第2話 運命の再会

全員が教室に揃った。

そわそわした雰囲気が流れていて全然落ち着かない。

当たり前だけど、みんな知らない子。

……私、このクラスに馴染めるのかな。

だ、ダメだ、そんなこと考えたらダメだ。

明るく生きるって決めたんだから。



「もうそろそろ始まるから廊下に名前順に並んでー」



A組の担任らしい男の人が私たちに言う。

第一印象はいかにも理系の先生って感じ。

メガネをかけていて、三十代くらい。


クラスメイトみんなが一気に立ち上がり、廊下に向かう。

名前順か……顔も名前も知らないのにすぐ並べるのかな。

前後の人さえもわからない。

その時だった。



……紘夢?



懐かしい思いが胸に広がった。

小柄で華奢な、鋭い瞳とクールな顔立ち。

見た目とかは小動物ぽいのにどこか気だらけな感じ。

彼は、しろたにひろ

幼稚園の時から小学校を卒業するまではずっと一緒にいて、仲が良かった。

……ものすごく気まずい。

同じ高校だったんだ、てっきり別のもっと賢いところかなって思ってたけど。

たぶん……紘夢怒ってる。

また昔みたいに、話せないのかな。


私の視線に気づいたのか、彼は私を見た。

一瞬だけ瞳が大きく見開いた、けどすぐにそらされた。

そりゃ、そうだよね。

もう、話したくないよね。


廊下に出るとやっぱりみんな困っていた。

名前も顔もまともに覚えてないのに並ぶのはまだ難しい。

そのまま席順に並べば良かった、よね。

ど、どうしよう。

話しかける自信がなくなってきた。


「え、えっと……」


ダメだ、声が出ない。

足が震える。

こんなじゃ、ダメなのに。

変わりたいのに。

こんな時に泣きそう。



「……あれ、絵奈?」



上から懐かしい声。

けど、低くなってる。


「……えっ?」


スラリとした手足に、ほわわんとした優しい見た目、けどどこか上品な感じ。

……も、もしかして。



「た、武尊!?」



私が彼の名前を呼ぶと嬉しそうに微笑んでくれた。

あ、会うのいつぶりだろう。

彼はとうやま武尊たける

紘夢と同じ、幼馴染み。

小学6年の時に大阪に引っ越ししてしまったんだけど、いつのまにか戻ってきてる。

たまに手紙とかでやりとりしてたけど、受験期になるとほとんどしなくなってしまって。


「い、いつ、戻ってきてたの?」


「2月やで。決まったんは1月」


「そうなんだ、また会えて嬉しい!」


「俺も。で、絵奈は俺の前やで」


「そ、そうなの?」


「うん。クラス発表の時に覚えた」


私を背中を軽く押しながら教えてくれる武尊。


「あ、ありがとう」


また微笑んでくれた。

武尊は本当に、優しい。

周りをよく見ているって言うのかな。

誰かが困ってたら今みたいにいつの間にか行動してる。



『絵奈ー』

『絵奈〜』



昔の2人の声。

あの時は本当に楽しかったな。

ずっと一緒に遊んでた。

外でも家でも。

学校でもずっと一緒だった。


2人とも、ここで再会するとは思わなかった。

またみんな同じ学校。


けど、何でこんなことになったんだろう。

……武尊は、知らない。

私と紘夢の関係のことを。

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