第15話 骨組みだけな団長の企み(海原移動編④)

『クックックッ、見てる側からしても滑稽こっけいな争いだな。中々やるじゃないか』


 そう、無事に倒したと思いきや、新たにどこからか、しわがれた男の声がする。


 俺はしらみ潰しに船内を確認するが、先ほどの骸骨剣士たちはどこにも見当たらない。


 そうだよな、塵も残さず退治した手応えがあるからな。


『その様子だと、このワタシを捜してるのか?』

「ああ、そうだ。隠れてないで大人しく出てこい!!」


 俺はミミたちを守るように体を張って庇う姿勢で、咄嗟に炎の魔法剣『ファイアーエタニティースレイヤーソード』を構え、見えざる敵へと燃え盛る切っ先を向ける。


 敵さんには悪いが、早速、奥の手を使わせてもらうぜ。


『フフッ。無駄だよ。普段からワタシは見えない存在なんだ。肉眼で捉えるなんて不可能と言っても過言じゃない』

「そうかい。じゃあハンデとして先制でも問題ないな」


 俺は魔法剣で空間ごと気配のする方へと大きく切り裂いた。


『シュパッ!!』


 誰もいない甲板から飛び出す黒い血液。

 見えない相手は幽霊でもないらしく、振るった腕から伝わる肉を切ったような感触。


 微かに地面に飛び散った黒い液体は蒸発するように消えて、正面から間合いを詰めた風圧が流れてくる。


 剣で斬れるとなると敵側は透明魔法をかけた状態か。

 だったら魔法の方も効果があるはず。


『惜しい、かすり傷か。いい線はついてくるけど、所詮しょせんはまぐれ当たり』


『ファイアーボール!!』


『おおっ、いきなりか!?』


 すかさず、その間合いで最強の魔法をぶつけると、影らしき黒い血液が揺らいだ気がした。


「よし、捉えたぞ!!」


『ファイアーボール!!』


 続いて炎の魔法を影の蠢いたデッキの方向へと連発する。


『クッ、おかしい。最初からワタシの動きを読んでいるような?』

「読んでるじゃなく、見えるんだよ」

『何だと、この透明な肉体に限って?』

「恐らくここにいる俺のパーティー全員にはお前さんの姿は丸見えだけどな」

『なっ、ワタシが見えてる? もしかしてあの斬撃からか?』

「ああ。ちょいとした小細工さ」


 まあ、あの一撃によっては戦況が変わった一か八かのだったからな。


 でも無事にロックは解除出来たし、透明な効果は勇者リンクから貰った白い粉『真実の粉』を付けた剣で無効化出来たし。


「だからさ、この念話も解除して正当な話し合いをしようぜ。お前さんには聞きたいことが山ほどあるしな」


「……そうか。でも目の前で背中を向けるのは敵前から逃げたことと一緒だぞ」


『ガキィィーン!!』


 念和が途切れたと思いきや、素早い斬撃をしてくる相手。


 無論むろん、行動が筒抜けの今、どんな攻撃でも俺の敵じゃない。

 二つの武器同士が激しく摩擦し、流れるように火花を散らした。


「だから攻撃しても意味ないし、逃げてもねえから」


 さすれば俺には姿形が一回り大きな骸骨戦士なのも、セーラー服の上に着込んだ鎖かたびらも、攻撃を仕掛けるサーベルさえも隅々まで把握できる。


 相手に初手の傷をつけた場所から『真実の粉』がキラキラと輝いて、透明になるのを防いでいるせいか。


『テレポの羽』といい、こんな便利なアイテムをくれたリンクには本当に世話になりっぱなしだ。


「ほんと、いつになったら完全に見えてることに気づくんだよ。しゃーねーな」


 俺は辛抱できずに今でも鈍い反応の敵側にミミから借りた折りたたみの手鏡を見せつける。


「なっ、透明の体じゃないぞ!?」

「分かったんなら、とっととその武器をしまってくれないか。いちいち船上で争っていたらキリがないからさ」


