馬駆け
ジラルドはエレーヌ嬢の論文に目を通した。一ページ目には目次があり、国の発展についての商業、工業の経済案。国民への課税、医療、福祉。近隣諸国との国交についてなど、克明に書かれていた。
ジラルドはエレーヌ嬢の論文に関心してバンスに聞いた。
「バンス。エレーヌという女の論文を読んだか?」
「ええ。ここにお持ちした十人のご令嬢の論文は目を通させていただきました。ですがエレーヌ嬢は、まるで男のような持論をお持ちです。淑女としてはいかがかと」
「はは、俺の妻になりたいというよりも、俺に取って代わって国を治めたいようだな」
「!。まさか、そのような大それた事」
「うむ。エレーヌという女は、無能な貴族は廃絶すべきだとまで書いている」
「・・・。エレーヌ嬢はあまりにも危険思想でございます。わたくしは、エレーヌ嬢だけは王子の妃には相応しくないと思います」
バンスには不評だが、ジラルドはエレーヌを面白いと思った。他の令嬢たちは国王を褒めたたえ、国の発展についての理想をのべている。つまり言いかえればおべっかばかりだ。だがエレーヌだけは、この国の問題点、行きとどいていないところにまで言及している。ジラルドはこの女に一度会ってみたいと思った。
目の前のバンスはなおもジラルドにエレーヌだけは妃候補に選ばないようにとのべていた。閉口したジラルドは、バンスを手で制して言った。
「もうよい。決めるのはこの俺だ。今日はもう仕事は止めにする。馬を走らせてくる」
ジラルドはバンスの文句を背にして部屋を後にした。王子であるジラルドには自由などない。だが月に一度この日だけは自由な時間を作っている。
愛馬に乗り、馬駆けをするのだ。馬の背にゆられ、風を身に受ければ、嫌な気持ちも吹き飛ぶだろう。
ジラルドは愛馬のいる馬舎に向かった。ジラルドの愛馬は雄の白馬だ。名をアポロと言う。太陽の神の名から取ったのだ。
ジラルドは愛馬を撫でた。馬の世話をしている下男が、心得たように鞍を取り付ける。ジラルドは白馬に乗り、城を抜け出した。
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