第14話 骸骨剣士も航海する船(海原移動編③)
──日暮れの水平線に合わせてカモメが舞い、優雅な波飛沫をあげて大海原を航海する一隻の大きな船。
あれから俺はモンスター船とは別の年季の入った船を発見し、無事に海を渡ることが可能になった。
だが、平穏という二文字は瞬く間もなく無くなり、有無も言わさず、船上は緊迫した戦場となっていたのだ……。
「──くっ、早くも退路を塞がれたか」
「シュウくん、後ろにも沢山いるよ」
ミミが盗賊スキル『忍び足』を使って、パーティーの足音を消し、なぜか俺を集中攻撃する骸骨剣士の注意を反らすが、数が多すぎて手に負えない。
『ファイアーボール!!』
俺の手から繰り出した炎の球により、体の大半が大きく吹き飛び、カラカラと音を立てて、その場に倒れ込む一体の骸骨剣士。
だけど、この一体だけで試合終了ではない。
立ち込める白い霧の中、ミミの言う通り、デッキにて無数の骸骨なモンスターで囲まれていたからだ。
──ユウデアサバシ港から新たなる船を探して、ようやくマシな船を発見したと浮かれて乗り込んでいたら、その船が前触れもなく動き出し、こうして船内からモンスターがぞろぞろと出てくる始末だ。
前回のモンスター船に続き、この船にもモンスターが潜んでるような類いらしい。
「どうやらこのモンスターたちは、この船の乗組員だったみたいですわね」
──白いセーラー服はホコリなどで薄汚れ、所々がほつれて破れてる様子からアンバーはそう悟ったのだろう。
船でこの格好は船乗りそのもの。
借りにも学生が船舶免許も持たずにたむろしてる方が逆に変である。
学生は勉強道具以外にサーベルや盾も持っていないし……。
「だったら自分の身は自分で守れよ」
「フン、余計なお世話ですわよ」
「じゃあ、俺の背中はアンバーに預けるぜ」
「何ですの。どさくさに紛れて、あまり近寄らないでもらえます?」
さりげなく紳士的な素振りにも嫌がってるアンバーが背中合わせだった俺との距離を開く。
その間にも甲板にいる骸骨剣士の数は群れをなすように続々と増え、こちらの足場さえも危うくなる。
「全く、これから何かの大掛かりなイベントでもあるのか? このままじゃ、身動きもままならないぜ」
「ハルハバラのコミケとか言うものでしょうか」
「へえ、この世界でもオタクの聖地という場所はあるんだな」
テイルが両手を合わせてモジモジし、眼鏡を外してビーエルは最高ですよねとか喋ってるが、いかにも本好きの彼女らしい。
眼鏡のない素顔もべっぴんさんで目に余る。
どうして文学少女って、眼鏡を外すとこんなにも魅力的に映るのだろう。
これが巷で噂のギャップ萌えというヤツか。
『カシャカシャ……』
無言の問いかけで、肉や筋のない骨を器用に操り、こちらに接近してくる剣士たち。
くっ、この骸骨の数ゆえに満員乗車の流れかよ。
これじゃあ、ファイアーボールを唱える準備もできないぜ。
──もし、発動しても間合いを極限まで詰められているので、灼熱の炎に丸め込められ、モンスターと一緒に爆死も避けられない。
運良くかすり傷でも、自らの最強魔法であり、この身に受けただけで大幅に体力を奪われるだろう。
普通のファイアーボールなら軽い火傷程度、でも俺のは体ごと消し飛びそうな強烈すぎる破壊力。
ちょっと触れただけで、その部位は跡形もなく消し飛び、大怪我では済まない。
少しでも当たると待ち構えるのは永遠の闇と言った所だろう。
俺は初めて技を極めたカンストな癖のある魔法戦士の自分と、コツコツとバランス良くステータスを上げる普通の魔法戦士との能力差を恨めしく思った。
こんな時こそ、人生のリセットボタンが恋しいものだ。
「──シュウさん、助けて下さい!!」
思いにふける最中にテイルのヘルプミーの声にて、我に返る俺。
アンバーはそんなテイルを守りながら、デッキブラシを武器にして追い払う仕草をしてるが、そんなやわな掃除道具では、骸骨剣士に攻められるのも時間の問題だろう。
「そうしたいのは山々なんだが、こっちも立て込んでいてな」
