嫌な相手

 エレーヌはチラリチラリと会場内を見渡した。令嬢たちの中には、エレーヌと同じ女学校の娘たちも沢山いた。才女と名高い令嬢。美しいと評判の令嬢。この者たちは皆、エレーヌのライバルなのだ。


 その中で、エレーヌは嫌な相手を見つけてしまった。ディーレ侯爵のレモリア嬢。彼女はエレーヌと同じ学校のクラスメイトだ。常に爵位の高い事を鼻にかけていて、エレーヌが子爵令嬢である事を、あからさまにバカにしていた。


 きっとエレーヌが文武に秀でている事への嫉妬なのだろう。エレーヌはレモリアの事を徹底的に無視していた。それが面白くないのか、レモリアはムキになってエレーヌにつっかかってくるのが常だった。


 エレーヌはレモリアに見つかったら面倒なので、見つからないように他の令嬢たちの背に隠れながらその場を去ろうとした。だが時すでに遅かったようだ。


「あら、エレーヌさまじゃありませんか?あまりにもみそぼらしい身なりだから、メイドと勘違いしてしまいましたわ」


 レモリアは、エレーヌを見つけると、嬉々として嫌味を言ってきた。周りから失笑が湧いた。


 見つかってしまったものは仕方ない。エレーヌは優雅におじぎをして答えた。


「ごきげんよう、レモリアさま。金色のドレスに金色の宝石、素敵ですわね?あら、ネックレスにあしらわれているのは、イエローアパタイトですか?イエローアパタイトの石言葉をご存知?あざむく、ですよ?初めてジラルド王子にお会いする場にはふさわしくないかと」


 エレーヌとレモリアを取り巻いていた令嬢たちはクスクス笑い出した。レモリアの顔がみるみる赤くなり、そのままどこかに行ってしまった。


 エレーヌはやりすぎたと思ったが、両親が心を込めて見立ててくれたドレスをバカにされ、どうしても許せなかったのだ。


 ザワザワしていた会場に、音楽隊のファンファーレが鳴り響く。ついに王子がこの場に現れるのだ。令嬢たちは静かになったが、皆胸を躍らせているのだろう。


 これからジラルド王子が気になった令嬢をダンスに誘うのだ。ダンスに誘われれば、妃候補になったといっても過言でもないのだ。


 上座の分厚いカーテンが開かれ、ジラルド王子が舞踏会場に入って来た。令嬢たちはキャァキャァと黄色い声をあげた。皆ジラルド王子をほめたたえた。


 なんて凛々しいの。素敵。令嬢たちはさざなみのようにささやきあった。エレーヌはジラルド王子を見るのは二回目だ。最初はエレーヌが悪漢にさらわれたという、芝居をうった時に出会った。


 やはりエレーヌはジラルドをかっこいいとは思えなかった。ジラルドからは、他人を下に見るごう慢さが滲み出ているように思えた。


 ジラルド王子の側近くにいた令嬢たちは、彼に話しかけようと、わらわらと近寄って行った。それをジラルド王子にぴったりと付き従う側近たちがはばんでいた。


 側近の一人がジラルドに耳打ちをした。ジラルドは軽くうなずく。やはり事前にダンスを申し込む令嬢を決めていたのだろう。


 ジラルドは迷いなく舞踏会場を歩き出した。ジラルドの行く先は、エレーヌも関心があった。最初にダンスに誘われる令嬢とはどんな女性だろうか。


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る