友情と決意の文化祭

第1話 脱出ゲーム

「よし、描けた……!」



床に広げた大きな模造紙。

そこには鉛筆で描いたメリードーランドの絵。


「西園さんって、絵も描けるんだ……すごく羨ましいな」


私—―西園絵奈の横でそう言ったのは私のクラスの文化委員、倉崎くらさき真彩まやちゃん。

文化委員というのは文化祭経営が仕事の委員会だよ。

来月の文化祭に向けて昨日から作業が始まったばかり。


「そ、そんなことないよ。模写しただけだし。色塗りしたいけど、時間的に厳しいかな」


「そうだね。明日は6時間授業だから時間いっぱいあるし。明日からにしようか」


「うん」


模造紙をくるくる巻いて、作業セットを置いている教室の隅に置く。

下校までまだ30分ある。


「城谷くんの手伝いしようかな」


城谷、と聞いて自然に視線が彼—―幼馴染みの城谷紘夢の方へ向く。

全部教室の後ろに下げた机椅子に1人で座ってずっとタブレットを見ている。

眉間にしわがあって、目が疲れてるみたい。


「紘夢、大丈夫……?」


「……えっ、ああ、絵奈と倉崎さんか」


紘夢は背伸びをして目をこする。

実は紘夢も文化委員で、今かなり重要な作業をやっているんだ。


「下書き終わったの?」


「うん。西園さんが手伝ってくれたから早く終わっちゃったの。それにクオリティもすごいんだ」


「そっか。後で見てみるよ」


紘夢がクラスメイトの女の子と話しているの何だか珍しいかもしれない。

まあ、委員だからかもしれないけれど。


「城谷くんは?」


「全然進まなかった」


紘夢のタブレットには「脱出ゲーム クイズ」のページや「謎解き」のページがいっぱいある。


そう、私たちのクラスは遊園地が舞台の脱出ゲームをすることになったの。

実際に脱出ゲームやったことないからわからないけど、先週LHRの授業で先生がネット版の脱出ゲームを用意してくれて、シュミレーションをした。

それは若干のホラー要素があったからちょっと怖くて謎解きに集中できなかったけどね、あ、あはは……


あれを思い出せば謎作りって大変だよなあ。

謎が全部つながっていて、プラス脱出のカギになるもん。


というのも、クラスで美術班と謎班に分かれて作業しようってなったんだけど、なんと全員美術班に行っちゃって、謎班メンバーはゼロ。

だから文化委員である紘夢がほぼ一人で謎を作ることになってしまったんだけど、これはこれでまずいよね……


私は実行委員だからどっちの班にも入らず、どっちも担当するって形なんだけどやっぱり謎作りって難しい。


「と、とりあえずお疲れ様」


その時、教室の戸が開いた。


「紘夢!段ボールゲットしたで!!」


教室に大好きな幼馴染みの声が響く。


「ありがとうだけど声大きすぎ」


「ごめんごめん。廊下に置いてたら良い?」


「うん」


大量の段ボールを抱えてやってきたのは幼馴染みの塔山武尊と、彼の友達の平岡くん。

どこからそんないっぱい段ボールを持って来たんだろう。


「んで、謎に困っている、と」


段ボールを廊下に運び終えた二人が戻ってきた。


「……うん」


「脱出ゲームなのに謎班がゼロって大問題だよな……」


「先生に説教もされたのに誰もやりたがらへん……」


な、何かできることはないかな……

たしかに、脱出ゲームなのに謎が無いのは痛いよね。


シュミレーションの時の謎ってどんなのだっけ。

最初は11個の謎を解いて、犯人を当てて、そこから犯人を倒す鍵が出てきて。


今回は遊園地。

遊園地と言えばアトラクション、BGM、いろいろなお店、それから……キャラクター達。


「……そうだ!!」


私の声に紘夢たちが肩を震わせる。


「ど、どしたん、絵奈」


武尊に聞かれるけど、早くアイディアまとめないと忘れちゃう!!


「紘夢、設計見せてくれる?」


「え?あ、うん」


紘夢たちが考えた設計は、教室を半分にして、ステージ1と2に分ける。

ステージ1は遊園地の入り口と言うか、お土産店が集まる一本道。

ステージ2はアトラクションの絵を大きな紙に描いて壁や仕切りに貼る。

……うん、これなら整理しながら説明できるかも。


「あのね、ストーリーとしては遊園地のあるキャラクターを探せ!なんだけど、ステージ1でそのキャラクターがいるエリアのヒントを集めて、ステージ2でその場所を特定するってのはどうかな??」


「謎はどんな感じにするの?」


「そうだなぁ……ステージ1はシュミレーションみたいに何個かクイズを作って、解いてもらって、ステージ2でその答えを頭文字で繋げてもらうように誘導するクイズを作って、最終的につなげた答えが場所に関するところで場所を特定したり、とか」


早口で喋った私を見てみんなは茫然としている。

あ、わかりにくかったのかな、それともダメ……?


「……天才すぎる」


最初に言ったのは紘夢だった。


「それ思った。それなら難易度とかもちょうど良くなるし、作りやすそう」


平岡くんも続けて言う。


「さすがすぎるわ……」

「さすが……」


武尊と倉崎さんの声がハモる。


え、えっと、これは「良い」の反応、かな……?


「その方向で行こう。今から細かく決めるから絵奈手伝って」


「え、あ、うん!」


紘夢が新しい紙を出して何かを書き込んでいく。

……良かった。

少しでもクラスに貢献できてる、みたい。

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