第5話 ハムスターの警備 Side武尊

だいぶ間を空けて絵奈たちの後ろをついていく。

向かってる先は……階段?

下の方で待って見てみよう。


「何でそんな心配しないわけ?」


紘夢がイライラしながら言う。

そんな心配する?


「うーん、何でやろな」


曖昧に答えておく。

横目で紘夢を見ると、口を尖らせていた。


俺やってわからん。

謎の安心感があるだけ。


絵奈たちが階段の踊り場で止まった。

俺らは……下に降りて、そこから聞いてみよう。


「あの、話って何かな」


横を通り過ぎる時、絵奈は少しおびえながら女子たちに聞いていた。


紘夢が鋭い目で女子たちを見ている。

はは……警戒心強いな。


ここからなら女子たちの顔はあんま見えんけど、会話は聞こえやすい。

チラッと見てみると、女子たちは真面目な表情。


「今日の朝、将也先輩と話したって聞いたんだけど、本当?」


真ん中にいた女子が絵奈に聞く。


紘夢の表情が険しくなり、目も細くなる。


……キム兄。

俺が尊敬する人。

この前の専門委員会の時から憧れてる。

師匠みたいな存在だ。


「う、うん。ちょっとだけ……」


絵奈の声がさらに小さくなる。


「何を話したの」


「名前を教えてくれたのと、ひろ……城山くんと知り合いって話をしただけだよ」


絵奈が紘夢のこと城山くんって言うのめっちゃ違和感しかない。

「紘夢」呼びの方がしっくりくる。


すると、女子たちは顔を見合わせる。

……そして、思った通り、目が輝く。



「「「どんな人だった!?」」」



「「えっ」」


遠い距離で絵奈と紘夢は同時に驚く。

ま、まあ、そうなるよな……


「えっと……すごく話しやすい人、だったよ」


「やっぱり?他は他は?」


「他……笑顔がまぶしかったかな。あと何をしてもずっとキラキラしてたというか、輝いてたというか」


絵奈の言葉にだんだん自信が出てくる。

嫌がらせはされないって、確信したぽい。


紘夢の方を見ると、ほぼ真顔で絵奈たちを見ていた。


「な?大丈夫やったやろ?」


「う、うん」


絵奈はものすごく可愛い。

すれ違った人みんな絵奈を2度見して、可愛いとか綺麗とか思ってるもん。

顔を見たらわかる。

……実際、絵奈はものすごく可愛い。


絵奈のファンクラブが最近できたとかそんな感じの噂まで聞いた。


男子とかとすれ違うとみんな表情にやけて正直ひくけど。

下心ないか心配になる。

たまにはこうやって見守ってないと、絵奈に何が起こるかわからん。

……絵奈を1人にさせん。


紘夢からしたら今日こうやって見に行ったのかいろんな意味で正解やったかもな。


「そろそろ戻るか、紘夢」


「うん」


不機嫌ではないらしい。

まあ、良かったやろな、絵奈が嫌がらせされてなくて。

俺もちょっと安心した。


さすがにあの絵奈に嫌がらせするようなやつはおらんやろ。

前の時は例外やったけど。


「意外だった」


紘夢が言う。


「そうやろうな。ところで、紘夢の子猫って何の種類なん?」


女子たちのすぐ近くの階段を上り、横を通り過ぎる。


「たしかミヌエットってやつ」


「な、何やそれ。聞いたことない」


「ペルシャとマンチカンのハーフか何か。ペルシャ譲りの甘えん坊、マンチカン譲りの好奇心旺盛でたまにいたずらする。留守番には注意。人懐こくて、しつけしやすいし、飼いやすい。懐きやすいから多頭飼いにも向いてる」


「……そ、そうなんや」


今すらーって猫情報出てきたけどすごいな。

さすが動物好き、やな。

そっちに驚いて何も頭に入らんかった。

結論、なんかのハーフで飼いやすいんやな。


「さすがハムスター」


「誰がハムスターだよ」


「紘夢が」


「ハムスターじゃねえよ」


「ハムスターやん。小柄で可愛い」


「かわいくねーよ」


「可愛ええの!」


「はあ……」


ついに諦めた紘夢。


あはは、このやりとりも久しぶりで楽しい。

反応も相変わらずやわ。


名付けてハムスターの警備。

さっきの紘夢、敵を見ながら自分のひまわりの種を守ってるみたいやった。

ほんまかわええよなあ。


後ろを振り向くと、女子たちは会話が終わったのか、俺らとはだいぶ離れた距離から帰っているところだった。

その中にちゃんと絵奈もおる。


スリッパの色が俺らと同じやから同級生か。

てっきり年上や思ってた。


「ねえ、何で大丈夫だってわかってたの」


紘夢がさっきと同じことを聞く。


「……さあ。何となく」


「またそれかよ。本当はわかってるんだろ」


「どうやろうな」


「もうー」


紘夢に、絵奈のファンクラブができたらしいなんてこと言うたらどんな反応するんやろうな。


てか、紘夢も知ってるんとちゃうかな。


ファンクラブができるくらい絵奈は密かに良い意味で噂されてるんやから誰かが嫌がらせしたらそれはそれでやばい。

ファンクラブあろうがなかろうが嫌がらせするのはやばいことやけど。

……実際あったけどな。

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