第2話 プログラム作り

次の日。


今日は水曜日だから昨日よりいっぱい作業できる。

月曜と火曜は7時間目まで、水木金曜は6時間目までなんだ。


「ごめん、今日部活だから作業参加できないの」


倉崎さんと同じグループの子だ。

たしかテニス部だった気がする。


「ああ、いいよ。来れる時に来てね」


「ありがとう!明日参加する!!」


「真彩、これで下書き良い?」


「あ、うん!色塗り始めようか」


倉崎さんが準備を始める。

今日はあの子たちと作業するみたい。


ももちゃんはモデルのお仕事、莉緒ちゃんは部活で参加できない。

2人とも私の友達なんだ。


実は莉緒ちゃんはハンドメイド部に所属していて、文化祭でいろいろ作業しないといけないんだって。

何を作っているのか、楽しみだな。


ももちゃんは数か月前、『Stella』という人気のファッション雑誌の専属モデルになったばかりなのに、雑誌の表紙に出ることになったんだって。

だから仕事量が増えて大忙しみたい。


私も、何か部活に入ったり、新しいことにチャレンジしてみたい。

2人を見て、そう思った。

部活にも委員にも入っていないし、習い事もやっていない。

だからその分クラスに貢献出来たら良いなって思ってる。


あっ、昨日の続きをしようかな。

準備をしようとしたその時だった。


「紘夢、いるー?」


教室に聞き覚えのある声が響き、静かになる。

戸を見ると、爽やかな雰囲気の先輩がいた。

彼を見て、クラスメイトの女の子たちが色めき立つ。


少しだけ心臓が強く跳ねた。



――木村将也先輩、だ。



将也先輩はうちの高校の生徒会長なんだ。

私の憧れの先輩、なんだけど……


「何ですか、木村先輩」


呼ばれた紘夢が目を擦りながら彼のもとへ行く。

謎を考えていたみたい。


「今日プログラムの締め切りなんだけど、紘夢出した?」


「……しまった。すみません、忘れていました」


「だと思ったよ。大丈夫?文化委員だからかもしれないけど、ちゃんと寝なよ。だいぶ疲れてるでしょ」


「……はい。ずっと設計考え直していて」


将也先輩と紘夢の会話に近くにいた倉崎さんがわずかに震えた。

瞳が揺れたように見えた。


……そっか、紘夢、夜遅くまで設計を考えていたんだ。

私、実行委員なのに何も力になれていないな。


「先生のタブレット借りて来たからここに題名と内容入力して。期限厳守だから今日中にお願いしたいんだけど……」


「今爆速でやります」


将也先輩からタブレットを受け取り、そのまま考え込んでしまう。

さっきまで謎を考えていたのに今度はプログラム……大丈夫、かな。

紘夢の体調が心配だ。

将也先輩も心配そうに見ている。

……私が、行かなきゃ。


「紘夢、手伝うよ」


「……えっ、絵奈……?」


紘夢の隣に椅子を置いて、そこに座る。


「でもこれ、委員の仕事だから……」


「私、実行委員だもん。手伝わせて」


よく見ると紘夢、目にクマができてる。

そういえば、最近授業中眠そうにしているし、休み時間はほぼ寝てしまっている。

授業中に寝ないようにすごく耐えてる。

……やっぱり寝不足で、疲れているんだ。

これ以上、紘夢に負担をかけちゃだめだ。


「わかった」


「どんなふうにしたら良いんだろ」


「お客さん呼びたいからなぁ。インパクトあるやつにしたい」


「たしかに。まず、脱出ゲームin遊園地だから、挑戦状みたいにしたらどうかな?」


「いいかも。昨日絵奈が考えてくれたストーリーも入れてみようかな」


私が考えた設定、取り入れてくれるんだ。

昨日急に思いついたストーリー。


「えっと、『ドリーミィ・ランドのマスコットキャラクター・ミィニャがかくれんぼ。協力して謎を解いて、隠れ上手なミィニャを探せ。たくさんのチャレンジを待っている』、こんな感じ?」


紘夢が高速でタイピングをする。


紘夢が考えてくれたマスコットの名前。

設定はみんなで考えてまとまったんだ。


「良いと思う!あとは題名だね」


「『脱出ゲームinドリーミィランド』って普通過ぎるかな」


「ミィニャを探せを入れてみる、とか」


「ああ、こう?」


紘夢がタブレットに打ち込む。

……何か足りない気がする。


「あっ、端に棒を入れたら変かな」


「棒?」


「うん。えっと、この棒」


キーボードを押すと、ゆるく曲がったあの棒が出てきた。


「あ、これか。いいね。……よし、できた」


あっという間に終わってしまった。

さすが紘夢だ。


「木村先輩、終わりました」


「え、もう?速すぎない?」


教室を眺めていた将也先輩が素っ頓狂な声でビックリする。


「絵奈が手伝ってくれたので」


「……へえ?」


将也先輩の視線が私に向く。

またドキッと心臓が跳ねる。

一瞬だけ目が合ってしまったけど、すぐにそらしてしまった。


「とりあえず間に合って良かった。でも、紘夢。無理したらダメだ、絶対に」


「……はい。わかってます」


「それじゃあ、また今度。のクラス、楽しみにしてるよ」


将也先輩は意味ありげに私を見て、教室から出て行ってしまった。

うわあ、何だか気まずい……


「……何で『絵奈たち』……?」


紘夢が不思議そうにつぶやいた。



最近、将也先輩を見るたびに胸が苦しくなる。

しんどいとかじゃなくて、何だか直視できないというか、恥ずかしいというか。



はじまりは、生徒会の仕上げの作業をした土曜日。


『—―好きなんだ。絵奈のことが』


生徒会室に忘れ物を取りに帰ったら将也先輩と帰ることになって、そう将也先輩から告げられた衝撃の言葉。

ビックリしすぎてしばらく黙ってしまった。


『急にごめん。でも、俺は本気だから』


まだ会ってから少ししかたってなかったけど、今まで見たこともないくらい真剣な表情で、真っすぐに私を見ていた。


『文化祭の時に、返事を聞いても良い?』


『……は、い』—―



どう返事したら良いんだろう。

全く分からない。


私にとって、将也先輩は憧れの人。

堂々としていて、周りから尊敬されている。

彼のような生徒会長に、私はなりたい。


こんな私を好きになってくれたけど、断るのは失礼かな。

それとも、釣り合わないから断るべき?

……どうしよう、どうしよう。


「絵奈?どうかした?」


紘夢が私の顔を覗く。


「う、ううん。何でもないよ」


文化祭までに、決めないといけない。

あと……2週間だ。

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