第28話 場所そのものを無かったことに(ダンジョン突入編④)
俺は仲間に被害が及ばない広い場所を選び、イサベラの前でファイアーエタニティースレイヤーソードを構える。
「あははっ、そんなチンケな剣であたしに立ち向かうなんて。何様のつもりよ」
「いや、れっきとした人間だがな!!」
そして、そのままがら空きなイサベラの胴体に一太刀入れる。
いくら法衣が丈夫とはいえ、何でも両断してしまう魔法剣を食らって、何ともないヤツなんていないはず。
しかも正面からまともに浴びせたんだ。
この勝負、早くも終わったな。
『ガキーン!!』
当てた刃物から響く甲高い金属音。
イサベラがらニヤリと口元を緩め、俺との距離を置く。
なるほど、防御力アップのスキルをすでに発動していたか。
「へえー、少しおかしい女とは思っていたが、それなりに頭はキレるんだな。知らない間に補助魔法をかけるなんて」
「まあね。おかしいのは余計だけど、伊達に団長やってないわよ」
イサベラの団長の名は飾りじゃないことを、再度思い知らせれる。
「だったらこれならどうだ!!」
俺は炎の剣の中心に当たる部分に持ち替えて、羽を回す感覚で大きく回す。
人間扇風機とはまさにこのこと。
肝心の羽は炎で出来ており、吹いてくるのは熱風で暑いことこの上ないが……。
『エタニティーソードインフェルノ!!』
水門のように回り続ける炎の剣から無数の小さめなファイアーボールが浮かび上がり、イサベラを標的にする。
『ドンドンドンドーン!!』
次々と炎の玉が無抵抗のイサベラにクリーンヒットし、煙で見えなくなった彼女の末路に、多少なりとも憐れみを感じる。
この一撃一撃の重みある攻撃が一瞬で方をつけるファイアーボールなんだ。
こんな様子だと、体も失って魂すらも天に昇っているだろう。
「ふう。今度こそ終わったか」
俺は炎の剣を消し去り、パーティーの元に駆け付ける。
「……シュウくん」
「待ってろ。今助けてやるから」
「違うよ、後ろだよ!!」
ミミが青ざめた顔つきで俺の後ろを指さしている。
何だよ、ファイアーボールの火葬でも成仏しきれないイサベラの亡霊でも見たのか?
例え、亡霊になっても俺の敵じゃないぜ。
「うんっ?」
「きええええああああー!」
俺は殺気を感じて上空を見据えると、奇天烈なカンフーみたいな大声と長い棒の障害物が迫ってくる。
『ドコーン!!』
俺は足を踏みしめ、頭上目がけて振ってきた棒を片手ですんなりと受け止める。
その棒の先端には無色透明な宝石が付けてあり、これは魔道士の杖だと判明する。
どうやってあの火の玉の嵐を防いだか不明だが、それなりの防御壁で防いだのか?
「おいおい、不意を狙うなんて感心しないな」
「あら、卑怯者とでも?」
「者は何も仮にも幹部クラスなんだろ。喧嘩を売るなら真っ向からぶつかり合わないと」
まあ、この喧嘩を買っても俺の方が有利なことは確実だ。
俺にはこの最強の攻撃魔法がある。
場所が洞窟内であり、あまり威力のあるファイアーボールは使えないが、数々の敵を葬り去った究極のカンストによる火の玉だ。
おまけに魔法力もスキルで自然回復し、初期魔法なので詠唱時間も無く、好き勝手に連発もできる。
いくら攻守に優れた団長レベルと言えど、今の俺に敵はいないのだ。
「ならば売ってあげるわ。この喧嘩」
イサベラが両手を俺の前に出して何かを呟き始める。
俺はその言葉を察して、イサベラから距離を離す。
『ファイアーボォール!』
思ってた通り、魔法で攻撃を予測した俺は洞窟の天井へと転移魔法で浮かび上がる。
「フフフッ。どこへ逃げても無駄よ。あたしの魔法からは逃れられないわ」
「だったら放ってみろよ。そのかわり天井が崩れて生き埋め確定だけどな」
これは挑発でもあり、一つの賭けでもあった。
