいことはせず、正々堂々の勝負だ。


 さてここで、少しの合間を縫ってお馴染みの敵さんのステータス調査といくか。


『ウィンドウ、オープン』


【新生魔王ドッグ、

 火属性、

 レベル?、

 力8500、

 魔力9300、

 みのまもり5400、

 素早さ8720、

 賢さ8930、

 運のよさ8200、

 経験値44000、

 金貨16800。

(以下略)】


 クロワと合体し、闇から火の属性になったのか。

 これでは俺の得意なファイアーボールも同属性のため、正面からダメージをあたえるのも難しいだろう。


 ここは上手い言葉で誘い込んで、僅かな隙をついて倒すしかない。

 ただレベルが判明しないことに、いささか不安もあるが……まあカンストで計測されないとかじゃないだろう。


「どうする。このまま降伏していい子ちゃんになるのなら少しは考え直すが?」

「いや、君の性格上、反乱分子は摘み取るタイプだろう」

「へえ、俺のことをよくご存知で」

「ご存知も何も過去にフライキン=フルトから色々と聞かされたからな」


 フライキンと聞いて、いつも学校の授業中に怒られていたことを思い出す。


 日々の鍛錬の努力は秀才さえも上回る。

 先生が理由もなく授業をサボる俺に嫌というほど突き付けてきた言葉だ。


「まさかフライキン先生が勇者だったことには驚いたけどな」

「アイツは強かったぞ。当時のこのワタシの力を大幅に上回っていた」


 ドッグが金色の鋭い目を光らせながら己の過去の失態を明かす。

 フライキン先生が過去に凄腕の勇者であり、どんなモンスターでも指一本でコロリと逝った強さだと……。


「だが、あの勇者は一つだけ過ちを犯した。このワタシの命を絶たずに封印したことだな」


 そうか、討伐じゃなく封印が解けたから、こうしてこの短期間で魔王が現れていたのか。

 道理どうりでこの世界での侵攻レベルが早いわけだ。


「その自己満足な優しさにより、こうやってワタシが再度、牙を向くことを知らずにな!」


『ズバアアアーン!!』


 ドッグが黒い剣を手から生み出し、容赦なく俺という対象物を剣ごと振り下ろす。


「ぐわあああ!?」


 肩口から腹へと大きなダメージを受け、発していた魔法剣の炎が途切れる。


 そんな馬鹿な。

 どんだけ強い魔法力の剣でも、このカンストな魔法剣が力技でへし折られるなんて……。


「まさか、全てを無に返す剣か……」

「フム、半分はあってはいるが、正しくは相手の魔法力を吸収して攻撃力に変換する能力である」

「くっ、力のない魔法使いが使うような代物か……」


 元は普通な構造の武器でも、そこに魔力が通じることにより、莫大な力を得られる剣。

 魔法使いでは主に杖を使用して、それ系統を操るらしいが、腕力のある魔王ドッグは剣として使いこなす。


 そんな攻撃力のある剣に相手側の魔法力を奪い取るオプション付きと、力の差は歴然だった。


「そうだな、ワタシの強靭な魔法力にその炎の剣の魔法力を吸収すれば、この効果は無限大!」


 ドッグの剣が炎のように立ちのぼり、こちら側の自動的に再生した魔法剣をもう一度、強引に叩き割る。


『ザシュ!』


「……くっ!?」

「この剣に斬れないものはないのさ」


 次なる斬撃で両腕に傷を負い、そのせいか魔法剣の維持が難しくなり、そのまま地に両ひざを下ろす。


「さあ、この場で消えてもらおうか。シュウとやら」

「へえー、奇遇だな。天下無敵の魔王が俺の名前を覚えてくれたなんて」

「貴殿はこのワタシをそれなりに追い詰めた者だったからな。せめてもの情けだ」


 ああ、俺もここまでの人生か。

 魔王を倒すのは勇者が相場と決まっている。

 カンストと言えど、魔法戦士如きが魔王に立ち向かう以前で無理な話だったのだ。


「シュウくん!」

「シュウ君から離れなさい!」


 あまり実力差に戦意が薄れた俺に続き、今度はミミとフライキン先生が魔王ドッグに敵対する。


 よせ、レベルカンストな俺でさえも魔王の圧倒的な強さで打ちのめされたんだ。

 束になって倒せたら、これだけも苦労はしない。


「喧しい、カアアアアー!」


「「きゃあああー!!」」


 ドッグが大きな声を上げて城内を反響させ、起こした風の勢いで周りの小物や照明が音を立てて壊れる。

 幸い、キャンドルの灯りがあったせいか、最小限の視界は確保できた。


 一方でミミと先生は衝撃波で壁へと吹き飛ばされ、柱に体を叩きつけられる。


「ひよっ子風情が邪魔をするな。どんなに落ち着いた動物でも食事の邪魔をされると怒りをあらわにするものだ」


 機嫌が悪い肉食動物はこちらの様子を苦々しく見ながら悪態をつく。


「そこで大切な欠片が無くなるのを見ているがいい。そして自らの無力さを恨むのだな」

「くっ、シュウくん……」

「……シュウ君」


 体当たりの衝撃が想像以上だったせいか、壁にうなだれたままで動けない二人。

 元より先の攻防で傷が癒えてないミミは、時折大きく咳き込み、口先から僅かに血を滲ませている。


「ハハハッ、この優越感、実に愉快だな。さらばだ。シュウとやら!」


『ズバアアアーン!!』


 ドッグはそのまま剣のエネルギーを増幅させ、傷だらけな俺の体に力任せで斬りかかった。

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