第5話 近づく完成
「見せたいものって、何?」
気がつけばもう一時間も経っていて、休憩でいたつもりがほぼのんびりしてしまっていた。
「まあ、楽しみにしといてよ」
「えー気になるよ!」
2年のクラスの前を通ると、音楽が聞こえた。
すごいダークでカッコいい曲だ。
ミュージカルとかかな?
1年の教室は昨日より作品の数が増えていて、見るだけでワクワクする。
当日がすごく楽しみ。
A組の教室に着いた。
残骸は誰かが掃除してくれたみたいだ。
やけに静かな気がするし、なぜか密閉。
「よし、開けるぞー!」
武尊が戸を開け、中に入ると、そこはいつもの教室じゃなかった。
「……えっ……」
まず視界に入ったのはお店が並んだ横に長いイラスト。
すごい、こんなに細かく、それも横長に大きい絵。
「やっとな柵が完成してん。ほぼ1週間かかったな」
そうだった、これ柵だ。
ステージ1は遊園地の入り口のお土産屋が並ぶところだって設計図にあった。
段ボールを横長に貼って、上からいろんなお店が描かれている。
カチューシャに、ぬいぐるみ、雑貨のお店とかいろいろある。
この柵は武尊を中心にみんなで描いていたな。
特に時間がかかるって言われていたけど、もう完成したんだ。
「じゃ、次こっち」
紘夢が手招きする。
柵の後ろの方はステージ2への入り口だから人が通れるくらいの間がある。
そこを通ると、今度は遊園地の光景が広がった。
私が描いたメリーゴーランド、コーヒーカップ、お化け屋敷、そして黒板にはジェットコースター。
まだ壁には貼れないからクラスメイトが1枚の絵につき2人持ち上げてくれている。
アトラクションの絵も完成したんだ……!!
すごい、いつの間に……!!
「だいぶ遊園地っぽいでしょ」
紘夢が小さく笑いながら言う。
「うん!」
……懐かしいな。
城川の方に遊園地があって、初めて来たときの印象がこんな感じだった気がする。
幼稚園の時のことだから行ったのはずいぶん昔のことだ。
「ガムテープの件、B組の人たちが全部新しく買って戻ってきたんだ」
倉崎さんが棚を指さす。
ほんとだ、新品のガムテープとボンドがある。
「で、看板も今作ってもらってる」
……看板。
少しだけまた落ち込みそうになったけど、切り替えないと。
今日は別の作業をしよう。
「ありがとう、見せてくれて」
私は紘夢と武尊に言う。
2人はどうってことないみたいな表情になる。
「よし、絵奈も復帰したことやし作業再開や!!」
武尊が言うと、みんなで「オー!」と声をそろえた。
「……背景は順調なんだけど、謎がな……」
一番の難問。
謎を作るのが難しい、やっぱり。
実行委員みんなで集まって考えているんだけど、なかなか良い感じにならないんだよね。
謎は考えられるんだけど、全部の謎がつながっているから余計に難しい。
「最後の謎は頭文字を繋げて場所の名前になるんだっけ」
「名前と言うか、場所のヒントで良いんじゃない?」
「いいね!ステージ1は何問だっけ?」
「一応4問の予定」
「なら4文字のヒントだね」
4文字の、場所のヒント。
アトラクションはメリーゴーランド、コーヒーカップ、お化け屋敷、そして黒板のジェットコースターがある。
この中に隠れているキャラを探せってなると、何だろう、ざっくりしすぎていてそもそも謎が作りにくいのかも。
「なあ、紘夢。遊園地のテーマ?とかって決まってるん?」
さっきからずっと黙っていた武尊が紘夢に聞く。
「テーマ?」
「ほら、俺ら昔に城川の遊園地行ったやんか。そこは有名な映画とかアニメ、ゲームのアトラクションが集まってるやん?」
そうそう、3人でも行ったことあるよね。
あそこはいろんなアトラクションがあって楽しかったな。
子供向けから大人向けまであるし、何度も乗りたいって思うんだよね。
「……エフェルの作品がテーマってこと?」
「それ!!」
エフェル。
城川にある遊園地のキャラクター生みの親で、様々な映画作りに携わった、世界でも超有名な人。
今はお亡くなりになったんだけど、彼の子孫を中心にエフェル会社という形で映画やアニメ、ゲームを作っているんだって。
城川にある遊園地は城川エフェルランドって言って、エフェル本人が作ったキャラクターや映画、エフェル会社が作った作品が集結している、エフェルファンにとっては夢のような場所。
エフェルの母国であるアメリカ、パリ、香港にもエフェルランドがあるんだよ。
「今の感じやったらその遊園地のテーマがないやんか。遊園地っていう概念にとらわれすぎて謎も作りにくいんやと思う」
たしかに……そうかもしれない。
遊園地の「テーマ」が今のところない。
「それは……そうだけど、テーマを今から決めるの?」
「『トランプ』はどうや?」
武尊が自信満々に言う。
「「「トランプ?」」」
「そう。ドリーミィランドはトランプがイメージの遊園地や。ハート、ダイヤ、クラブ、スペードエリアって感じでアトラクションがあって、ミィニャは○○がある場所!みたいな感じなどう?」
トランプかぁ。
私のイメージはハートはピンク、ダイヤは水色、クラブはオレンジ、スペードは紫っていうのがある。
たしかにエリアごとに分けられるし、もしかしたら良い感じにアトラクションと会うかも……!!
「でも、もうアトラクションの絵は完成したよ。あと観覧車は残ってるけど、トランプのイメージを加えるのはもう遅いんじゃ……」
倉崎さんがおずおず言う。
「あくまでも何やろ……そのエリアのシンボルと言うかマークみたいなものやから後からでもつけ足せれる。……俺に良い考えがあるねん」
武尊はそう言って、にやりと笑う。
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