第3話 思わぬトラブル
土曜日。
今日は授業はないけれど、準備のために学校に行かないといけない。
時間を決めて、先生を許可を得たら土曜日も作業して良いんだって。
クラスの連絡では来れる人だけ来てって言われて、私は特に予定はなかったから行くことにした。
クラスのことだもん。
ちゃんとクラスに貢献して、良いものを作りたい。
教室に着くと、早速作業を始めている子がいた。
紘夢は倉崎さんと設計の確認をしているみたい。
武尊は……まだ来ていないのかな。
昨日の続きをしようかな。
色塗りがまだ途中だったし。
模造紙をを広げて、絵具の用意をする。
お昼までで、3時間はあるから今日中にはできそう。
コップを持って、水を入れに行く。
他のクラスを見れば、廊下に作品が置かれていて、あんまりじっくりは見れないけれどどれもクオリティが高い。
たしか隣のクラスはカジノをやるんだっけ。
全部外装用かな。
「あ、段ボールなくなってる!」
「もう!?また取りにいかないとだね」
「ガムテープもいるかも!!」
なんて声が聞こえてきた。
うちのクラスは足りてるかな。
あとで確認してみよう。
「—―よし、できた」
ふう、と息をついて筆を置く。
結構いい感じにできたかも。
塗り残しがないかを確認して、紘夢に報告する。
「紘夢、完成したよ」
謎解きの本を読んでいた紘夢は顔を上げる。
「えっ、もう?」
「うん!」
紘夢は椅子から立ち上がって完成した絵を見てくれる。
「すごい……リアル……」
「そ、そうかな?」
「うん。さすが絵奈だよ」
紘夢はそう言って小さく笑った。
良かった、褒めてくれた。
「え、これ西園さんが描いたの……?」
「え、う、うん」
いつの間にかクラスメイトみんなが絵の周りに集まっていた。
倉崎さんもいて、じっと絵を見ている。
あ、そんなに見られるのは恥ずかしいかも……
「やば!」
「細かいところとかもちゃんとしてるし!」
「うちらも見習わないとだね」
な、何だろう。
すごく……嬉しい。
みんなが描いている絵も上手いと思うな。
観覧車とか、コーヒーカップとか。
「乾かさないといけないから端の方に移動させようか」
「うん」
紘夢が教室の端に模造紙を運んでくれるのを手伝ってくれた。
まだ1時間くらいある。
まだ何か作れるかも。
「紘夢、設計図見せてくれる?」
「ああ、いいよ。ほら」
「ありがとう」
設計図を受け取って、よく見る。
今のところ、4枚の絵のうち3枚は完成しそう。
あと1枚は、ジェットコースターの絵で、貼るのは黒板側。
うーん……これ、絵じゃなくて黒板アートじゃダメなのかな。
壁の端まであるから仕切りで半分になっても十分描ける気がする。
「あ、紘夢。設計のことで提案があるんだけど良いかな」
「何?……あ、倉崎さん、ちょっと来てくれる?」
紘夢に呼ばれた倉崎さんが私の隣に来る。
「ここの、ジェットコースターの絵、黒板アートにしたらどうかな」
「黒板アート……たしかに、それなら前日でも描けるから他の作業に回せるかも」
倉崎さんがつぶやく。
「そうだね。それに、模造紙は外装に使えるようになったし。よし、それで行こう」
「西園さん、提案ありがとう!」
倉崎さんが微笑んでくれた。
良かった、提案して。
「じゃあ、この看板作って良いかな」
「うん。看板用の段ボール、廊下にあるよ」
「わかった!」
廊下に大量の段ボールが積まれている。
そこに「看板」と書かれた小さい段ボールを見つける。
……あれだ!!
「よいしょっと」
えっと、設計では長方形で、窓の冊子に置くらしい。
ってことはかなり大きくした方が良いよね。
とりあえず段ボールを切って、仮で形を作って。
あ、サイズは良い感じかも。
これで固定しよう。
棚の方に行って、ガムテープを探す。
「あ、絵奈。今何作ってるん?」
横から武尊が声をかけてくれた。
武尊は教室を半分に分ける仕切りを作ってるみたい。
「看板を作ってるんだ。固定するためにガムテープを探してるんだけど……」
……あれ、ガムテープがない……?
教室を見渡すと、使っているのは1人だけで棚にはない。
あと武尊がもう一つ持っている。
前の買い出しで結構買ったんだけど、他のどこに行ったんだろう。
「何でガムテープないんやろ。別に他の使ってないし、使い切ってないし……とりあえず、絵奈はこれ使い?紘夢に聞いてくるわ」
「え、あ、りがとう……?」
武尊がガムテープを渡してくれた。
残りのガムテープ、見つかると良いんだけど。
切った段ボールをきれいに裏に並べて、ガムテープを貼っていく。
あ、良い感じ!!
看板ぽくなった!!
あとは色塗りと装飾かな。
どんなのが良いかな……遊園地だし、カラフルにしてみるのも良いし、風船を貼るのも良いかも!!
あ、でも今風船貼ったら当日までに絞んじゃうから風船を貼るのは前日にした方が良いよね。
とりあえずラフを書いてみようかな。
遊園地の名前はカタカナかな、それともアルファベットの方が良いかな。
……アルファベットの方がカッコいいかも!
「—―はっ?」
紘夢の鋭い声が聞こえた。
顔を上げると、紘夢と武尊、そしてクラスメイトの男子、倉崎さんが集まって何か話していた。
どうしたんだろう。
「ごめん!あいつらには返すようにちゃんと言うから!」
1人の男子がなんでか謝ってる。
紘夢と武尊は顔を見合わせる。
「うちのクラスの補助金で買ったから他クラスに貸したらややこしなる。まさかそのクラス、お金使い切ったとか無いよな」
「さすがに早すぎだよ。それに使い切ったとしてもクラスで集めても良いって言われてるから……」
「今から行ってくるわ」
さっき謝ってた男子が大急ぎで教室から出て行く。
「あ、待、」
紘夢が止めたけど、諦めた。
何だか難しい表情で、考え込む。
倉崎さんと目が合った。
すごく……困ってるみたい。
すると、私のところまで来てくれた。
「実は、クラスで買ったガムテープが何個かなくなっていて、小沢くんたちが他のクラスに貸したらしいんだ」
「他のクラス?」
小沢くんって、今教室から出た男子だ。
「うん。なくなったから貸してって言われて貸したけど全部返されてない。ガムテープ以外にもボンドも同じことが起きてるみたい」
「……それ、良くないんじゃ……」
だって、各クラス平等に与えられたお金で買ったんだから、貸したものは返さなきゃだし、そもそも貸しちゃいけない、よね。
だからガムテープの数が少なかったんだ。
ガムテープだけじゃない、ボンドも。
「面倒なことになったな……」
倉崎さんがつぶやく。
その瞳はとても悲しげな色をしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます