舞踏会

 ついにこの日がやってきた。さすがのエレーヌもこの日ばかりは緊張していた。今夜ゴルニア城で舞踏会が行われる。そこでジラルド王子は妃候補を決めるだろう。


 侍女のマチルダはとてもごきげんだ。もうエレーヌが王子の妃になれると信じて疑わないのだ。マチルダは歌うように言った。


「今日は待ちに待った舞踏会ですね。お嬢さまが王子の妃に選ばれるんですもの。腕によりをかけておめかししないといけません」


 エレーヌは、マチルダのはりきりに苦笑しながら答えた。


「マチルダ、気が早すぎよ?まだ妃になれるなんて決まってないわ」

「いいえ、お嬢さま。ジラルド王子はお嬢さまと出会って、きっとお嬢さまをお見初めになったに決まってます。だってお嬢さまは女神のように美しいんですから!」


 マチルダの永遠に続くエレーヌ賛美を聞き流しながら、エレーヌはジラルドとの出会いを思い出していた。


 ジラルドがエレーヌに一目惚れしたとはとうてい考えられなかった。おそらくエレーヌはジラルドの好みには当てはまらないのだろう。


 エレーヌは腹を決めた。舞踏会までにやれるだけの事はやったのだ。これから武装して戦地におもむくだけだ。


 エレーヌの部屋に、ゾクゾクと侍女たちが入ってくる。これから舞踏会のための準備をするのだ。舞踏会には、新しくあつらえた薄いブルーのドレスにする。イヤリングとネックレスは、エレーヌの瞳に合わせたサファイアだ。ティアラはサファイアとダイヤモンドをちりばめたものだ。


 髪をゆいあげられ、念入りに化粧をほどこされる。化粧は濃すぎず、ナチュラルに見えるように。これでもかとコルセットを締め上げられる。苦しくて、もう食事をする事もできない。


 ドレスにボリュームをもたせるため、パニエをつけ、ドレスにそでを通す。全てのアクセサリーをつけて鏡の前に立った。エレーヌは思わずホウッと息をはいた。


 今日の日のために準備したドレスもアクセサリーも、どれも美しかった。エレーヌだとて年頃の娘だ。美しいドレスを着て、まばゆい宝石を身につければ、心が浮き立つ。


 エレーヌは小鳥の食事のような昼食を食べてから、城に向けて馬車を走らせた。


 城の舞踏会場には、国中の令嬢たちが集まっていた。皆美しく、まるで一面に花が咲きみだれているようだ。


 これからエレーヌも一輪の花になるのだ。


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