第13話 突然の告白 Side紘夢

放課後。

やっと授業が終わった。


「武尊、帰ろ」


「うん」


絵奈は誘わなかった。

絵奈は今日も生徒会の仕事があるだろうから。


「今日のキムの放送、なんか意味深やったくない?」


「俺も思った」


「てか事故起きてたんやね」


「……そんな大惨事ではなかったのかも」


「んーでも、最近自転車の法律がめっちゃ厳しくなってなかった?」


「あー。イエローカードとかのやつ?レッドカードくらったら法的裁判になるとかの」


「そうそう」


そういえば、絵奈、朝生徒会の話になると一瞬黙ってたし、木村先輩と話してなかった。

そもそも目が合ってなかった。

木村先輩からも話しかけてなかった。

……もしかして、何かあった?



だとしたら、絵奈はまた1人で抱え込んでるかもしれな、



「紘夢くん」



誰かが俺の名前を呼んだ。

今の声、絵奈じゃないな。


振り向くと、知らない女の先輩が立っていた。

たぶん……2年生。

黒髪で、ハーフアップにしていて、何だかどこかで見たことあるような感じ。


「誰やっけ」


武尊が小声で話しかける。


「わからん」


何でかその人は少し笑っている。

変なくらい嬉しそうに笑っている。


「えっと、誰でしたっけ」


「立川友里。生徒副会長です」


「……ああ、思い出した」


「思い出してくれてありがとう」


立川先輩、は嬉しそうに笑う。

……何なんだ、この人。


「あのね、紘夢くん。突然なんだけど、私、紘夢くんのこと好きなんだ」


衝撃な言葉。

一瞬戸惑ったけど、答えは一つしかない。


「すみま、」


「紘夢くんって、西園さんと仲良いよね」


立川先輩は言葉を遮って俺に近づく。


「……そうですけど」


「あの子、何でか知らないけど急に生徒会の仕事手伝いたいって言って来たんだよね。どうせ将也とか御三家狙いでしょ。色目使って生徒会入ってチヤホヤされたいのに決まってる」


武尊が一瞬震えた。

俺も震えた。

声色が急に低くなったから。


それだけじゃない。

平気で絵奈の悪口を言っているから。

……許せない。


「それが何ですか」


「もしかして、紘夢くんも同じ被害に遭ってるんじゃないかなーって思って。かわいそう、あんな子につきまとわれてるなんて。私だったらそんなことしないのに」


絵奈を……悪者扱いしやがって。

絵奈はそんな子じゃない。

色目を使う子なんかじゃない。


「みんなそう思ってるよ。ちょっと可愛いからって調子に乗りすぎじゃない?その割に何もできないみたいだし」


……ん?

何もできない……?


武尊と目が合った。

武尊も怪訝そうな表情。


「どういうことですか、それ」


「昨日あの子が来て、私はちょっと抜けないと行けなかったからあの子に仕事を任せて抜けて、戻ってきたら将也があの子に向かって『早く帰れ!』って怒鳴ってたの。それって私が任せた仕事、全くできてなかったから怒鳴ってたってことだよね!」


木村先輩が怒鳴った、か。

あの人が怒ることなんてめったにないけど、絵奈が何もできないことはないと思う。

できないことならできないってはっきり言って謝ると思う、絵奈なら。


「だから、私と付き合ってくれない?あんな子といても紘夢くんが辛いだけだよ?」


「いい加減なこと言うのやめてもらえません?」


「えっ……?」


「結論から言います。絵奈はそんな子じゃないです。色目使ってるのはそっちだと思うんですけど」


「な……わ、私は紘夢くんのことを思って言ってるの!!」


「仲良くないのに紘夢くんって呼ばないでください」


「~っ!た、武尊くんは?」


「俺も紘夢と同じです。第一、絵奈がキム兄に怒鳴られていたという証拠はあるんですか」


「あ、あるよ!私、聞いてたもん」



「その間君はどこで何をしていたんだ?」



「「「えっ?」」」



この爽やかで、芯のある声……まさか。

後ろにはなんと木村先輩、そしてなぜかパソコンを開いている東弘人先輩と、田原勝吾先輩がいた。


「ま、将也……」

「キム兄!!」

「木村先輩!?」


「何してたのーって聞いてるの。答えてくれる?」


なぜかニコニコ、いや目だけ笑ってない。

普通に怖い。

聞かれた立川先輩は答えられない。


「あれー何で答えられないのー?まあ、それもそうか。ほんと、がっかりだよ。君のことは同じ生徒会役員だって信じてたのに」


「……全部、全部、あの子が悪いの!!たいして可愛くもないのに、何もできないくせに色目使って将也に近づいたり、紘夢くんたちと仲良くするのが悪いんでしょ!?!?そいつを排除して何が悪いわけ!?!?」


ヤバい。

本当にムカつく。

なんでどいつもこいつも自分のことしか考えないんだよ……!


「はあ……弘人。例の奴」


「承知」


東先輩がパソコンを操作して、何かを立川先輩に見せる。


「何それ」


「文化祭の書類のファイル」


「それが何」


「まだわからないか。これ全部絵奈が作ったんだよ」


「……えっ……」


武尊と顔を見合わせる。

文化祭の書類を絵奈が全部作った……?


「一次企画書、二次企画書、プログラム、それから諸注意……」


「これ、君が絵奈に頼んだものでしょ」


「そ、そう、だけど、あの子が全部作れるわけないじゃない!!」


「どうしてそう言い切れるんだ」


ここで初めて田原先輩が口を開いた。


「絵奈は本当にこれを全部作ったんだよ。他に誰が作ったっていうんだ。俺らか?立川さんか?無理だよ、こんな分かりやすい書類作るの。俺らでも無理なんだから」


いったい絵奈は何をしたんだ?

どんな書類を作ったんだ?

そこが気になりすぎて話が頭に入ってこない。


「じゃ、じゃあ、将也があの子に『早く帰れ』って怒鳴ってたのは何!」


「……何それ、俺そんなこと絵奈に言ってないよ」


「言ってたじゃん!!」


「キム、じゃないか?」


田原先輩がコソッと言う。

ってなんだ……?


「あ~。あれね、てかそれ君のせいなんだけど、どうしてくれんの?」


「は、は……?」


結局この人のせいなのか。

将也先輩が怒鳴るなんて基本無いんだから。


「君に選択肢をあげる。このことを先生に言ってこのまま生徒会を辞めるか、いつかこのことがばれて恥を抱えながら生徒会を続けるのどっちが良い?」


どっちも嫌だろうな……


「ひっ……!」


って、ま、またあの笑い方……!!!!

口だけ笑わないで、本当に。


後ろの2人もすんごい目で立川さんを見てるし……!!


「か、かっけえっす、キム兄」


いや違うだろ武尊。

惚れてる場合じゃないんだよ。


生徒会って恐ろしい。

生徒会はキケン、だ。

あまりにもキケンすぎる。

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