②キケンな生徒会の王子様

第1話 賑わう毎日

「おはよう、絵奈ちゃん!」



靴箱でスリッパを取っている時、後ろから見覚えのある子—―石澤莉緒ちゃんに声をかけられた。


「おはよう、莉緒ちゃん」


莉緒ちゃんは私の友達で、ものすごく話しやすいんだ。

流行に詳しいし、上品な雰囲気もあって憧れの女の子って感じ。


「あれ、ももちゃんはいないの?」


ももちゃんとは藤宮ももちゃんのことで、私—―西園絵奈の高校生初の友達だ。


「朝からお仕事なんだって」


「そっか」


ももちゃんは学生に人気のファッション雑誌、「Stella」の専属モデルの1人。

本屋とかでももちゃんのページ見たことあるけど、学校生活とモデルを両立してるなんてすごいよね。


「もうすぐ中間テスト……やばいな……」


「あーたしかに、2週間後とかだよね」


私の学校では学期に2回はテストがある。

この前の課題テストはものすごく結果が良くて、親にも褒められた。


「絵奈ちゃん、勉強教えてくれる……?」


「私なんかで良ければ!説明下手かもしれないけど……」


「そんなことないよ!話し合う時とかいろいろ言ってくれるし」


「あはは……そうかな」


なんて会話をしていると、奥から女の子たちの声が聞こえた。


「見て、木村先輩だよ!」


「生徒会長!?」


「おはようございます!」


生徒会長……?

そういえばこの前、生徒会選挙があった。

候補者の演説を聞いて、投票した。

生徒会長候補が2人いて、僅差の結果だったとか。


「新しい生徒会長がいるみたいだね」


「そうみたい……だけど、見えないね」


女子に囲まれてて肝心の生徒会長が見えない。

まあ、いつか会えるかな。



「おはよう、絵奈」

「はよ、絵奈」



教室に入るなり声をかけてくれたのは私の幼馴染み――塔山武尊と城谷紘夢。

2人の間の席に座って、1時間目の用意。

莉緒ちゃんとももちゃんは私の席の前なんだ。


「あれ、藤宮さんおらへんやん」


そう言ったのは塔山武尊。

クラスの委員長で、ものすごく優しいんだ。

少し前まで大阪に住んでたから関西弁を話すんだ。


「朝から仕事なんだって」


さっきの会話の様に答える莉緒ちゃん。


「藤宮さんといえば、『フローズン・ナイト』のCMに出てたね」


「「えっ!?」」


そう静かに言ったのは城山紘夢。

クールでちょっと不器用なんだけど、本当はすごく優しい。

ツンデレな面もあって可愛いんだ。


「あ、俺も見た」


平然と言う武尊。

ま、待って。

ももちゃんがフローズン・ナイトのCM!?


「そんなの知らないよ!」


「見たことない!」


フローズン・ナイトってSNSで話題の可愛いアイスクリーム屋さんだ。

このあたりでは隣町にしかない、誰もが行ってみたいところ。

そのCMにももちゃん!?!?


「最近始まったみたいだよ。だから見れると思う」


「「絶対見る!!」」


はしゃいでる私たちを武尊と紘夢があたたかい目で見てくれた。

この前席替えをしたらみんなと席が近くなって、毎日盛り上がっているんだ。


それにしてもももちゃん、新人なのにすごいなぁ。

CMに出てるってことはお店にもポスターはあるかもしれないよね?

はあああ、見てみたいなぁ。


……ちょっと前、ももちゃんはモデルのことでいじめられてたから心配だったけど。

今はおさまったけど、クラスメートの視線が何だか痛くて怖い。


教室を見渡すと、やはりクラスの女子たちはちらちら私たちを見ながらこそこそしたり、ももちゃんをいじめた彩花ちゃんを見て笑ってる。

もう1人、華音ちゃんも彩花ちゃんと一緒だったんだけど最近は学校に来てない。


……ものすごく、複雑だ。


なぜなら私は彩花ちゃんたちにももちゃんと引き離される様に接せられていたから。

ももちゃんを仲間外れにしたり、あえて孤立させたり。


それに、周りもこそこそしてるだけで彩花ちゃんたちを笑う権利なんてないと思う。

ももちゃんの時も周りは何もせず見て見ぬふりをしてた。


これを言い出したら私なんて、武尊がいなかったらももちゃんへのいじめに気づけなかった。

紘夢もいなければももちゃんを助けられなかった。



――あの時のトラウマさえなければ。



何度私はそう思ったんだろう。

……ああ、ダメだ、辛い、思い出しちゃう。



「—―絵奈?絵奈、大丈夫か!?」


「絵奈……!?」

「絵奈ちゃん!!」


3人の声にハッと顔を上げる。

莉緒ちゃんが私の手を握り、紘夢は椅子から立ち上がって私を肩を掴み、武尊は顔色をうかがっていた。


「大丈夫か、絵奈。顔青いで」


「汗も出てる……保健室行く?」


武尊と紘夢の声が焦ってる。

いつの間にか莉緒ちゃんは涙目になってる。


「う、ううん、大丈夫だよ。昔のこと思い出しちゃっただけだから」


私の言葉に肩を掴んでいた紘夢の手がピクッと震え、掴む力が弱まった。


「ほんまか?無理せんでええねんで?」


「大丈夫だよ。本当に、大丈夫だよ」



キーンコーンカーンコーン



朝休みが終わるチャイムが鳴る。


「……大丈夫そうならええけど、しんどくなったらすぐ言うてや?」


「う、うん」


3人とも正面を向いて椅子に座った。


……ダメだな、私。

まだあのこと引きずっちゃう。

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