マチルダの不安

 マチルダは意気揚々と屋敷に戻って来た。城下町で、ドレスに使う美しい布を手に入れたからだ。マチルダが屋敷の玄関に入ると、ヤンが飛んで来た。マチルダは嬉しそうに肩に担いでいる布地の巻き物を置いて言った。


「ただいま!ヤン。見て見て、お嬢さまにピッタリのドレスの布地を見つけたの!舞踏会でレモリアのブスが金ピカのドレス着てたんだけど、とっても下品だったのよ。だけど私たちのお嬢さまだったら、きっと美しく着こなしていたと思うの。それでね、レモリアに負けないような布地を探していてね、銀色の布地を見つけたの!この布はね、角度によってキラキラ輝くのよ?」

「そんな事言ってる場合じゃないんだよ!マチルダ!お嬢さまが、城からの招待状が来て、迎えの馬車に乗って行ってしまったんだ!」


 慌てているヤンに、マチルダはチェッと舌打ちして言った。


「ああ、もう王子からの招待状が来てしまったのね?王子はお嬢さまにゾッコンなんだわ。だけどもう少し時間をくれないと、お嬢さまにだって準備ってものがあるんだから」

「マチルダ!話しが長いよ!僕の話しを聞いてったら!」

「何よ話って?」

「旦那さまと奥さまは喜んでいたけど、お嬢さまは首をかしげていたんだ。王子から招待状が来るのはおかしいって」

「おかしい?何で?」

「僕にはわかんないよ。でも、でもお嬢さまが言うんだ。きっと何か心配な事があるに決まってる」


 困り果てたヤンと、訳がわからないマチルダが顔を突き合わせていると、屋敷にエリクが飛び込んで来た。


「大変だ!マチルダ!ヤン!お嬢さまがディーレ侯爵の屋敷に連れて行かれた!」


 それまでニコニコ顔だったマチルダの顔が一気にこわばった。ディーレ侯爵家の令嬢レモリア。ブスで底意地の悪い女だ。レモリアは、エレーヌが美人な才女である事を憎んでいる。


 エレーヌをだまして連れて行ったという事は、きっとエレーヌにお門違いの復讐をするためだろう。


 マチルダは厳しい顔でヤンとエリクに言った。


「ヤン、エリク。これから私はある場所に行ってくる。二人はディーレ侯爵家の屋敷の前で待っていて。決して二人だけで飛び込んではダメよ?必ず私が来るまで待って。いいわね?」

「だけどマチルダ!もしお嬢さまがひどい目にあっていたらどうするんだよ!」


 エリクはエレーヌの事を心配しすぎて、語気を荒げて言った。マチルダはエリクの目をしっかり見て言った。


「大丈夫。私たちのお嬢さまなのよ?ご自分の身はご自分で守れる。私たちが行くまできっと持ちこたえてくれるわ」


 不服そうに顔をしかめたエリクと、心配で今にも泣き出しそうなヤンはしっかりとうなずいた。

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