第9話 ぎこちない会話

今日の模試が終わった。

昨日よりかは解きやすかったかな。

このあとはお弁当だ。


「絵奈、藤宮さんと食べるん?」


「うん、武尊は?」


「和真……平岡と食べるで」


「そっか」


平岡くん……分からない。

けど、何だろう、何だか違和感がある。

普通の会話だとは思う、けど……


教室を見渡すと、ももちゃんと目が合った。

……あ、そうだった、今日莉緒ちゃんが休みなんだよね。


実は昨日の帰りに莉緒ちゃんと連絡先を交換したの。

それで今日の朝、休むって連絡が来た。

たぶん、華音ちゃんのことを言いたいんだと思う。

だって、昨日の帰り、莉緒ちゃんすごく焦ってたから。

気まずい雰囲気をどうにかするためにずっとみんなの顔色見て話題を振ってた。


……何だったんだろう、あれは。

華音ちゃん、ももちゃんのことが嫌いなのかな。

彩花ちゃんはずっと華音ちゃんと話してたし。


「絵奈」


ももちゃんが私の席に来ていた。


「も、ももちゃん」


「一緒にお弁当食べよ」


「う、うん」


「何、具合悪いの?」


「ううん、そんなことないよ」


「……なら良いけ、」


「絵奈~華音たちも入れて~」


いつの間にかいた華音ちゃんが私にくっつく。


「わっ!」


華音ちゃんの横には彩花ちゃんもいる。

私と目が合うと、少しだけ笑った。


「うちらいい場所知ってるんだよね。教えてあげる」


「えっと……」


「あ、全然使っても良い場所だから安心してねー」


2人は私だけに話しかけてる。

私、ももちゃんと先に約束してたんだけど……

ダメだ、こんなの嫌だ。


「あの、ももちゃんも、」


ももちゃんの瞳が冷たくなっていた。


「絵奈、うちはいいよ。一人で食べる」


ももちゃんは自分の席に戻った。


「あ……」


痛い。

心が痛い。


「ほら、行こ~」


「早くいかないと場所取られるから」


2人に腕を掴まれそのまま連れていかれる。


「あ……うん……」


教室を見ると、紘夢が私たちを鋭い目で見ていた。

慌てて視線をそらすと、武尊とも目が合った。


……何なの、これ。

私は、どうしたら良かったの……?

彩花ちゃんと、今度は華音ちゃんもまた口元だけ笑っていたことに気づかなかった。



放課後。

午後は委員を決めた。

今日、放課後委員会があるらしく、慌ててみんなと決めた。


私は何も入らなかった。

武尊はまさかの学級委員。

決まると、クラスメートに囲まれててすっかり人気者になってて、女子からも男子からの評判は良かった。

号令の時なんか声が堂々としてて、かっこ良かったなぁ。


紘夢は……文化委員。

文化委員は文化祭経営が主な仕事みたい。


この時も盛り上がってたなぁ。

2人ともすっかりクラスの人気者。

女子の間では「ツイン王子」っていうあだ名がついてた。

けど、2人はぎこちなかったな。

全然話そうとしてなかった。

久しぶりだからかな。


……そういえば、彩花ちゃんと華音ちゃん、紘夢と武尊のことが気になってるみたい。

お弁当の時に話してた。

武尊くんと席近くていいなあって華音ちゃんに言われたけど、それはそれで気まずかった。

だから武尊と紘夢の委員が決まった時、彩花ちゃんと華音ちゃんは特にはしゃいで

て、楽しそうだった。


教室を見渡すと、紘夢は委員でいなかった。

ももちゃんも、彩花ちゃん、華音ちゃんもいなかった。


「絵奈、一緒に帰ろ」


武尊に声をかけられた。


「え、うん」


……何か、疲れたな。

ゆっくり階段を降りる。


「絵奈、大丈夫?」


「……えっ?」


「加藤さんと、森下さんにめっちゃ絡まれてるやん最近」


加藤さんは彩花ちゃん、森下さんは華音ちゃんのこと。


「……うん……」


私は全然良いんだけど、ももちゃんが……

お昼から話してない。

私は良いからって、結局一人で食べてたのかな。

……悪いことしちゃった。

無理にでも誘って置けば良かった。


ぽつ


「あ」


下駄箱で靴を取ろうとしたとき。

雨が降り始めた。

あ、たしか天気予報は雨って言ってたな。


「俺、傘あるからそれで帰ろ」


……そ、それって、相合傘だよね!?

さすがにそれは恥ずかしい!!


「い、いいいや?大丈夫!!」


「絵奈傘あるん?」


「教室に折り畳みがあるから取ってくる!」


「ちょ、絵奈!」


靴を上履きに履き替えて、階段を上がる。

教室は……空いてない。

ああ、しまった。

一階の職員室に行かないと。

すると、階段の方から足音が聞こえた。


「た、武尊!」


「もー、さすがに鍵空いてないやろ。俺らが出た時ほとんど人おらんかったし。ほら、鍵」


「ありがとう!!」


机に手提げをぶら下げているんだけど……良かった、あった。

教室を出る。


「折り畳みあった?」


「うん」


「じゃあ鍵返してくるから、先行、」


武尊が急に固まった。


「武尊?」


武尊は階段の上の方を見る。

ここは3階。

4階に行くと、特別教科の教室がある。


「絵奈、なんか聞こえへん?笑い声みたいなん……」


「え、そう?」


「……ちょっと見てくる」


「え、武尊!」


武尊は階段を上る。

……それも静かに。

私もそのあとを静かについていく。

な、何だろう。

何も聞こえないけど……


武尊が止まった。

階段の上り切ってすぐあるちょっと広いところ。

踊り場って言うのかな。

非常口の扉もある。



「マジであんた調子に乗っててきもいよね」


「モデルだからか知らないけど浮いてるし」


聞き覚えのある声。

え、これ、何……?

武尊がひょこっと覗く。

なぜか目が大きく見開いた。

そして慌てたように私を見る。


「先生呼んだ方が良いかも」


「な、何があったの?」


私も見てみる。

暗い廊下に黒髪の子がしゃがみ、壁にもたれてる。

彼女の前に見覚えのある子が2人。

その表情は口元だけが笑っている、あの表情。


「彩花ちゃんと、華音ちゃん……!?」


「そうやな。じゃあもたれてる子は藤宮さんかもな」



……も、ももちゃん……!?!?!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る