天井を壊すと自身が無事では済まないと頭を悩ませて、そのすきをついて逃げ出すという作戦。
本当の卑怯者は俺の方かもなと少しだけ口角を上げる。
『ファイアーボォール!』
「なっ? 案外ドライな女だな!?」
『ファイアーボール!』
よく計算をしてからの行為か、何も考えてないのか、イサベラが唱えた炎のボール。
それを同じく調整したファイアーボールで相殺する。
この女は味方や他人が犠牲になっても自分が助かればオッケーな乾いた心情か。
『ファイアーボォール!』
『ファイアーボール!』
俺は上空に浮いたまま、数あるファイアーボォールを同じ魔法で何とか封じ込める。
でも相殺した爆風で亀裂が走り、このままでは洞窟が崩壊し、パーティーごと瓦礫に埋もれるのも時間の問題だ。
何か打開策はないのか。
天井すれすれを移動しながらも、ふと苔のようなものが生えた部分が見え、俺は覚悟を決める。
「イサベラ。本気で撃ってこないと今度こそ俺の魔法で潰れるぜ」
「望むところよ!!」
『ファイアーボォール!』
誘い文句にのったイサベラが一際大きなファイアーボォールを唱え、俺の方へと放つ。
俺はその火の玉を前にし、絶妙なタイミングで避けて、転移魔法でミミたちの元へ瞬間移動する。
『ドコオオオオオーン!!』
激しい音を立てて吹き飛んだ天井からは光が漏れ出す。
思ってた通り、あの部分だけ壁が薄かったか。
「リンク、天井の空いた穴からお前さんの転移魔法で行けるか?」
「シュウ殿。吾輩は勇者たる者。このような危機を奪回できるのが勇者としての使命であり」
「能書きはいいからさっさとやってくれ!!」
「了解致しました」
リンクがミミたちを周辺に囲み、俺たちのパーティーはリンクの転移魔法で一気に外へと移動する。
『ドゴオオオオオー!』
俺たちが宙に浮かぶ際、眼下にある天井という足枷を無くした洞窟は大きな音を立てて崩れていく。
「シュウくん、イサベラさんは?」
「ああ、心配するな。この程度でやられるようなヤツじゃないさ」
「それもそうだね」
多少、酷な手だったが、相手も魔王軍の幹部。
いくら相手が女でも、そう簡単にくたばる相手じゃないだろう。
「さあ、さっさと行くぞ。こんな所で足止めされてる場合じゃない」
「そうね。シュウもたまには良いこと言いますわね」
「あのなあ、俺は凶悪犯じゃないんだから」
この世界はルールや規制も厳しく、悪に染まった人間を野放しにはしない。
悪さをすれば処罰の対象になって当然だ。
「こんなに派手に洞窟を壊して犯罪にならない方がおかしいですわよ」
「うぐぐ、確かに……」
周囲を山に囲まれた洞窟ゆえに人々の一つの通行網だったのかも。
俺はそんな貴重な足を潰してしまったのか。
「シュウ殿、悩む暇はありません。先を急ぎましょう。魔王の悪巧みを阻止するために」
「そうだな」
俺たちは洞窟の側にあった脇道を進み、長かった森を抜ける。
その先には見慣れた大きな城が建っていた。
「まさか、あの洞窟が魔王城の場所と繋がっているとはな」
「シュウさん、魔王クロワはこの洞窟を行き来して道具などの調達をして?」
「ああ、それが妥当だな。元は自然に出来た洞窟だったようだけど、これはとんでもない使い道だぜ」
これならこちら側の転移魔法で知られることもなく、身を隠したままでの移動も可能だ。
思わぬ収穫と同時に退路を防げて良かったというべきか。
「さあ、シュウ殿。今度こそ魔王の成敗を」
「ああ、恐らくこれで全ての決着がつくはず。いくぜ、みんな!!」
俺たちは輪になって円陣を組み、だらけていた気持ちに気合いを入れる。
「「「はいっ!」」」
パーティーで合わせた片手を空に上げ、俺たちは祈る。
この終わりに繋がる戦いに勝機あれと──。
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