エレーヌの罰

 エレーヌは使用人部屋のドアを勢いよく開けて叫んだ。


「ヤン!」


 三人の子供たちがいっせいにエレーヌを見上げた。大きな瞳をさらに大きくしている。エレーヌはズカズカとヤンに近づくと、左足に視線を向けながら言った。


「ヤン!ケガは?!」

「は、はい!少し斬られましたが、マチルダが治癒魔法で治してくれました。もう痛くありません」


 ヤンの無事を確認したエレーヌは、大きな安どのため息をついた。その直後、ふつふつと怒りが湧いてきた。エレーヌは三人の子供たちをギロリと見て言い放った。


「マチルダ、ヤン、エリク。お前たちはわたくしの所有物です。お前たちは、わたくしの物を傷つけた。よって罰を与えます」


 三人の子供たちの目はみるみる涙目になった。エレーヌはグッと息を飲む。まるで自分がいじめているみたいだ。だがここでキッチリとお灸をすえておかないと、マチルダたちはまたエレーヌのためにケガをしてしまうだろう。エレーヌは厳しい声でいい放った。


「これから一週間、お前たちとは口をききません、いいですね?!」


 子供たちの顔はパッと青ざめた。マチルダは顔をくしゃくしゃにしたかと思うと、わんわんと大声で泣き出した。


「お嬢さま!ごめんなさぁい!ごめんなさぁい!もう二度とヤンとエリクを傷つけたりしません。だから許してください!」


 マチルダはもう十三歳になるのに小さな子供のように泣きじゃくった。ヤンとエリクはマチルダの手をつなぐと、目に涙をうかべながらエレーヌに言った。


「お嬢さま、僕たちは罰を受けます。でもマチルダだけには罰を受けさせないでください」

「そうです、お嬢さま。俺たちが罰を受けるのは当然です。ジラルド王子の剣技の実力を見誤っていました。だけど、一週間もお嬢さまと会話ができないなんて、マチルダには過酷すぎます」


 エレーヌはグヌヌとうなってから、口を開いた。


「では、罰の日にちを三日にします」


 マチルダはまだ泣き止まない。仕方なくエレーヌは再び提案した。


「では今日一日。マチルダはわたくしのベッドに一緒に寝ていいから」


 マチルダはわんわん泣きながらエレーヌに抱きついてきた。エレーヌは仕方なくマチルダを抱き上げる。マチルダはエレーヌの首に腕を回し、腰に足を巻きつけてがっちりしがみついた。


 エレーヌは結局、使用人の子供たちを甘やかしてしまう自分が情けなくなり、ため息をつきながら言った。


「ヤン、エリク。マーサに言って、夕食を食べさせてもらいなさい。食事が終わったら、今日はもう早く寝なさい。命令です、いいですね?」


 ヤンとエリクは涙をがまんしながらうなずいた。マーサとはエレーヌの乳母だ。現在はエレーヌの身の回りの世話と、エレーヌが保護した子供たちの面倒を見てくれている。子供たちにとっては祖母のような人だ。


 ヤンとエリクの事は、マーサに任せておけばよいだろう。エレーヌは、ずり落ちそうになるマチルダをもう一度抱き上げながら、自身の部屋に向かった。


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