「もうシュウくんは女の子の扱いが下手だね。ここは王子様なら、命に変えても助けに参りますでしょ」
「あのなあ、ミミさんよ。例えレベルマックスでも俺の命は一つしかないんだぜ。
いくらこの世界では墓無しでも、こんなボロっちい船での墓に入るわけにはいかないだろ」
こういう非常時に困るのが俺とミミとは違い、何のスキルも魔法も使えない平凡な二人の女の子がパーティーにいるという現状。
スキルや魔法がない以上、モンスターを倒せる
場所が船内で、さらに辺りは海に面してるとなると逃げようがない。
「せめてコイツらを味方の手の届かない場所に移動させたら倒せるんだが……」
「シュウくん、それなら私が」
「ミミにそんなスキルがあるのかよ?」
「あっ、その言い方は少し傷つくなあ」
こちらから見る限り、盗賊になったばかりで、この世界にやって来たミミに特殊なスキルがあるようには感じないが……。
「これでもシュウくんが寝ている時とかにレベル上げもしてたんだよ」
「そうなのか。でも休める時は休めとかないとな」
「へっ?」
ミミが休息というワードに敏感に反応する。
これで俺も立派なテクニシャンな会話の持ち主か。
言っとくが普通のマッサージだからな。
経営し始めから急降下な売り上げとか、大量の金貨を積んだ意味がない。
「ましてや女の子なんだ。体調不良で冒険に支障が出たら困る」
「シュ、シュウくん。こんな場所で告白なんてしないでってば!?」
「はあ? 俺は真実を言ったまでだが?」
「だから言わないでってば!?」
会話は愛の囁きみたいだが、現実の恋愛はそんなに甘々じゃない。
俺とミミの喧嘩声が船内全体に響き、一部の人間から熱いアピールを浴びせられるが、揃いも揃って、本当の愛というものを知らなすぎる。
「ミミもすみに置けないわね」
「自分たちは傍観者として温かく見守るべきですね」
「それは別として、この状況ヤバくありませんの?」
「ヤバイどころか、地獄の底に落とされますよ」
「骸骨剣士だけに地獄行きかあ。何か走馬灯が見えてきそうだわ」
モンスターに船尾に追い詰められアンバーとテイルだったが、二人は至って慎重な物腰だった。
この勝負、自身の心が折れたら負けだと……。
「皆さん。ちょっとしゃがんでいて下さい」
「えっ、どういうこと?」
「この足場から皆さんの体だけを浮かせます」
「はあ?」
ミミのマジシャンのような物言いに固まってしまうアンバーとテイル組。
しんとした空気の中、骸骨剣士の骨の軋む音だけがやけに騒々しい。
「なるほどな。その手で来たか」
「シュウ君、分かってるなら状況の説明をしてもらえます!?」
「まあ、すぐに理解できるさ」
俺はミミの作戦に乗った側だ。
船が沈まないのなら、好きなようにして構わない。
「いきますよ!!」
『トラクタービーム!』
不意に足から白い光が発生し、俺たちのパーティー以外で、骸骨の集団だけを空に浮かせてみせる。
──通称トラクタービーム。
重力を操り、地面から空中へと乗り物などの重い物体を軽々と移動させる魔法でもあるが、上手く操れば生き物を空中から地面へと逆さ向きに落下させ、ダメージをあたえる無属性の攻撃魔法にもなる。
それを盗賊のミミが使えるとは心外だった。
なるほどな、この魔法を覚えるために、盗賊のスキルとはかけ離れてた魔力のステータス上げにも気を遣っていたのか。
「シュウくん、今のうちに!!」
「ああ。任せろ!」
『ファイアーボール!!』
何十、何百というファイアーボールによる弾幕の嵐を宙で動けない骸骨剣士の集団にぶつける。
ターゲットが船室から離れてるので心置きなく使える、これぞ最強のファイアーボール。
船にいた骸骨剣士は次々と砕け散り、粉々になり、これで真の平和が守られた。
──いくら骨の集まりで不死身といっても、さらりとした粉末になれば、抵抗も何も出来ないだろうと……。
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