エレーヌの決意

 エレーヌは魔力を持った子供を救うためにはどうしたらよいか考え続けた。その最中に、エレーヌは再び夢を見た。


 小さな二人の男の子が、抱き合いながら震えている。彼らの目の前には、剣を振りかざした男の姿があった。


 この夢を見た時、エレーヌはもう驚かなかった。二人の男の子は無惨に殺される運命にあるのだ。そんな事は絶対にさせない。


 エレーヌは剣を持った男の人相、周りには震えている女性や子供。どうやらこの男の職業は奴隷商人のようだ。


 エレーヌは男の人相をたよりに、奴隷商人を探し当てる事ができた。奴隷の中には、エレーヌが夢で見た二人の男の子たちがいた。


 エレーヌは部下に奴隷商人の身辺を見張らせた。数ヶ月後、部下から報告が入った。どうやら二人の男の子たちは魔力を持っていて、奴隷商人はその事を気味悪く思っているようだと報告した。


 またしても魔力を持っているというだけで、幼い命を奪おうとするとは。エレーヌは怒りに震えた。


 エレーヌは夢で見た光景と同じ、奴隷商人が今にも二人の子供に剣を振り下ろそうとした瞬間に、間に入った。


 エレーヌの愛剣が奴隷商人の剣を受ける。力を正面から受けずに、ずらして相手の剣の方向を変えると一気に踏み込み、奴隷商人の首元に自身の剣を突きつけて言った。


「一つ問う。この者たちはお前の商品ではないのか?」


 奴隷商人は、突然間に入って来た剣を持つドレスの娘に驚き、首に突きつけられた剣に恐れながら答えた。


「何だテメェは!そのガキどもは魔力持ちなんだよ!ガキの時に殺しておかないと、大変な事になる!」


 奴隷商人の言葉に、エレーヌの心は怒りでグツグツと熱くなった。ただ魔力を有しているというだけで、幼い命がいとも簡単に奪われてようとしているのだ。エレーヌは、この世に生まれたすべての命は、皆尊く、何かの役割を持っていると考えている。この世の中に、安易に奪ってよい命など、一つもないはずだ。


 エレーヌは剣を下ろすと、ドレスのポケットから、用意しておいた金貨の入った麻袋を取り出して言った。


「ならばこの者たちをわたくしが買おう。それで問題ないだろう」


 奴隷商人はチェッと舌打ちして麻袋をひったくると、他の奴隷たちを連れて行ってしまった。


 エレーヌは男の子たちに振り返ると、できるだけおだやかな声で言った。


「お前たち、今日からわたくしがお前たちの主人だ。名は何という?」


 男の子たちは抱き合ったまま震えるだけで

、エレーヌの問いには答えてくれなかった。殺されそうになった恐怖と、エレーヌが自分たちを金で買った事に何か思うところがあるのかもしれない。


 困りはてたエレーヌは、男の子たちの世話をマチルダに任せた。マチルダは自分よりも年下の二人の男の子を見て、偉そうに言った。


「あんたたち。私より年下なんだから、私の言う事をちゃんと聞くのよ?私がお姉ちゃんなんだから」


 マチルダの上からな態度に、エレーヌは心配したが、何の事はない、マチルダは小さな子供の世話が上手だった。


 それもそのはず、マチルダは教会で、捨てられた子供たちのお姉さん役をかって出ていたからだ。


 最初は不安そうだった男の子たちにも次第に笑顔が浮かぶようになった。男の子の名前は、金髪で青い瞳の男の子はエリク。黒い髪に黒い瞳の男の子がヤンといった。


 最初はエレーヌの事を怖がっていたヤンとエリクは、マチルダと一緒にエレーヌの後ろをついて歩くようになった。


 後ろから、お嬢さま、お嬢さまと言ってついて来る姿は可愛らしかった。エレーヌはマチルダとエリクとヤンが可愛くて仕方なくなった。


 エレーヌは小さい頃からずっと妹と弟が欲しかったのだ。だが彼らはオルグレン子爵家に雇われた使用人にすぎない。過度な甘やかしは禁物だ。エレーヌは心を鬼にして彼らに接する事にした。


 エレーヌはそれからも、どうすればマチルダたちのような可哀想な子供がいなくなるのかとひたすら考えた。そしてある答えに行き着いた。


 エレーヌがこの国で大きな権力を手にすればよいのだ。そうすれば、エレーヌが魔力を持った子供を殺すなと命令すれば、国の者たちはきっとその通りにするだろう。


 だがエレーヌは女だ。女がなれる国で一番の権力者といえば、国王の妃、王妃にほかならない。


 ちょうどおあつらえ向きに、この国の王子はエレーヌと歳も近い。エレーヌの将来の夢は、王子の妃になる事に決めた。

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