戦闘

 前に立ったマチルダがジラルドたちを振り向いて言った。


「これからディーレ侯爵の屋敷のドアを破るわ。護衛の兵士がやってくる、皆ケガをさせないように戦って」


 マチルダの言葉にヤンとエリクは神妙にうなずく。この娘はあくまで自分がリーダーだというように行動している。ジラルドとしては面白くないが、この状態では従わざるをえない。


 マチルダは屋敷を囲っている壁の中で、馬車が出入りする鉄柵の扉の前に立ち、手をかざした。マチルダが小さく何かを呟く。するとマチルダの手から、激しい炎が出現した。


 炎の魔法は鉄柵の扉をあっと言う間にひしゃげさせてしまった。ジラルドたちは屋敷のドアまで走った。屋敷のドアもマチルダはいとも簡単に破壊した。


 ドンッと大きな音がして、屋敷にいる使用人たちがわらわらと玄関に集まり、口々に侵入者だと叫んだ。その直後、鎧を身につけて剣を手に持った兵士たちが現れた。兵士たちはオウッと雄叫びの声をあげてジラルドたちに斬りかかってきた。


 マチルダは魔法で水の柱を作り出し、兵士を吹っ飛ばしていた。ヤンは大きな模擬刀を振り回し、兵士をなぎはらった。エリクは一歩足を踏み込むと姿を消し、兵士の側面に現れ、兵士の頭をけり倒していた。どうやらエリクは剣よりも体術の方が得意のようだ。


 ジラルドはマチルダたちの動きを見ながら、自分に斬りかかって来た兵士の剣を軽く流すと、剣のつかで兵士の首を殴打し、気絶させてから口を開いた。


「お前たち、中々やるじゃないか。どうだ、俺の部下にめしかかえてやろうか?王子の部下など大出世だぞ?」


 冗談半分に言ったジラルドの言葉に、ヤンとエリクは顔をしかめた。エリクはチッと舌打ちしてから言った。


「へんっ、みくびられたものだな。俺たちは名誉が欲しくてお嬢さまの部下でいるんじゃねぇんだよ。お嬢さまだから、部下でいるんだ。たとえお嬢さまが平民になっても、外国の奴隷になったとしても、俺たちはお嬢さまの部下なんだよ!」


 エリクはゆるぎない瞳でジラルドをにらんだ。ヤンはジラルドをあわれむような表情で答えた。


「僕たちが王子の部下になると言ったら、王子はそれでいいの?王子よりも偉い人が僕らを部下にしたいと言ったら、僕らはその人の部下になってしまうかもしれないよ?そんな部下を王子はほしいの?」


 ジラルドは内心舌を巻いた。目の前の年端もいかないエリクとヤンは確固とした忠義心を持っているのだ。それまで黙っていたマチルダがジラルドを厳しい目で見て言った。


「私たちはお嬢さまの所有物だ。私たちの主人はお嬢さまただ一人。だが、もし王子がお嬢さまを妃にし、お嬢さまが王子を守れと命令するならば、私たちはこの命にかえても王子を守る。お嬢さまの望みが私たちの進む道だ」


 マチルダの言葉に、ジラルドはふうむとうなった。エレーヌを妃にすると、魔力を持った悪童たちがついてくるという。


 ジラルドの心は少し動いた。だがおまけを目当てに妃を決めるのもいかがなものかと思いふみとどまった。


 正面玄関に群がってやって来た兵士たちをあらかた倒すと、マチルダたちは大声でエレーヌを呼んだ。


「お嬢さま!お嬢さま!返事をしてください!」

「お嬢さま!助けに来ましたよ!」

「お嬢さまぁ!お嬢さまぁ!」


 一階からエレーヌの声が聞こえないとわかると、マチルダたちは大階段をのぼり、二階にあがった。二階には長い廊下があり、数多くの部屋があるようだ。


 マチルダたちは大声でエレーヌを呼び続けた。すると一つの部屋からドンドンと扉を叩く音がした。音とともに女性のしっかりとした声が聞こえた。


「わたくしはここです!マチルダ!ヤン!エリク!」


 主人の声を聞いたマチルダたちは、飼い犬のように笑顔になって、声のするドアの前に走った。マチルダは大声で、扉の向こうのエレーヌに言った。


「お嬢さま!ドアを壊します!ドアから離れてください」


 エレーヌの返答の後、マチルダは炎魔法でドアを破壊した。




 


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