マチルダの境遇
マチルダは着替えた後、使用人の食堂に連れていかれた。マーサは温かいスープと、白いパンを出してくれた。マチルダの向かいにはエレーヌが座っていた。エレーヌはマチルダにぞんざいに言った。
「腹が空いているだろう。食べなさい」
マチルダはエレーヌの見ている前で食事などできないと思ったが、ぐーぐー鳴るお腹に耐えかねて、パンにかじりついた。
パンはこれまで食べた事がないくらい、フワフワで甘いパンだった。マチルダは口の中にパンをめいいっぱいほおばりながら、スプーンでスープをすくって飲んだ。スープもとびきりの美味しさだった。
マチルダはあまりの美味しさに、ボロボロと涙をこぼした。エレーヌはいぶかしんだ表情になって言った。
「どうした?美味しくないのか?」
「い、いえ!これまで食べた事がないくらい美味しいです。でも、私だけこんな美味しいものを食べて、教会の皆は食べられないと思ったら、悲しくなって」
エレーヌは、パンをつかみながら泣いているマチルダを見て、両手をポンと叩いて言った。
「よし。毎日とはいかないが、毎月教会にパンとスープを届けさせよう」
エレーヌの提案に、マチルダは泣く事も忘れて目をぱちくりさせた。マチルダは貴族の人間を、もっと怖い人種なのだと思っていた。
貴族以外は人間ではなく、平民は家畜同然と考えているのではないかと。だが目の前にいる美しい令嬢は、どうやら違うようだ。
食事が終わると、マチルダはエレーヌの部屋に案内された。エレーヌは自分のベッドで一緒に寝ろという。恐れおおくて拒否すると、エレーヌにギロリとにらまれたので、素直に従う事にする。
エレーヌのベッドはフカフカだった。マチルダがベッドに入ると、エレーヌはマチルダの肩まで毛布をかけながら言った。
「これからお前はわたくし付きの侍女にする。もし困った事があればマーサに言うのだぞ?」
マチルダは不思議で仕方がなかった。エレーヌは、マチルダの命を救ってくれただけではなく、これからも守ってくれるのだ。マチルダは恐る恐るエレーヌに聞いた。
「お嬢さま。何故私にこんなによくしてくださるのですか?」
「何故だと?決まっている。お前は今日からわたくしの物だ。自分の物を大切にするのは当然の事だろう」
「私は、お嬢さまのもの?」
「ああ、わたくしのためにおおいに働くのだぞ?」
エレーヌの言葉に、マチルダの胸の奥がカァッと熱くなった。マチルダは嬉しいのだ。エレーヌに必要とされて喜んでいるのだ。
マチルダは心に強く誓った。自分の命あるかぎり、エレーヌのために働こうと。
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