第4話 残骸
「ったく、A組だるいなぁ」
「いやそれな。ガムテープくらいいいじゃんかよ」
廊下に並ぶ完成した作品や未完成のもの。
特に1年生の教室前がもので溢れてる。
「Aって脱出ゲームだったよな。うわっ、かなりすごくね?」
「……腹立つな。ちょっと懲らしめるか」
「この看板は?」
「良いじゃん。バラバラにするか?」
「うわ、結構重いな。絶対作ったの女子じゃないな」
「なら壊しても大丈夫だろ。貸した匠が悪いんだし」
「……でもこれ、もし西園さんが作ったものだったら……」
「だから女子が作ったにしては重いんだって。いくらあの人でもこんなん作れないって」
裏側のガムテープをはがし、バラバラになる看板。
それを数人の男子が折ったり踏んだり破ったり。
「さすがにやりすぎじゃね?」
「いいだろ、これくらい。こいつら段ボールいっぱいあるし」
ボトッと背後で何かを落とす音。
ありえないものでも見たかのように体が震え、目に涙を浮かべている一人の美少女。
数人の男子たちはぎょっとする。
「……何、してるの……?」
自分でも分かった。
私今、泣いてるんだって。
せっかく作った看板が全部破られていたから。
階段を上っている時に聞こえた。
……それも全部、私の前にいる男子やったんだって。
「さ、西園、さん……」
「おい、お前が説明しろよ」
「何でだよ」
「どうしてこんなことするの」
昨日の夜、デザインを考えて、作るの楽しみにしていたのに。
今日も作業して良いって、先生が許可してくれたのに。
……この人たち、もしかして隣のクラスの……?
「あんたのクラスの奴らがガムテープごときでうるさいからだよ。別にあんたが作ったわけでもないだろ」
ああ、やっぱり。
逆恨み、か。
でもそれ以上に許せない。
だって、その看板……
「……それ……私が作ったんだけど」
「「「えっ……」」」
本当にまずいと思ったのか、硬直する男子。
これだから男子のことが嫌いだ。
もう、男子の誰を信用したら良いんだろう。
中学の時のいじめっ子と同じ思考だ。
「ご、ごめんなさい!!」
「ちゃんと弁償はします!!」
「ガムテープもボンドも全部返しますから!!」
頭を下げたり、土下座をしたり。
「—―絵奈?」
後ろから聞き覚えのある声。
もしかして、紘夢と武尊かな、時間的にそろそろ来るし……
「って、絵奈、大丈夫!?」
急いで階段を駆け上がったのは紘夢でもなく武尊でもなく、将也先輩だった。
「将也先輩……」
「目、腫れてるよ。いったい何が……」
将也先輩は段ボールの残骸を見て、目を見開く。
そして、鋭い瞳で男子たちを睨む。
「……絵奈に、何をした」
思わず震えるくらい低い声。
そのまま将也先輩は男子たちに近づく。
ど、どんな表情をしているんだろう。
「答えられない?じゃあ、俺が答えてあげるよ。それ、絵奈が作ったもので、お前たちが壊した。違う?」
「お、おっしゃる通り、です……」
男子たちの声がどんどん弱くなる。
さっきまでの感じはどこに行ったんだろう。
「ふーん。それならやるべきこと分かってるでしょ」
「え、えっと、ちゃんと直します!借りたものも全部返します!!」
「わかってるならさっさとやりなよ」
「「「は、はいいっ」」」
恐怖に満ちた顔でこの場を去ってしまった。
「それにしても……だいぶ派手にやってくれたね」
将也先輩が残骸を見る。
はあ、一からやり直し、か。
このこと、みんなにどうやって説明しよう……
「このことは俺から先生に説明する。当日もあいつらのクラスは評価減点確定になりそうだな」
将也先輩が私を見る。
そういえばさっき、目が腫れてるって言ってたな。
さっき泣いちゃったし、あまり見られたくない。
「ちょっと休もうか、絵奈」
将也先輩は慰めるように、優しい声で言った。
「ほら、飲みなよ」
自動販売機の飲み物。
期間限定メロン味ソーダって書いている。
「えっと、申し訳ないです。この前もいろいろおごってくださったのに」
生徒会のお手伝いに行ったとき、お昼ご飯やおやつまでおごってくれて、すごく盛り上がって楽しかった。
「いいの。それ結構美味しいんだよ。期間限定だから飲んで損はないよ」
「……じゃ、じゃあ、いただきます」
ふたを開けると炭酸の音がして、メロンの良い匂いがした。
一口飲む。
「……美味しい」
炭酸だけど、そこまで強くなくて飲みやすいし、メロンの味もしっかりしてて美味しいかも。
メロンソーダとはまた違って、メロン果汁に炭酸を加えた、みたい。
「でしょ?」
そういう将也先輩はいちごみるく。
クラスの子が飲んでいたのを見たことがある。
「少しは落ち着いた?」
優しい瞳で私を見る将也先輩。
「はい。ありがとうございます」
「そっか。良かった」
サイダーを飲む。
しゅわしゅわーっと口の中で炭酸が広がる。
……あの看板みたいに。
作ったものが壊されて、水の泡になっちゃった。
「絵奈のクラス、脱出ゲームなんだっけ」
「はい」
「当日楽しみだな。絶対絵奈のクラス行くよ」
「えへへ。楽しみにしくださいね」
「あ、でも、紘夢のことだから謎難しそーだな」
「それは……どうでしょうね」
あと2週間もない。
来週が文化祭当日だ。
まだ謎は作り終わってない。
間に合うのか、不安になってきた。
「俺ね、演劇でメインキャラ演じることになったんだ」
「……ええっ!?!?」
将也先輩は恥ずかしそうにはにかむ。
「何をやるんですか?」
「作品は当日まで言えないけれど、まあ、とある国の王子役」
王子役、かあ。
いったい何をやるんだろう。
「当日が楽しみです」
「そうだね。俺も楽しみつつ、かっこいい所見せるから」
ドキッとした。
そ、そんな意味ありげに言わなくても……!!
「あ、絵奈!!」
どこからか紘夢の声が聞こえた。
校舎の方から紘夢、武尊がこちらに向かっていた。
「絵奈、大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫だよ」
私が答えると、2人はほっと息をつく。
もしかして、心配してくれたのかな。
「見せたいのがあるから来てくれへん?」
武尊がうずうずしながら言う。
何があったんだろう。
「見せたい、もの……?」
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