第12話 生徒会の思い

翌日。

田原先輩から連絡は来ていなかった。

本当に何があったんだろう。

ものすごくモヤモヤする。


将也先輩のあの怒った顔と低い声、それから鋭い視線。


うう……思い出すだけで怖い。

考えるのはやめよう。

連絡を待つだけだ、私がやることは。



「絵奈ー」


登校中。

後ろから武尊の声。

振り向くと、武尊と紘夢の2人が私の方へ走っていた。


「おはよう。武尊、紘夢」


「おはよう」

「はよ」


この光景もなんか慣れたかも。

2人がいるのが……当たり前というか。

1番安心する時間かも。


紘夢はなんだか眠そう?


「絵奈、生徒会はどうやったん?」


「……えっ」


武尊の思いがけない発言に固まる。

ど、どうだったって、どう答えたら良いんだろう。


「……絵奈?」


眠そうにしていた紘夢の目がパッと開く。


「昨日は文化祭の書類を作ってたの。ずっとやってたらいつのまにか6時前で焦ったんだ。あはは……」


「そ、それって1時間半も作業してたってこと?」


「そう、なるね」


「やば、どんな集中力やねん」


「それ同じこと言われた」


「やろうな」


あれって思って紘夢の方を見ると眠そうな感じはなくなって考え込むようにぼんやりとしていた。

……あれ、どうしたんだろ。


校門を通ると、将也先輩がいた。

前と同じように朝の挨拶をしている。

でも……表情が違う。

いつも爽やかなのに今日はピリピリしてるというか……硬い感じがする。


「キム兄!おはようございます!」


武尊の明るい声にハッとする。

よく見たら将也先輩、目にクマができてる。


「ああ、武尊か。おはよう」


「あれ、キム兄何かあったんですか?」


「いや別に?」


「そうですか?目にクマできてますけど」


「え?そうなの?やだな、恥ずかしいな」


と言って目をこする将也先輩。

ちょっと笑ってたけど……笑ってなかった。

口だけ笑ってたけど、目は笑ってない。

……昨日のこと、かな。



どんどん心が暗く、真っ黒になっていく気がする。



そもそも私、お手伝いしたいなんて言わなければ良かったのかな。

そうだとしたら将也先輩や東先輩、田原先輩はあんな暗い表情になることはなかったのかな。

……もう、生徒会のお手伝いをするのはやめようかな。

これ以上迷惑をかけたくない、し。


放課後、田原先輩にそう言おうかな。

その朝、将也先輩と目が合うことはなく、紘夢と話すこともなかった。



「今日、もうすぐ生徒会から朝の連絡があるからちょっと待っててな」


担任の先生が教室に入ると、最初の連絡がそれだった。

朝の連絡?

生徒会から?


武尊と目を合わせる。


「何なんやろ、連絡って」


「さあ……」


前の席のももちゃんと莉緒ちゃんも全く、という表情。

他のみんなも気になっているみたい。


少しして、放送が始まる音が聞こえた。


『みなさん。おはようございます。生徒会長の木村将也です』


……将也、先輩……?


思わずドキッとする。

声がいつもより低く聞こえる。



『先週は中間考査お疲れ様でした。結果はもう既に届いていると思いますが、最近気が緩んでいる生徒が多いと生徒会一同は感じています』


気が緩んでいる生徒……?


『まず、現時点での自転車通学者による交通事故発生件数は昨年度の1学期の発生件数を上回っています。そして校門遅刻、スマホやタブレットの生徒指導及び髪型や服装などの校則違反の生徒指導数が増えてきています。これはあってはならないことです』


えっ、そうなんだ……

意外と事故って起きているんだ……


『校舎内には意見箱を設置しています。ある意見がありました。「文化祭や運動会、球技大会の時のみ携帯の使用許可をしてほしい」、と。我々は使用許可のために先生方と何度も話し合っています。しかし、今のままだと実現することができません』


将也先輩の声がさらに低くなり、ぼんやりしていたクラスメート含め、全員が顔を上げる。


『自分さえ良ければ良い、なんてこと考えないでください。自分の行動を振り返って見直してみたください。自分の行動が、他人に迷惑をかけていませんか?』



「自分さえ良ければ良い」。

「自分の行動が他人に迷惑をかける」。


何でかわからないけど、心に刺さった。


『一年生の皆さんは高校生活に慣れてきた頃ですね。テスト終わって安心しているでしょう。しかし、ふわふわしているばかりでは良くありません。1年生だけではありません。3年生も、2もメリハリをつけて、過ごしていただけたらなと思います。生徒会からは以上です。お時間、ありがとうございました』


プチッと放送が切れた。


「はい、まあ俺のクラスじゃないと思うけど、さすがにみんな事故起こしてないし、髪型とか服装、スマホとタブレットで生徒指導なんてなんかなってないよね?俺は信じてるよ」


一瞬クラスの視線が彩花ちゃんに向けられた。

何だか複雑な感じで今日も授業が始まった。

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