第15話 本当の友達

午後の授業が終わった。

彩花ちゃんと遅れて来た華音ちゃんはそれぞれバラバラに、逃げるように帰った。


それを見ていた女子達は笑っていた。


「絵奈、また明日な」


後ろからトン、と肩を叩いたのは武尊。

いつも通りの優しい笑みを浮かべていた。


「え、あ、うん。またね」


武尊は紘夢の先に向かい、そのまま2人は教室を出て行ってしまった。

出る直前、紘夢は振り向き、私を見た。


え、何だろ?


紘夢は私から視線を外し、その後ろに視線を移したかと思いきやすぐに前を向いて帰っていった。


何だったんだろう。


後ろを見ると、莉緒ちゃんと目が合った。

私と目が合った莉緒ちゃんは目を大きく見開いた。


……もしかして、何か言いたいことがあるのかな?


私の勝手な想像だけど、聞いてみよう。

鞄を持って、莉緒ちゃんの席に向かう。


「えっと……莉緒ちゃん、何か言いたいことある?」


「……そ、その……ももちゃんの、お見舞いに行けたらなって思ってて……」


ももちゃんの、お見舞い。

私は別に良いんだけど、ももちゃんは迷惑じゃないかな。

家もわからないし。


「いいよ。けど、家は……」


「知ってるよ。ここからそんな遠くないけど、絵奈ちゃんは遠回りにならない?」


ももちゃんたちはたしか宮津中だよね。

私は宮津西中だからそんなに遠くはない。

家もちょっと移動しただけだし。


「全然大丈夫だよ」


「よ、良かった。なら良い?」


「うん。行こう」


莉緒ちゃんと一緒に教室を出る。


ももちゃん、元気だと良いんだけど。

特に心というか、精神が心配だな。

仲間外れにされて、あんな騒動があって。


モデルの仕事も大変だろうな。

たしか「Stella」の撮影場所って隣町の城川市だもん。

車で移動しないといけない距離はある。


Stella以外にも他の仕事はあるよね。

ロケとか、アイドルグループのPV動画や、新作コスメとかのCM。


「そういえば、絵奈ちゃんって元々は宮津中だったよね?」


校門を出て歩いていると、莉緒ちゃんが聞いた。


「うん」


「私も、ももちゃんも宮津中だったんだ。けどたぶんクラスが離れてたから絵奈ちゃんのことは名前しか知らなくて。……宮津西に転校したって噂で聞いたんだけど、何でだったの?」


……あ……


「ご、ごめん。言いたくないなら言わなくても大丈夫だよ」


「……えっとね。私、いじめられてたんだ、クラスの男子に」


「……えっ?」


あの光景がフラッシュバックする

けど、もう大丈夫だ。

怖くない。


「今は全然大丈夫だよ。気にしてないし」


「……そうだったんだ。あの事件、絵奈ちゃんが……」


そっか、莉緒ちゃんと、ももちゃんとも中学校が同じだったからあの事件は知ってるんだ。


「……ももちゃんはね、ずっと昔からモデルになりたいって言ってたんだ。だからオーディションに受かった時すごく喜んでて、私も嬉しかった。ももちゃん、友達が多いからその子たちもすごく喜んでたんだ。けど、今年になって彩花ちゃんたちがそのことでいじめたことが聞こえた時、すごくショックで……彩花ちゃんとも中学は同じだったけどクラス離れてたから影で良くないように思ってたかもしれないけどね」



