第6話 お手伝いさせてください!

今週は私の班が掃除だ。

班は出席番号順で、今週の掃除場所は女子と男子で分かれてやるんだけど、担当の先生の関係で男子は掃除がなくなった。

だから校門に武尊と紘夢を待たせてしまってる。


掃除の班が同じだから一緒に帰ることが多いんだ。

朝は家を出る時間がお互い違うかもしれないからバラバラなことが多いんだけど。


階段を降りて、下駄箱に向かっている時だった。



「—―あれ、絵奈?」



階段を上ろうとしていた男の人に声をかけられた。

彼は将也先輩だった。


「ま、将也先輩!」


「良かった、覚えてくれてた」


将也先輩はちょっと安心したように笑う。

相変わらず身だしなみがきれいだ。


「わ、忘れるわけないですよ」


生徒会長なんだし、こんなにキラキラしてる人なんて忘れようと思っても忘れられない。


「今から帰り?」


「はい。部活入ってないので」


「そうなの?てっきり入ってるって思ってた」


きょとんとする将也先輩。

うーん……入りたいって思える部活がなかったというか、馴染めるか不安だからな……


「あの、将也先輩は?」


1枚のファイルと、大量の紙。

何か印刷されてる。


「ああ、職員室から戻る所だったんだよ」


将也先輩がいる廊下を少し進めばすぐ職員室。


「生徒会の仕事ですか?」


「そうそう。てか階段降りなよ、危ないから」


「え?あっ、はい!」


階段降りずにずっと会話していたことに今気づいた。

言われるまで全然気にしてなかった。

将也先輩、優しいな。


「来月に文化祭があるからね。中間終わったら大忙しなんだよ……」


苦笑いする将也先輩。

それよりも文化祭という単語に反応する。


「ぶ、文化祭……!」


「あはは。絵奈の目、キラキラしてる」


「そ、そうですか?」


「うん。一年だもん。初めてだしそりゃ楽しみだよね。俺も楽しみだけど」


ニコッと笑う将也先輩、本当にかっこいい。


そっか、来月には文化祭かぁ。

楽しみだな、すごく。

どんな感じなのかもまだ知らないけど、早く中間テスト終わってほしいなぁ。


「文化祭ってどんな感じなんですか?」


「そうだなぁ……一言で言えば楽しい、かな。いつも通ってる学校なのに学校じゃないって思っちゃう。あ、ネタバレになるからこれ以上は言わないでおくよ。当日を楽しみにしてね」


学校が学校じゃなくなる……そんなの楽しみすぎるよ……!


けど、さっき将也先輩は、生徒会の仕事は多くなるって言ってたよね。

どんな仕事があるんだろう。


「あの、将也先輩。生徒会の仕事って何があるんですか?」


「……生徒会の仕事?」


将也先輩は目を大きくする。

あれ、どうしたんだろう。


「はい」


「いろいろあるけど……最近はやっぱ文化祭関係かな。テスト明けに文化委員会があるからその書類とかプログラムを作ったり、露店の業者さんとの連携もそうだし、あとは予算関係、くらいだけど」


「か、かなり多い、ですね……」


「そうなんだよ……生徒会メンバー4人しかいないから……」


よ、4人!?

あ、そっか、言われてみれば。

生徒会長、生徒副会長2人、会計委員長の4人が生徒会メンバーだ。


「厳しい感じですか?」


「……うん。俺も他のメンバーも部活あるし、キャプテンもいるし」


生徒会にキャプテンってすごい……!

プラス勉強もある。

2年の勉強でどんな感じなんだろう。

小テストも増えるって聞いたことがあるし、両立するの大変、だよね。


中学の私なんて苦手ばっかりで委員会に参加できなかったし、1学期の委員会何も入ってない。

私は自分を変えたいって思った。

だから今のままじゃだめだ。


「私、将也先輩の力になりたいです」


「……えっ?」


将也先輩を見てて、わかった。


「私、中学生の時にいろいろあって人と話すことが怖くなったんです。だからずっと1人で過ごしてたし、友達も少ないです。委員会にも参加しなくてずっと勉強ばっかりやってました。けど、それじゃだめだって思ったんです。変わらなきゃって思ったんです」


将也先輩の瞳が暗くなる。


まだ、人と話すのは少し怖いけど。

でもちょっとずつできるようになってきてる気がする。


「だから今は少しでも自分を変えようといろんなことにチャレンジしたいと思っているんです。私は……将也先輩みたいに、堂々としていて、周りから尊敬される人になりたい」


「俺、みたいな……」


「はい。そのためにも生徒会の仕事のお手伝いをさせてください」


1学期の委員会は無理でも2学期にもチャンスはある。

けど、行事でいろんな人が何をしてくれているのかをこの目で見てみたい。

それに、中間が終われば文化祭だし、文化委員の紘夢のことも手伝えると思う。


将也先輩は考え込んでしまった。

やっぱり、ダメかな。


少しすると、将也先輩は私をまっすぐな、いや、いつもと少し違うような瞳で見る。


「……俺のこと、そんな風に見てくれてありがとう」


と言って、小さく微笑む。

わっ、この人こんな笑い方できるんだ……!

眩しいんじゃなくてちょっと控えめで、でも何だか寂しそうな感じ。


「絵奈の気持ちはよくわかった。俺は全然大歓迎だけど、先生や他のメンバーに聞かなきゃだから。許可が出たらまた教えるよ」


そう言って、シャツの胸ポケットからメモ帳とボールペンを取り出し、すらすらと書いていく。

同時にあたたかい嬉しさがひろがった。


「はい!ありがとうございます!」


嬉しそうに微笑む将也先輩。

さっきの笑い方、ちょっと意外でびっくりしたかも。

何だか、寂しげに見えたけど、気のせいなのかな……


「って、それより紘夢たちと帰る約束してたんじゃないの?話しかけた俺が言うのもだけど」


紘夢、たちと帰る、約束……


「えっ?あっ、そ、そうだった!!」


「気をつけて帰ってね」


「はい!お先に失礼します!!」


急いで靴を履き替えて、校門に向かう。

許可が出たら、いっぱい頑張らないと!!



「……君は、他の女の子とは違うね」



そうぽつりとつぶやいた将也先輩の声は聞こえなかった。



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