王子の憂うつ

ゴルニア国の王子ジラルドは盛大なため息をついた。目の前に積まれた書類は終わらないし、じいやのバンスはしきりに話しかけてくるからだ。


「王子、ディーレ侯爵家のレモリア嬢からお茶会の招待状が届いております。それからモリノ伯爵家のパメラ嬢からもお茶会の招待状が届いております。それから、」

「もうよい!」


ジラルドは机を強く叩いて立ち上がって言った。


「先に俺に会おうとする女たちにはうんざりだ」


ジラルドは数日後に行われる舞踏会で、自身の妃候補を決めなければいけないのだ。そのため毎日のように国内の貴族の娘たちから招待状が届くのだ。


ジラルドはバンスをにらんで言った。


「バンス、俺の指示しておいた物は手に入ったか?」

「はい。舞踏会に招待されたご令嬢たちには、王子からの命令とは知らせずに、ゴルニア国の今後の発展についての論文を書かせました。全員の論文を学者たちに読ませ、上位十人の論文を王子にお目通り願います。ですが、いいのですか?王子。令嬢たちの能力だけで妃候補を選んで。容姿は見なくても?」


 バンスの不安を、ジラルドは一笑して答えた。


「俺の妻になる女は、頭の回転が速いキモの座った女でなければならない。見てくれなんてどうでもいい。俺は正妃は共に戦う戦友になる者を選ぶ」

「王子、」


 バンスは目に涙を浮かべて微笑んだ。ジラルドは言葉を付け加えた。


「ああ、勘違いすんなよ?側室は俺の好みのいい女を選ぶからな!」

「・・・」


 じいやのバンスはけいべつのまなざしでジラルドを見る。側室を作って何が悪い。次期ゴルニア国王として、責務を果たそうとしているのだ。


 バンスを無視したジラルドは黙々と事務作業を続けた。バンスはため息をつき、部屋から出て行った。しばらくして、たくさんの書類の束を抱えて帰って来た。どうやらこれが令嬢たちの論文のようだ。


 書類の束を手渡されたジラルドは、著者の名前を素早く確認した。大体の令嬢は、数枚のページの論文だったが、一人だけぼうだい枚数の論文を提出した者がいた。


 オルグレン子爵家のエレーヌ嬢。


 


 

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