低く、沈んだ声で話し始めた莉緒ちゃん。

……やっぱりそうだったんだ。


ももちゃんはずっとモデルになりたいって、思ってたんだ。


「彩花ちゃんもオーディション受けたけど、落ちたって言ってた。たぶん……嫉妬でやったんだと思う」


「そ、そうだったんだ。良く思ってなかったのは本当だったんだ……」


落ちたのは悔しいけど、それで人をいじめるのは違うよね。


「あ、着いたよ」


莉緒ちゃんがインターホンを押す。


何だかおしゃれなおうちだ。

柵の隙間からお庭が見える。


『はい』


女の人の声が聞こえた。

ももちゃんのお母さんかな。


「あ、ももちゃんの友達の石澤です。お見舞いに来ました」


『ああ、莉緒ちゃんね。今開けるから待っててね』


「はい。ありがとうございます」


ももちゃんのお母さん、莉緒ちゃんのこと知ってるんだ。



少しして、戸が開いた。

出てきたのはやっぱりももちゃんのお母さんだ。

雰囲気とか、髪の感じが似てる。

視線が私の方にうつり、怪訝そうに見た。


「お久しぶりです。こっちは絵奈ちゃんで、同じくももちゃんの友達です」


莉緒ちゃんが先に言ってくれた。


「え、えっと、西園絵奈です」


「あらそうなの。ももと仲良くしてくれてありがとう。2人とも、中に入りなさい」


笑い方も、ももちゃんと似てる。

すごい美人な方だなぁ。

もしかして、元々モデルをされてたのかな?

肌も綺麗だし、スタイルも良いし。


おじゃまします、と言って中に入る。

ももちゃんの部屋は2階みたい。


「もも、お友達が来てくれたよ」


ももちゃんのお母さんが部屋の戸を開け、中に入れてくれた。

ゆっくりしてね、と言って階段を降りてしまった。


「ももちゃん」


ももちゃんはベッドで何か雑誌を読んでいた。

あ、あれ、「Stella」だ。

普段とは違い、髪を下ろしてるから何だか新鮮。

顔色はそんなに悪くないけど、暗く見える。


「……莉緒、と絵奈」


私たちを見て、ももちゃんはすごく驚いてる。

すると、ももちゃんはベッドから出て座布団とクッション2つずつ用意してくれた。


ベットから出た時の歩き方とか姿勢がものすごく綺麗で、さすがモデルさんだなって思った。


用意してくれた座布団に座るけど何から話せば良いのかわからず、そのまま沈黙が続いてしまう。


「……絵奈」


ももちゃんが私を見た。

それも寂しげな瞳で。


「昨日は、助けてくれてありがとう」


……っ!!


何でだろう、涙が溢れてくる。


「え、絵奈ちゃん!?大丈夫?」

「え、絵奈!?」


「わ、私、何もできなくてっ……」


水をかけられることを止められなくて、仲間外れにされた時も守れなくて。

それがすんごく悔しくて、ずっと後悔してて。


溢れる涙を莉緒ちゃんがハンカチで拭いてくれるけど、全然止まらない。


「……うちのお母さんが昔モデルをやってたからさ。小さい時からずっと憧れてたんだ。けど、オーディションに受かったら周りから距離を取られたり、嫌がらせを受けることも知ってたし、中学の時からそういうのあったからそれなりの覚悟はあったし、我慢できた」


が、我慢なんてしなくて良いのに。

てかしたらダメなのに。

覚悟とかの問題じゃないよっ……!


「だから、改めてありがとう、絵奈。莉緒もありがとう」


ももちゃんが私たちに向かって微笑む。

今度はちゃんと笑ってくれた。


わぁぁぁん、と莉緒ちゃんまで泣き出してしまった。

ももちゃんも目に涙を浮かべていた。

……これが、本当の友達、なんだね。



いっぱい泣いた後はずっとおしゃべりしたんだ。


ももちゃん、明日から学校行けるんだって。

体調も微熱だっただけでそこまでしんどくはなかったらしい。


それから、ももちゃんの部屋はシンプルだけど、ものすごく可愛いんだ。

本棚には「Stella」がいっぱいあるし、小物がどれもおしゃれ。

コスメとかも買ってるみたいで、どれもももちゃんの推しモデルさんがCMをやってた物なんだって。

本当に、モデルさんが好きなんだなぁって思った。


憧れの推しモデルさんや、同期のモデルさんの話を聞いたり、こういう仕事をやってみたいとかモデルトークして楽しかったなぁ。

いつか表紙になりたいんだって。

想像するだけですごいよね。


そう話しているうちに私にも推しモデルさんができたんだ。

……もちろん、ももちゃんだよ。

デビューページのももちゃんはものすごくキラキラしてるんだ。

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