招待状

 エレーヌはジラルド王子とのダンスを終えると、すぐに屋敷に戻ってしまった。だが侍女のマチルダだけは姿隠しの魔法で身体を透明にし、舞踏会場にい続けた。


 エレーヌがドレスを脱いで、ゆったりした夜着に着替えて人心地ついた頃、マチルダが帰って来た。エレーヌはハーブティーを飲みながら質問した。


「それで、わたくしの後のダンスの相手は誰だったのですか?」

「はい、お嬢さま。お嬢さまの次がゼイン伯爵家のラステル嬢。次は、」


 マチルダは続けざまに、九人の令嬢の名前をあげていった。どの令嬢も優秀と名高い方たちだった。中には爵位の低い者、容貌の美しくない者もいた。やはりエレーヌの予想通り妃候補は、優秀な人材を探しているのだろう。


 マチルダは、エレーヌが一番最初に王子からダンスに誘われたので、有頂天になっていた。


「ジラルド王子の妃はお嬢さまで決まりです!だってお嬢さまは頭が良くて、美人で、神経もずぶといんですもの!きっと、すぐに王子から個別に会いたいと招待状が来ますよ?」

「マチルダ、気が早いわよ?」


 エレーヌはマチルダに釘をさすが、彼女はちっとも聞いてない。王子からの招待状が来た時のために、素敵なドレスをオーダーしなければと、勝手に話しを進めている。


 エレーヌはため息をついた。確かに一番最初にエレーヌがダンスを申し込まれた。だがそれは、エレーヌの提出した論文が認められただけにすぎない。むしろジラルドは、生意気なエレーヌを嫌っているようだ。


 嫌われてしまっては、妃どころではない。これでは計画を変更しなければいけない。王子の妃の侍女になるのも新たな手段かもしれない。妃のよき相談相手になり、影で妃を操るのだ。


 それとも現国王の愛人になるのはとうだろうか。いくらジラルドが新国王になっても、父親の愛人をむげにはしないだろう。エレーヌは頭の中で、次の布石を考えていた。


 数日経ったある日、思いもかけない事が起こった。ジラルド王子から招待状が届いたのだ。これにエレーヌの両親は大喜びだった。


 エレーヌはジラルドの直筆と思われる招待状を手に取り首をかしげた。あんなに嫌われていたエレーヌを城に招待するとは、少し妙に思えた。


 エレーヌはすぐさま侍女たちに囲まれて、支度にとりかかった。新しいドレスは間に合わないので、エレーヌが持っている一番上等なエメラルドグリーンのドレスにした。


 ドレスに合わせてアクセサリーはエメラルドを基調にする。いつもなら侍女であるマチルダが、姿隠しの魔法でエレーヌにピッタリとついて来るのだが、おり悪くマチルダは、エレーヌの新しいドレスのための布を買いに行ってしまっているのだ。


 エレーヌは二人の忠実な部下に言った。


「ヤン、エリク」


 二人の少年たちはすぐさまエレーヌの側にやって来た。二人とも目をキラキラさせてエレーヌの命令を待っている。こんな時の二人はまるで、主人の命令を待つ飼い犬みたいで可愛い。


 エレーヌはゆるみそうになる頬を引き締めて言った。


「エリクはわたくしについて来なさい。ヤンは待機。マチルダが帰ったらこの事を伝えなさい」

「わかりました!お嬢さま」

「はぁい。お嬢さま」


 エリクとヤンは元気に返事をした。




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