第12話 もう迷わない

言えた。

言っちゃった。


彩花ちゃんの表情がすっと冷たくなる。


「あーあ。せっかく絵奈がかわいそうだから誘ってあげたのに。絵奈も結局はこいつと同じじゃん。いい子ぶってきもすぎ」


冷たい目で私を見る彩花ちゃん。

別にいい。

きもくても何だって良い。

ももちゃんを守れたらそれで良い。


「華音ー早くー」


「待って、もう少しだからー」


またいつの間にかいなくなってた華音ちゃん。

一気に背筋がゾクってなったけど大丈夫。


「絵、奈、逃げて」


「……え?」


後ろからももちゃんの声が聞こえた。


「……逃げて、絵奈」


振り向くと、しゃがんでいたももちゃんは立ち上がろうとしていた。

濡れた前髪から見える顔は青白い。


……もしかして、熱……!?

風邪を引いたのかもしれない。

それならなおさらムリさせたらダメだ!


「ももちゃん、私は大丈夫」


「え、」


「あはは!これで絵奈もそいつと同じびっしょびしょだね」


彩花ちゃんの声にぎくっとする。

華音ちゃんがあのバケツを持ってこちらに向かってる。


「彩花に逆らった罰。謝っても遅いけどね~」


……いいの。

許さなくてもいい。

確実に悪いのはこの2人だから。


華音ちゃんがバケツを持ち上げる。


「それじゃ、」



「何してるの?」



「「「えっ?」」」


華音ちゃんの後ろ、小柄な男子が鋭い目で華音ちゃんを見ていた。


「「ひ、紘夢くん!?」」


華音ちゃんの後ろには華音ちゃんが持っていたはずのバケツを持った紘夢がいた。


……な、何で……!?

紘夢ってもう帰ったんじゃ、って今日たしか放課後に文化委員会あるって先生言ってたかも。


「ち、違うの!これは、」


「絵奈たちに何してんのって聞いてんの。てか仲良くもないのに紘夢くんって呼ぶなよ、気持ち悪い」


「ご、ごめん……」


華音ちゃんが涙目になる。

紘夢は彩花ちゃんを見る。


「お前らさ、平気で人いじめるとか何考えてんの?犯罪になるって知らない?

まあ、お前らみたいなのが知ってるわけないか」


「な、何よ!悪いのは全部こいつらでしょ!」


なぜか彩花ちゃんの顔はすごく赤い。


「絵奈たちはお前らに嫌がらせしたのか?いじめたのか?」


「それは……こいつらが調子に乗ってるから、」


「調子に乗ってるのはお前らでしょ。藤宮さんを仲間外れにしてるのクラスでも噂だし、浮いてるじゃん」


そ、そうだったんだ……


「……っ」


詰まった彩花ちゃんを見て紘夢は笑う。


「じゃあ、証拠はあるの?」


華音ちゃんが紘夢に聞く。

……証拠。


けど紘夢の表情は変わらない。


「あるよ」


と言うと、紘夢は階段の方を見た。

……階段?

そして、紘夢はニヤリと笑う。


「そんなに心配しないでよ。ちゃーんとあるんだから」


それはももちゃんに言ったのか、それとも彩花ちゃんたちに言ったのか。


すると、階段から背の高い男子が出てきた。

た、武尊だ。

そ、そうだ、武尊!!


「俺がちゃーんとここに残しておいたからなー」


ニコニコで出てきた武尊の手にはスマホ。

えっ、スマホ!?!?

それって、校則違反になるんじゃ。


「え、自爆じゃん。スマホ使ったら生徒指導になるんでしょ。てか盗撮するのきも」


彩花ちゃんが笑う。

それを聞いた武尊が真顔になる。


「そうやな。大事な幼馴染みたちがこんな目に遭ってるんやからな?俺は生徒指導になる覚悟でやった。この映像がいじめの確実な証拠になるなら生徒指導になっても俺は構わん」


た、武尊……


そんな、生徒指導になる覚悟って……

武尊の圧倒的な言葉に彩花ちゃんが悔しそうに黙り込む。


武尊は彩花ちゃんに近づく。

華音ちゃんの方も見た。

華音ちゃんはまた涙目になる。


ここからじゃ武尊の表情は見えない。

2人の顔が青ざめる。


「嫉妬で人を傷つける奴の方がフツーにだっさいし、藤宮さんと絵奈をいじめたあんたらの方が生徒指導になるんちゃう?……ええ加減認めたらどうや!!」


廊下に武尊の怒った声が響く。


「「ひっ……!!」」


武尊の声に2人がおびえる。

武尊、どんな表情をしてるんだろ。


「ここに確実な証拠があるからな。どうなるかは知らんけど?」


武尊が怒ってるの、初めて見たかもしれない。

紘夢もだけど。


「というわけで、2人とも職員室に行こっか。あ、でも、その前に絵奈と藤宮さんに謝って」


紘夢に言われた2人は何も言わない。

彩花ちゃんは悔しそうに、華音ちゃんは泣きそうな顔で私を見る。


「はよ謝れや。謝ることもできんのか?」


「……ごめん」

「……ごめんね」


武尊がまた怒ると、2人は謝ってくれた。



全員で職員室に行き、担任の先生を呼んだ。

先生はびしょ濡れのももちゃんを見て、すごくびっくりしてた。

武尊が説明すると、とりあえずももちゃんを保健室に連れていけと言われ、私が連れて行った。


ももちゃん、だいぶぐったりしてた。

それなのに一人で行けるからって言われて。

何でムリをするんだろうって思いながらも私は連れて行った。

保健室の先生はいた。

事情を話すと、保健室の先生はあとは任せなさいって言ってくださって。


保健室を出ると、担任の先生が私を待っていた。

詳しく聴くから、と生徒指導室に行くことになった。


初めて入った。

黒いソファがあって、片方に怖い顔の女の先生、もう片方には武尊たちが座っていた。

女の先生の隣に担任の先生、武尊の横に私は座った。


女の先生は生徒部という、校則違反者を取締ったり、校則の管理をする人らしい。

武尊と紘夢、私で騒動の流れを説明すると、先生は自分たちが見ただけじゃしっかり対応できないって言われた。

すると、武尊は「ここに確実な証拠があります」って言って、スマホを出したの。

女の先生は一瞬怪訝な顔になったけど、見せてって言われたので武尊は動画を再生した。


聞いてて辛くなった。

私……ももちゃんを守れなかった。

下を向いていると、武尊が背中を優しく叩いてくれた。

大丈夫、と言うように。


動画が終わると、先生は武尊に、


「スマホは緊急時にしか使えません。それはもちろん知ってますよね?」


と低い声で聞いた。

この時、彩花ちゃんは笑ってたんだ。


けど武尊は表情を変えずに、


「知ってます。けど、先生がおっしゃられたように僕らが見ただけじゃ証拠にはなりません。確実な証拠を残すにはこれしか方法が思いつかなかったんです。僕は、絵奈……西園たちを助けるためなら生徒指導になってもいい、その覚悟でやりました。規則を破ったことは反省してます」


って言ったの。

先生たちは考え込んで、


「いじめの確実な証拠になったので今回は生徒指導にしません。しかし、次はないですよ」


って言って、武尊は注意で済んで生徒指導にならなかったの。

そこはホッとした。

すると、先生は少し笑って、


「西園さんたち3人の勇敢な行動は評価します」


と、言われてびっくりしてしまった。

ほとんど紘夢と武尊のおかげで解決したんだと思うけど、褒められて嬉しかった。

もう帰っても良いと担任の先生に言われ、私と武尊、紘夢は帰ることにした。

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