マチルダの作戦
「完璧です!お嬢さま!まさにこの世に舞い降りた女神のようです!」
マチルダは自身の手でさらに美しくなったエレーヌを見て満足そうに言った。エレーヌはマチルダのいつものテンションに苦笑しながら答えた。
「大げさよ?マチルダ。それで、わたくしは今日何をすればいいの?」
「はい!お嬢さまは何もしなくて大丈夫です!私とエリクとヤンがすべてやります!」
今日はこの国の王子ジラルドが城を出る確かな情報を得ている。マチルダはこの日、主人であるエレーヌと王子ジラルドを出会わせようと画策しているのだ。
敬愛する主人のエレーヌが以前言っていたのだ。将来王子さまのお妃になれたらどんなに素敵かしら。その時からマチルダの目標が決まった。我が主人エレーヌを王子の妃にする事だ。
ゴルニア国のジラルド王子が二十歳になると、この国の貴族の娘から妃を選ぶ事になっている。もうすぐ貴族の令嬢たちを集めた舞踏会がおこなわれるのだ。
だが沢山の貴族の娘がひしめく中、いくらエレーヌが絶世の美女でも王子の目に止まる事は難しい。そこで、舞踏会が行われる前に王子とエレーヌを会わせる事にしたのだ。
エレーヌはため息をついてから言った。
「マチルダ、貴女の言う通りにしてあげる。だけどこれだけは約束しなさい。皆絶対ケガをしない事!いいわね」
「はい!」
マチルダは元気よく返事をした。
マチルダはエレーヌの朝食の給仕の後、屋敷の奥にある使用人部屋へおもむいた。部屋には二人の少年がいた。下男のエリクとヤンだ。エリクはブロンドの短髪に青い瞳の活発な少年だ。快活な笑顔でマチルダに言った。
「マチルダ!いよいよ今日だね?!」
「ええ。今日お嬢さまと王子を出会わせるわ!」
盛り上がるマチルダとエリクを見て、心配症のヤンが不安そうに言った。
「本当に大丈夫かなぁ?危ない事にならない?」
「大丈夫よ!私とエリクとヤンが手を組めば、きっと成功するわ」
ヤンは黒い髪と黒い瞳の大人しい少年だ。マチルダと髪と瞳の色が同じなので、よく姉弟に間違えられるが血のつながりはない。マチルダの強気の発言に、ヤンはなおも心配そうだ。マチルダはエリクとヤンを見て言った。
「いい?男と女が恋に落ちるのは、共に危険な体験をすると恋愛関係になりやすいのよ!まぁ、お子ちゃまのエリクとヤンには難しいかな?」
「ちぇっ!マチルダだって子供じゃん」
エリクは不満そうにマチルダを見る。ヤンはマチルダに疑問を言った。
「お嬢さまは美人だから、王子がお嬢さまに恋をしてしまう事はあるかもしれないけど、お嬢さまが王子に惚れたりするかなぁ?」
ヤンの指摘は正しい。マチルダたちの主人であるエレーヌは気高く豪胆だ。多少の危険を共に切り抜けたからといって、簡単に男に惚れるとは考えられない。マチルダは断言して言った。
「いいのよ!王子がお嬢さまに惚れてしまえばこっちのもの。お嬢さまの野望、この国の王子のお妃になる道が開けるわ!」
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