第31話 協力プレイによって生まれた炎の星屑(決戦の地編③)

「──俺からの作戦は以上だ」

「何だ、案外あっさりしてますわね」


 アンバーが余裕の微笑みで俺からの武器を受け取る。


 彼女を見込んでの的確な指示だったが、こんなちゃちなアイテムで誤魔化せるか、実の所、不安要素もあった。


 だが、俺だってこのパーティーの端くれ。

 何も足掻あがくことなく、あっさりとやられるより、出来ることに費やし、最後まで足掻きたい一心だった。


「シュウくん、あっさりと聞いて、何か醤油ラーメンが食べたくなったね」

「ああ、了解だ。この戦いが終わったら腹一杯食わせてやるよ。だから今は目の前の敵に集中しろ」

「分かった。もちシュウくんの奢りね!」


 もっちりとした麺が好みのミミらしい返事だ。

 そんなミミには隠し玉ではなく、替え玉というものが似合う。

 それでもって具材全部のせとか頼みそうだし、あの細い体のどこに入るのだろうか……。


****


「ちゃっかりしてるな。アイツも」


 俺はミミからの一方的な注文を受け、ファイアーボールを片手で連発しながら魔王クロワと対等の戦いを繰り広げる。


「おっと、魔法力が乱れたな。こっちに集中しないと」


 ──俺は再度、もう片方の手で床下にあった黒い砲台に魔力を込め始めていた。


 備え付けの古びた説明書によると、この砲台『キャノンホール』は大人一人分のコンパクトのサイズにしては威力は計り知れないものであり、俺が異世界での戦いで見てきたものとほぼ同じ武器である。


 この兵器は異世界でも本領を発揮し、モンスターたちを退けた兵器として語り継がれていたが、この世界にもあったとはな。


 さっき城を探索する時に合唱室でホコリをかぶって眠ってるのを見つけ、それならばと思いついた案が、この兵器で魔王クロワに痛手を負わせるという考えだった。


 だが弾薬が魔法力のエネルギーなので床に散らばっていた花火玉のようなアイテムは使えず、こうして砲台に備え付けた充電器に魔力を直接流し込んで専用の玉を作り上げるしかないのだ。


「ちっ、面倒な操作方法だな。島のお偉いさんもこういう箇所に金を使えよ」


 つべこべ言いながらも魔力を注入する。

 何か一気にフル充電とか、エネルギーがない時の自家発電装置とか……いや、どう見てもそんなのないな。


「シュウくん、私たちのことはいいから集中して!!」

「自分の仕入れた情報によるとあの兵器がエネルギーマックスになるためには約三分」

「だったらカップラーメンで女子会でもやろうよ。私の持ってきたの食べる?」


 おいおい、ミミ郵便局員さんよ。

 ボストンバッグにそんな食べ物まで入れていたのかよ。

 それで持ち運ぶ時にシャリシャリとした砂が転がるような音がしてたのか。


「はい、そこスキあり!!」


 クロワ魔王が俺の方に一直線に特攻してくる。

 早くも勘付かれのか、こちらに台風みたく急接近だ。


「邪魔はさせないですわよ!!」


『ボスボスッ!』


 石の礫が数個ほど魔王クロワの服に当たる。

 アンバーの手にはちょっと大きめなサイズのパチンコ玉が握られていた。


 俺が渡した武器が早くも役に立ったか。

 このまま動きを封じてれば助かるのだが……。


「へえ、魔法もスキルもない一般人の分際で、あたしの邪魔するんだ。中々肝が座ってるじゃないの」

「問答無用!!」


 アンバーが弾いた玉が魔王クロワに当たる瞬間、今度は余裕とばかりにヒラリと後方に宙回転して全弾避けるクロワ。


「はい、お返しよ」


 クロワが玉の動きをピタリと止めて、アンバーの方向へと玉の軌道を変える。


「はい、さようなら」


『ヒュンヒュンヒューン!!』

「あわわっ!!」


 自分の放った玉が逆転するとは誰が予測しただろう。

 アンバーがその玉をしゃがんで避ける。


「ええーい!!」

『サクサクサクッ!!』


 その玉がテイルが不意に出したベニヤ板に突き刺さり、それを盾にしてそのまま突っ込んでいくテイル。


「いやあああー、おばちゃんめえええ!!」

「失礼ね、あたしはまだ210歳よ」

「十分におばちゃんですね」


 いや、年齢と動きが反比例の最中、化け猫やもののけの怪かも知れない。


『ブオオオーン、バキィーン!!』


 テイルがベニヤ板をクロワの頭に叩きつけようとした瞬間、その持っていた板が何もない宙で粉々に割れる。


 素人には見えない無色透明なバリアを張ったか。

 肉眼で見えない以上、これでは魔力がない人では手も足も出ない。


「あなたも口の聞き方から学ばせないといけないようね」


 テイルの襟首を掴んだクロワが腹に拳を打ち込もうとした瞬間、二人の体が宙を舞う。


「今度はトラクタービームか。中々冴えたプレイの連続ね」

「これであなたは動けませんよ」


 ミミが得意げな顔でクロワの動きを止める。


「フフフッ、そうねえ。でもあたしには造作もないわ」


 魔王クロワがヒールのかかとを足下で鳴らしたと同時にクロワ自身を縛り付けていた効果が空しく消える。


「魔法というのはね、こういうのを言うのよ」


 クロワの体を包む闇が両手に集まっていき、その膨大のエネルギーを波動に変える。


『ダークネスフレア!!』

「きゃあああー!?」

『ドカーン!!』


『ゴオオオオー!!』


 テイルの悲鳴と共に爆発に紛れて一つの炎の玉がクロワの方に飛んでくる。

 クロワは難なくその真っ赤な玉を避けてみせた。


「おっと。あの巨大な大砲を死角から撃つと見せかけ、ファイアーボールで見事に相殺したのね。でもあたしには全てお見通し……」

『ゴオオオオオー!』

「なっ!?」


 ──天井の隙間から漏れ出す無数の星。

 クロワは肌身で危機を感じ取る。


 いや、あれは星の欠片ではない、大量の炎の玉だ。

 まさか初めから、これらのファイアーボールの星屑を発動させるための時間稼ぎだったのか!?

 その意表をついた行動に恐れるに足らなかった。


「フフッ、本当に大した男だよ。あたしをここまで追いつめるなんて」

「最後に言い残したいことはあるか?」

「そうね、雑魚は腐っても雑魚かしら」

「そうか、だったらさよなら」


 ──シュウが空に上げていた手を下げると、それが合図だったのか、レーザー光線のようにクロワの体を次々と貫く。


「……あはははっ、してやられたわ!!」


 クロワは大きく笑い声を上げ続けたまま、数秒後に物言わぬ雑巾のようになり、床にゆっくりと体を倒した。


 俺たちは見事な連携プレーで、今度こそ魔王に止めをさしたんだ。

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