 骸骨戦士が手鏡を持つ手を震わして、何やら『これだから安物の服は……』とケチをつけている。


 大方、服の趣味が合わない奥さんにでも買ってもらったか。


「何の。ワタシは魔王様にお仕えする骸骨団長のコツバン=サボン。こんな場所でやられるわけにはいかない!!」


『ガキィィィーン!!』


 再び剣を交える限り、この団長の決意は変わらないようである。

 だよな、そう単純にコロコロ気持ちが変わったら団長という高い位にはなれないはず。


 でも、久方ぶりに人の言葉を喋る敵と出会えたんだ。

 だとすれば、向こう側の情報も少しは知りたいのがこっちの本望でもある。


「ワタシは魔王様からお主を排除しろという命令しか受けてない。よってそんな話など皆無だ!!」

「ちっ、言っても分からない頑固なじいさんだな!?」

「ワタシは魔王様のみに忠誠を誓うからな」


『ガキィィーン!!』


 炎の剣がサーベルと幾度もぶつかり合う。

 細い刀身のわりには材質を究極まで鍛え上げたのか、腕力如きでは折れないか。


 サーベルの強度は思った以上にあるし、やっぱりファイアーボールで狙うしか打開策はないな。 


 今度は近接攻撃から、魔法の発動を視野に入れ、距離をある程度引き離すため、ミミたちがしゃがんでいる方向へと飛び退く。


「シュウくん、平気?」

「心配すんな。ミミたちは骸骨剣士との戦いで疲弊してるだろ。今は体力を回復してな」

「でも力を合わせて戦った方が……」


 ミミの気遣いも分からなくもない。

 しかしながら、さっきの骸骨戦士とは強さのレベルが違いすぎる。


 それにミミを加勢させると後ろで怖気づいてる一般人のアンバーやテイルはどうなる。

 何も対抗できない二人の女の子を守る方が最優先だろう。


「ミミ、俺はそんなに頼りない男か?」

「ううん。シュウくんは誰よりも強いよ。私が保証するよ」

「だったら、この戦いを最後まで見守ってくれないか?」

「うん。分かった」


 ミミが納得の笑みをするのに安心し、俺はサボン団長と再び対峙する。

 潮の香りが鼻をくすぐり、この世界の海は青くて綺麗だ。


「どうやら恋人との別れは無事に済んだようだな」

「別に恋人じゃない。ただの腐れ縁さ」

「そうか。じゃあ、参る!!」


 サボンがサーベルを両手に持ち替えて突進し、俺の首を狙う。


『ブオオオーン、スカッ!!』


 素早い斬撃は空振りとなり、大きくバランスを崩すサボン。


「おうう!?」

「甘いぜ、ホネホネじいさん。こっちだ!!」


「なぬっ!?」


 俺は上空に飛んでいて、すでに魔法の構成を練り上げていた。


「残念だったな。剣太刀は悪くないが、いかせん動作が大振りすぎる」


 両手に魔法力を集中させると今までにない気球くらいな大きさの火の玉が飛び出した。


『ファイアーボール!!』


『ゴオオオオー!!』


 巨大な火の玉がおもちゃのような骸骨団長の体を簡単に押し潰す。


「ぐああああっー!!」


 骸骨団長サボンの断末魔を聞きながら、俺は倒した手柄の金貨を集めながら、度重なる戦闘でボロボロになった船上を眺める。


 ──正直に言うが、ファイアーボールがカンストの俺にとっては団長クラスでも雑魚と一緒。

 パワーでごり押しすれば、余裕でこちらの勝利が決まる。


 それよりもこのファイアーボールで船体は焼け焦げてボロボロだ。


 出来ればこの船を使わなくなったら売りに出したいし、こりゃ、この船も魔法で綺麗に修繕しないとマズいよな……。

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